第7話「7回裏~8回裏」

 新入にいり太陽たいよう水無月みなつきあかねの野球拳式クイズ対決は、ついに互いに全問不正解ノーヒットのまま終盤戦を迎えていた!


「さて、互いに喉元にナイフを突き付けられた終盤戦の始まりよ。気を抜かずに集中しなさい」


 霧子が使った喉元にナイフを突き付けられたという言葉は言い得て妙であった。太陽も茜も揃って終盤全問不正解バックアタックルールが発動してしまった以上、出題も回答も一瞬たりとも気が抜けない状態となっている。

 この試合、ここから先はまさに地獄の扉門を開けた地獄の一本道ヘルズロードである!


「さっ!たいよー!問題いくよ!インド発祥のスポーツのカバディの攻撃者は…レイダーですが!レイダーは攻撃中にカバディと繰り返し発声し続けていないといけないよね!その発声のことを何て言うでしょう!」


「知らねえよ、そんなこと…シャウト?」


「ザンネン!キャントだよ!ちょっとだけ惜しかったね!続けて問題いくよ!」


 7回表、太陽は連続不正解を繰り返し、3点の着用物を失い、7回表が終わった。


【太陽の着用物】

 ○ブレザー

 ○スラックス

 ○ワイシャツ

 ○インナーシャツ

 ○靴下(三足で980円)

 ○靴

 ○パンツ(トランクス派)


審判の財布ジャッジマンズ・ポケット

 ○ネクタイ(太陽)

 ○腕時計(太陽)

 ○ベルト(太陽)


(やばいやばいやばいやばい!また全く答えられなかった!カバディとかセパタクローなんて名前しか知らないって!こんなことならスポーツの勉強しておけばよかった…くそ!水無月みなつきさんのことを考えればスポーツ関係の問題が来ることくらい予測できたはずなのに…)


 太陽は、後悔していた。

 茜を見縊みくびっていたことを…スポーツに興味がない故に何も覚えて来なかった自らのことを…


「たいよー!ゼッタイ負けないよ!ほら早く問題出して!」


(いやいや、水無月みなつきさん…わかってないのか?水無月みなつきさんだってここからはアウトになれば脱がないといけないんだぞ?それなのに問題を催促するなんて、怖いものなしか…それとも答える自信があるのか?)


 終盤全問不正解バックアタックルールの発動により静かになってしまった太陽とは対照的に茜は元気一杯だった。


「問題。俗にハングル文字と呼ばれる表音文字の正し…」


「韓国語!」


 茜は終盤全問不正解バックアタックルールが発動したこの回もまた早打ちをした。

 不正解なら即アウト、つまり、不正解なら即脱衣にも関わらず、茜は早打ちをしたのである。


(嘘だろ!?終盤全問不正解バックアタックなのにまた早打ち!?水無月みなつきさんは何を考えているんだ!)


 太陽はまだ気がついていなかった。

 読者の諸君は薄々気がついていると思うが、茜はのである。

 試合も終盤になり、この話もそろそろ結末に迫っている。

 ここで言っておきたいことがある…


 水無月茜はである!!!


 脳筋とは、脳味噌まで筋肉で出来ているという比喩であり、脳味噌まで筋肉で出来ていると感じられる様な考え方や思考パターンの持ち主に対して使われる言葉である。

 多くの場合、脳筋という言葉は侮蔑を込めて使われるが、茜に関してはそうではないと言っておきたい。

 茜はスポーツ関係に一途なあまり他の事に興味が向いていないだけであり、決して頭が悪いわけではない。

 少しだけ猪突猛進が行き過ぎる傾向にある可愛い女の子、それが水無月茜なのだ!


「たいよー!どうなの!?正解!?」


 茜はまだまだ元気一杯だ!!!


「いや、不正解…正解は訓民正音フンミンジョンウム。今の問題はハングルの正式名称は?という問題だった…」


「あら?太陽たいようくん、せっかく不正解にさせたのに浮かない顔ね。どうかしたのかしら?」


「別に何にもありませんよ、霧子きりこさん」


 太陽はこう言ったが、実際は少し気掛かりだった。

 茜がこのままの勢いで不正解し続けた場合、太陽次第では互いに全裸状態での延長戦もあり得る上に、延長戦にならずに太陽が勝利したとしても、たった1点取るだけで試合終了時には必然的に茜は全裸となってしまうからである。

 何度も言うが、太陽はである!

 童貞の男にとって女の裸体というのは喉から手が出るほどに見てみたいものだ。それも同世代の女のとなれば表現し難いほどに焦がれ、追い求めるものである。

 しかし、太陽は童貞あるとともに臆病者の意気地無しである。太陽の胸中には女の裸体を見たいという欲求よりも、見た後の気まずさが先にある。

 仮に二人が恋仲であれば裸体を見たとしても太陽も気にしなかっただろうが、二人の関係はあくまでも友達である。太陽は友達である茜の裸体を見た場合の以後の二人の関係がどうなるのかが予測出来ず、全裸を恐れ、この後の試合展開が気掛かりだったのである。


「あらそう?まあいいわ。とにかく、不正解なのだからあかねちゃんは着用物を審判の財布ジャッジマンズ・ポケットに入れなさい」


「はい!わかってます!」


 スル…シュっ!


