第5話「1回裏~2回表」

 新入にいり太陽たいよう水無月みなつきあかねの野球拳式クイズ対決は、1回裏の茜の攻撃が始まるところだった。


 1回表、太陽は茜の出した問題に全く正解できずに凡退していた。

 茜は、類い稀なる運動能力を持っている代わりに勉強が苦手なため、脳味噌まで筋肉という噂まであるが、そのの茜が出した問題は噂に反して、太陽が全く聞き慣れない言葉が使われるという難しい問題ばかりであった。

 そしてこの回、茜が回答者となることで、茜が本当に脳筋娘か否かが試されることになる。


「さあ、次はあかねちゃんの攻撃よ」


「はい!アブドゥアーのためにもガンガン答えてガンガン点取ります!」


「その意気よ。ほら、太陽たいようくん。あかねちゃんは既に出題待ちになったわ。カウントダウン開始よ」


(霧子きりこさんは水無月みなつきさんを応援してるのか?いや、そんなことより、水無月みなつきさんのが読めない以上、1問目から難しい問題を出すべきか?それとも簡単な問題を出して反応を見るべきか?)


 太陽は1回表の攻撃を全問不正解ノーヒットにされたことにより、対戦相手の茜の知識と教養の範囲レベルがどの程度なのか全くわからなくなっていた。

 そして、出題時間ギリギリまで悩んでから出題を開始した。


「問題。俗に言う戦国時代に活躍した武将で…」


織田おだ信長のぶなが!」


 茜は太陽の出題を最後まで聞かずに早打ちした。これが正解ならホームラン、不正解ならば即アウトである。


「なっ!?み、水無月みなつきさん?」


「ほら!たいよー!答えは!?正解か不正解かどっち!?」


「え!?…あ、ああ。不正解だ。答えは織田おだ信長のぶながじゃなくて、藤堂とうどう高虎たかとらだ」


 太陽は明らかに茜の早打ちに面食らっていたが、不正解だったことに安堵しながら答えを言った。


「えー!?誰それ!?ほんとに信長のぶながじゃないの!?」


太陽たいようくん、あかねちゃんに出題を最後まで聞かせてあげなさい」


 霧子が審判として太陽に指示した。

 回答者が早打ちをした場合、出題者はその回答の正解不正解を問わず問題を最後まで聞かせる決まりとなっている。


「わかりました。…戦国時代に活躍した武将で、宇和島城、今治城、篠山城、二条城などを築城し、何度も君主を変えたことで有名な武将は誰でしょう?」


「なるほど、確かにその問題の答えは藤堂とうどう高虎たかとらね。高虎たかとらはなぜだか名前が一般人にあまり浸透していない可哀想な武将ね。戦国武将の中でも数少ない築城の名人の一人であり、様々な君主の下を渡り歩いて自力で成り上がった実力者なのだけれど、裏切りを繰り返しながら君主を変えたわけでもないのに義に背いているとか、節操がないとか、過小評価されているわ」


 霧子が太陽の解答を補足した。


霧子きりこさん、可哀想な武将とか言ったら失礼ですよ」


「そう?何にしてもこれでワンアウトよ」


「うー!なんて知らないし!戦国武将と言ったら信長のぶながでしょー!?なんで違う人出すかなー!?もー!次!次の問題!」


 茜は問題に文句を言いながら太陽に問題を催促した。


「いや、信長のぶながが答えの問題とか普通作らねえし…簡単過ぎだろ。まあいい、じゃあ次の問題な。太陽系の惑星の中で太陽の次に大きいのは木星ですが…」


「月!」


「んなっ!?」


「んなっ、じゃないよ!月!答えは月だよ!どう!?正解!?」


 茜は再び太陽の出題を最後まで聞かずに早打ちをした。

 二度繰り返された茜の早打ちに太陽は明らかに驚いていた。


「…ほら、太陽たいようくん。ぼやぼやしていないで解答と問題を言いなさい」


「えっ?あ、はい。答えは凡そ560メートルです。問題は、太陽を直径1メートルの球とした場合、木星までの距離は?という問題でした」


「もー!なにそれ!たいよーの出す問題は意味わかんない!次いこ!次!」


(いやいや、水無月みなつきさん。問題最後まで聞かないで意味わかんないとか言われても…というか、2問続けて早打ちした上に全く検討違いな回答って…まさかなあ)


 太陽はまだたった2問しか出題をしていないが、茜の回答パターンに疑念を抱きつつあった。

 そして、それを確かめるようにしながらゆっくりと3問目の出題を始めた。


「問題。雨の日に…」


「傘!」


「ちょっ!?ちょっと待った!!」


 太陽は思わず大声を出していた。


太陽たいようくん、あかねちゃんは答えを言っただけだから異議は認められないわ。それよりも、解答と問題を言いなさい」


 太陽のは審判の霧子により却下され、太陽は仕方なく解答と問題の説明をした。その結果、茜はまた不正解だった。

 これにより、スリーアウトとなり、この回の茜の攻撃は終了したのだが、太陽の心の中には茜を抑えた安心感よりも、一抹の不安がよぎっていた。


(3連続早打ち失敗…もしかして水無月みなつきさんは全問ホームラン狙いか?そんなことされて、もし連続正解されたら……)


 3連続早打ち失敗でスリーアウトとなったことから、太陽は茜が全問ホームラン狙いとその危険性を感じ取っていた。

 太陽はこの言葉を知らなかったが、この全問ホームラン狙いというのは、野球式クイズ対決において1点突破ワンフォーオールと呼ばれる回答スタイルであり、最低54問の回答機会が与えられるところが半分の27問になる代わりに、正解すれば問答無用でホームランとなる捨て身の戦い方スタイルである。

 そして、この太陽の読みは当たっていた。

 水無月茜は、過去全て1点突破ワンフォーオールのみで戦っている。


「たいよー!問題いくよ!」


「あ、ああ。わかった」


 この掛け合いにより、2回表が始まった。


「問題!日本では黒い魔術師の異名で知られる元プロレスラーのアブドーラ・ザ・ブッチャーの本名は!?」


「知るか!いい加減にやめろ!」


太陽たいようくん、文句は慎みなさいと言ったはずよ」


 太陽はまた出題に文句を言って霧子に叱責されたが、太陽が文句を言うのも無理からぬことであった。

 なぜなら、作中では割愛した1回表のラスト2問の問題もアブが入った言葉の問題であり、茜の出した問題はこれで累計6問連続アブだった。

 そして、茜はこの問題から更に4問続けてアブという言葉を入った問題を出した。

 太陽はその全てに不正解となり、2回表はあっさりとツーアウトワンストライクとなった。


(くそ…アブアブ言って何のつもりだよ…)


「問題!このポーズの名前は?」


 茜は出題と同時に頭の後ろで両手を組んで左足を軽く前に出した。


「………わかるか!アブシリーズ終わったと思ったら何だよその問題は!?回答放棄ギブアップ!」


「ふふ、太陽たいようくん。アブシリーズは終わってないわよ?」


「は?」


「そーだよ!だってこのポーズはアブドミナルアンドサイだからね!」


「もう勘弁してくれよおおおお!!!」


 太陽の嘆きの声と共に2回表は終了した。

 そして、ここからこの対決は一気に加速していく。


 次回へ続く………




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