第8話「続・8回裏」

 新入にいり太陽たいよう水無月みなつきあかねの野球拳式クイズ対決は、互いに臨界点到達を目前に迫っていた!


 現在、試合は8回裏ワンアウトである。


【現在のスコア】

 ○両者全問不正解ノーヒットにより、両者無得点


【太陽の着用物】

 ○スラックス

 ○ワイシャツ

 ○インナーシャツ

 ○パンツ(トランクス派)


【茜の着用物】

 ○学校指定ジャージ上

 ○インナーシャツ(高密着素材)

 ○ブラジャー(無重力)

 ○学校指定ジャージ下

 ○学校指定運動用短パン

 ○ショーツ(肉球柄)

 ◇絶対不可侵領域ノータッチエリア指定物…運動用ミドルブーツ(靴底が運動に適した高反発素材の物)


審判の財布ジャッジマンズ・ポケット

 ○ネクタイ(太陽)

 ○腕時計(太陽)

 ○ベルト(太陽)

 ○シュシュ(茜)

 ○必勝と書かれたハチマキ(茜)

 ○靴下右(茜)

 ○ブレザー(太陽)

 ○靴下(太陽)

 ○靴(太陽)

 ○靴下左(茜)


 太陽も茜も相手の出した問題に全く正解することが出来ず、揃って終盤全問不正解バックアタックルールの対象となり、この試合は未だに両者無得点にも関わらず互いに着用物を失うという異例の展開となっていた。


「たいよー!早く次の問題出して!」


 茜は追い詰められているはずなのにまだまだ元気一杯だ!!!


「わかったよ…問題。他よりも優れている物や人を指す故事成語の白眉はくびの…」


「ごじょう!!!」


「なっ!?」


 茜の回答に対して驚きの声を上げたのは、またもや霧子きりこだった。

 審判である霧子は本来は二人の試合を監視し、見守るだけの立場だが、霧子は2問続けて茜の回答に対して露骨に驚いていた。


「ちょっと霧子きりこさん。反応するのやめてもらえますか?霧子きりこさんの反応で水無月みなつきさんの回答が正解か不正解かわかっちゃうので」


「え?あ…そうね。私としたことが軽率だったわ。二人ともごめんなさい」


「いえ!だいじょーぶです!それよりもたいよー!正解!?不正解!?」


水無月みなつきさんが良いのなら僕も別に良いけど…さっきの霧子きりこさんの反応でわかったと思うけど、この問題も不正解だよ。答えは馬謖ばしょく。白眉の語源となった馬良の兄は誰?という問題だったけど、水無月みなつきさんの答えのごじょうって何だよ。沙悟浄のこと?」


「違う違う!ボクの言ったごじょうっていうのは…むぐ!?むひょう?」


あかねちゃん、その説明は必要ないわ。次の問題に集中しなさい」


 霧子は茜の口を手で塞ぎ、発言を遮った。

 実は茜はこう言おうとしていた。


『ごじょうって言うのは、馬氏の五常のことだよ!ばりょーは馬氏の五常のよんなんだよね!』


 よんなんとは、四男である。

 馬氏の五常とは、中国の三国志に記録が残る言葉で、四男の馬良と五男の馬謖を筆答とした馬氏五兄弟が優れた才気を持ち、その五兄弟のあざなに揃っての文字があることからそう呼ばれていたとされている。

 ちなみに、長男から三男までの名前は未だにわかっていない。

 その優れた才気を持つ馬氏の五常の中で、一際目立っていたのが馬良であり、馬良の眉毛には白い毛が混じっていたことから、特に優れた才気を持つものを白眉と呼ぶ。

 太陽はこれらの事を知らずに問題を出していたが、霧子は当然知っていた。そして、1つ前の問答に出た楊震ようしんに関しても霧子は知っていた。

 そう、霧子は問題の答えもそれに付随する様々な情報も知っていた。知っていたからこそ霧子は茜の回答に

 1つ前の問題、茜は71と答えた。

 何を隠そう、71という数字は楊震に関係している。なぜなら楊震は71歳でこの世を去っているからだ。

 茜はそれをわかっていて71と答えたのである。

 しかし、太陽はそれを知らなかった。知らなかったから茜の答えの真の意味がわからなかった。

 そして、太陽は白眉の馬良とその兄の馬謖は知っていても、馬氏の五常という言葉を知らなかった。

 要するに、茜はこの問題と1つ前の問題、出題者の太陽よりもをしていたのである。

 茜は2問続けて深読みし過ぎて不正解したが、太陽はそれに気がついていなかった。


あかねちゃん、不正解なのだから速やかに着用物を審判の財布ジャッジマンズ・ポケットに入れなさい」


「あ…はい!じゃあ…よいしょっと」


 ジー…ゴソゴソ…ファサッ。


 茜は上半身に着用していたジャージのジッパーを下ろすと、それを脱いで霧子の言う通りにした。


(うっ…Tシャツ姿になるとやはりな…目のやり場に困る)


 太陽はTシャツ1枚(正確には1枚ではない)になった茜の胸に目を奪われた。

 茜は細身ながら出るところは出ている体型であり、ジャージの上からでもその体型はわかるが、Tシャツ姿になるとその体型がさらに強調されていた。

 トランジスターグラマーとは、小型で高機能なトランジスターラジオのように、な女性のことを指す言葉である。

 え?

 この作品の紹介文に記載されている茜のプロフィールでは166cmだから、茜は小柄ではないだって?

 いや…まあ、それはそうだが………この話は終わりにして先に進もう!


「あー!いまボクのおっ…ボクの胸見てたでしょー!この変態!エロ魔人!」


「え!いやいや見てない見てない!つかエロ魔人はやめろって!」


 太陽は茜の豊満なバストに目を奪われていたが咄嗟に嘘をいた。


「ぜっっっっっっっったいに見てた!!!」


「ええ、視ていたわね。太陽たいようくんはあかねちゃんのおっぱいを視ていたわ」


「部長!おっぱいって言うのはやめてください!なんかいやらしいので!胸にしてください!」


「あらそう?わかったわ、あかねちゃん。太陽たいようくん、女の子は男の視線や目線に敏感だから胸を視るときは注意しなさい。ふふ…」


 霧子の言う通りである。

 女の子は男の視線や目線に敏感だ!

 男は女を視るが、女は女を視る男をているから注意しろ!


「うく……次の問題いきます!」


 茜と霧子に図星を突かれた太陽はこれ以上反論をしても無意味だと考え、出題へ移ることにした。

 そして…


あかねちゃん、不正解なのだから着用物を」


「はい!んしょ…」


 スルスル…パサッ。


 茜は再び不正解となり、下半身に着用していたジャージを脱いで審判の財布ジャッジマンズ・ポケットに入れた。

 この茜の不正解により、この回も太陽と茜は二人共に全問不正解ノーヒットが確定し、試合は本来なら試合終了となる9回を迎えることになった。


 果たして、二人は全問不正解ノーヒット状態から脱却し、その先にある勝利を得ることが出来るのか!?

 はたまた、このまま揃って全問不正解ノーヒットを続けて全裸必至の延長戦へと突入してしまうのか!?


 次回へ続く………

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