 茜は手首からシュシュを取り、霧子の横に設置された審判の財布ジャッジマンズ・ポケットへ投げ入れた。

 試合は未だに0対0の膠着状態だが、脱衣という点においては膠着状態を抜け、共に着用物を失い始めた。


あかねちゃん。いつも言っているでしょう。着用物を投げるのは止しなさい」


「あっ!すみません!」


「わかればいいのよ。では、試合続行よ」


「よーし!次はやるぞー!」


 茜はなおも元気一杯だ!!!

 しかし、その元気に反して茜は不正解を続けてスリーアウトとなり、茜はこの回、先程のシュシュに加えてハチマチと右足に履いていた靴下の3点の着用物を失った。


【茜の着用物】

 ○学校指定ジャージ上

 ○インナーシャツ(高密着素材)

 ○ブラジャー(無重力)

 ○学校指定ジャージ下

 ○学校指定運動用短パン

 ○ショーツ(肉球柄)

 ○靴下左(茜)

 ◇絶対不可侵領域ノータッチエリア指定物…運動用ミドルブーツ(靴底が運動に適した高反発素材の物)


審判の財布ジャッジマンズ・ポケット

 ○ネクタイ(太陽)

 ○腕時計(太陽)

 ○ベルト(太陽)

 ○シュシュ(茜)

 ○必勝と書かれたハチマキ(茜)

 ○靴下右(茜)


 スルスルスル…パサッ。


「あ!ちょっと!脱いでる時にあんまりコッチ見ないでよ!たいよーのエロ魔人!!!」


「なっ!?」


 茜が右足の靴下を脱ぐところを見るともなく見ていた太陽は茜に怒鳴られた。その時、怒鳴った茜の顔は明らかに赤面していた。


(いや、脱いでるって靴下だろ…そんなに怒るところなのか?)


 茜が赤面になりながら怒鳴った理由が太陽には全く検討もつかなかった。


あかねちゃんが靴下を脱ぐ仕草に劣情を抱くなんて…太陽たいようくん、やはりあなたは足フェチを拗らせているようね」


「いやいや!違いますよ!別に靴下脱ぐところに興奮したりなんかしませんって!」


「興奮したのね…」


「いやだから違いますって!次!次の回いきますよ!チェンジです!ほら水無月みなつきさん、問題出して!」


 太陽は霧子に弄ばれることに耐えきれず、次の回へ急いだ。

 そして…


「ザンネン!正解はコマンドサンボだよ!」


「はい、アウト。これでスリーアウトね」


「う…」


 太陽は8回表もあっさりスリーアウトとなり、さらに3点の着用物を失った。


【太陽の着用物】

 ○スラックス

 ○ワイシャツ

 ○インナーシャツ

 ○パンツ(トランクス派)


審判の財布ジャッジマンズ・ポケット

 ○ネクタイ(太陽)

 ○腕時計(太陽)

 ○ベルト(太陽)

 ○シュシュ(茜)

 ○必勝と書かれたハチマキ(茜)

 ○靴下右(茜)

 ○ブレザー(太陽)

 ○靴下(太陽)

 ○靴(太陽)


 両者が共に全問不正解ノーヒット状態という異例の展開で試合は8回裏の茜の攻撃を迎えた。


「たいよー!ほらほら!問題出して!」


(水無月みなつきさん…このままだとどうなるかわかっていないのか?それとも僕に裸を見られてもなんとも思わないのか?)


 茜は依然として元気一杯だ!!!

 太陽は全く同様の感じられない茜の態度に戸惑いながら静かに出題を開始した。


「……問題。天知る、地知る、我知る、知るの四知で知られる楊震ようしんの…」


「ななじゅういち!」


「えっ!?」


 驚きの声を漏らしたのは審判の霧子だった。


「…霧子さん、どうかしましたか?」


「あ…いえ、何でもないわ。それで太陽たいようくん、あかねちゃんの回答は正解なのかしら?」


「…不正解です。答えは伯起はくき楊震ようしんあざなは何でしょうという問題でした」


「くー!そっちかー!」


 茜は今まで不正解を続けてきた時のリアクションとはあからさまに違うリアクションで悔しがっていた。

 それはまるで冷静に問題を聞けば正解することが出来たかのような悔しがり方だった。


「そっちってどっちだよ…つか答えの71って何だよ。いや、それよりもそろそろ早打ち止めとけって。終盤全問不正解バックアタックなんだぞ?このままだと…」


「まだまだ全然ヨユーだよ!まだ残り6点あるし!それにボクが後攻なんだからね!この回がダメでも、9回裏にでボクの勝ちだよ!」


 スルスル…パサッ。


 茜は言いながら左足に履いていた靴下を脱いで審判の財布ジャッジマンズ・ポケットへ入れた。

 これにより、茜の着用物は残り6点となった。

 残り6点とは、これ即ち、茜が全裸になるまでのカウントダウンである!


 そして、ここで時間停止タイムストップ

 茜の言葉におかしな点があると言われかねないので説明しておこう。

 何を?

 フッ、それは言わずもがなだろう…

 本当は諸君らも既にわかっているだろう?


 そう!についてだ!


 グッバイジョーとは、野球式クイズ対決を行う剣高クイズ部にのみ存在する用語であり、正式名はGood-bye,Joker...であり、最新版のルールブックには冗談みたいな結末グッバイ・ジョーカーと表記されている。

 なお、剣高クイズ部では基本的にカーの部分を略してグッバイジョーと呼ばれているが、この略語は同名の映画とは無関係でたまたま被っただけだから気にしないでほしい。

 では、正式名を知ってもらったところで、次はグッバイジョーの持つ意味について説明しよう。

 グッバイジョーは野球及び野球式クイズ対決でいうサヨナラホームランと同義である。

 正確には、サヨナラホームランと同義というより、サヨナラホームランによる決着のことを野球式クイズ対決ではグッバイジョーと読んでいる。

 なぜわざわざグッバイジョーと呼ぶのか?

 その理由は、野球式クイズ対決においてのサヨナラホームランによる決着は、まさにが訪れるからである。これは、サヨナラヒットでは起こらないサヨナラホームラン限定ルールである。

 大半の部分で野球式クイズ対決のルールを踏襲している野球式クイズ対決において、先攻側が圧倒的有利とされている。

 なぜなら、10点差で即試合終了コールドゲームになることや、先に相手を脱衣させるチャンスを得られることなどが先攻有利の要因として上げられる。

 しかし、野球式クイズ対決において、幾つか先攻が不利になるルールも存在している。

 その1つは今回の試合展開で欠かせない終盤全問不正解バックアタックルールだ。

 終盤全問不正解バックアタックルールは、今回の試合のように先攻も後攻も両者揃って対象となった場合、先に脱ぐのはである。太陽自身がどうなのかはわからないが、先に脱いでいくというのは当然の如く精神的圧力プレッシャーが先に掛かっていくということになり、後攻の回答者に対して出題を間違えるという事態も無いとは言えない。

 これにより、終盤全問不正解バックアタックルールは先攻が不利になるルールとされている。

 そして、先攻が不利になるルールの最たるものがサヨナラホームランによる決着、つまりはグッバイジョーである!

 なぜなら、野球式クイズ対決でグッバイジョーになると、勝者は敗者がいかなる状態であってもという特殊ルールがあるからだ!!!

 本来、0対1で勝った場合は相手の着用物を1点のみしか奪えない。

 仮に、0対1でサヨナラヒットによる決着となった場合、審判や対戦した当事者同士で試合結果を共に認めあって試合終了が確定するまでの僅かな時間、たった1点の着用物を奪うだけで終わってしまう。

 そして、試合終了が確定したら着用物は速やかに持ち主に戻る(圧倒的敗者ノーヒットノーランの場合などは戻らない)のだが、グッバイジョーの場合はそうはならない。

 例え1点差であっても、勝者は相手を全裸にしたければ全裸にすることが可能であり、試合終了が確定するまでは相手の姿姿を堪能出来るのである!

 ちなみに、野球式クイズ対決では、相手を全裸にして勝利した場合とグッバイジョーでの勝利の場合、試合終了の確定前に1分間の至福の刻ハッピー・タイムが与えられる。

 この間、敗者は何らかの物を用いて身体からだを隠すことは許されていないため、恥ずかしい姿を勝者に好きなだけ見られてしまうが、自身の手や足などで身体を隠すことや、走らなければ部室内を動き回ることは容認されている。

 なお、この至福の刻ハッピー・タイムは勝者が試合中に使い残したタイム制度の残り時間だけ延長出来る。

 仮にタイム制度を3回残して至福の刻ハッピー・タイムを獲得した場合、その制限時間は4分となる。

 今回の説明はこの辺りでいいだろう。


 では、時間停止タイムストップ解除!


「グッバイジョーなんてそんな都合よく起きるわけ……」


(いや待てよ?水無月みなつきさんは全てホームラン狙いだ…もし僕が9回も得点出来ずに終われば……)


 太陽はここに来て茜の回答方法スタイルに若干の恐怖を感じた。1問でも正解されたら即グッバイジョーになる恐怖を…


 互いにを目前にしたこの試合の結末は果たしてどうなるのか!?

 茜は臨界点に到達してしまうのか!?

 太陽の臨界点に需要はあるのか!?

 一応説明しておこう、臨界点とは全裸になることである!

 二人の裸体を賭けた試合は最終局面クライマックスを迎える!


 ズガーン!※落雷のSE※


 次回へ続く………

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