第2話「試合開始!」

 新入にいり太陽たいよう水無月みなつきあかねの野球拳式クイズ対決は、試合開始直前に思わぬ事態が起きた。


 茜の口から絶対不可侵領域ノータッチエリアを指定したいという申し出があったのだ。

 絶対不可侵領域ノータッチエリアを指定した場合、指定した着用物は試合中に失点することで着用物を失う野球拳式クイズ対決にいて、それを奪われることはなくなる。

 これはつまり、絶対不可侵領域ノータッチエリアを認めてしまうと野球拳、いては野球拳式クイズ対決にとって絶頂の瞬間クライマックスである一糸纏わぬ姿…全裸になるという場面が無くなることを意味している。

 そんなことがあって良いのだろうか!?


 否!


 否!!


 断じて否!!!


 茜の提案を聞いた太陽はそう思っていた。


「勝手に僕の考えにしないでください!」


太陽たいよう!あなたまたわね!しかも今度は地の文ナレーションを」


「あ、すみません。つい…」


「次に読んだらよ」


 太陽と霧子は端から見たら意味のわからない会話をしていた。

 その様子を不思議な顔をして見ていた茜が再び口を開いた。


「あの…部長?やっぱり、ダメなのでしょうか?」


 無論だ!!!

 恐らく霧子はそう言おうとしていたはずだった。

 しかし、霧子の口から出たのは意外な言葉だった。


「ふふ、良いわよ」


「えっ!?ほんとですか!?」


 なーんて、うっそぴょーん!!!と、霧子が言う場面だった。

 だが、ほんの少し間を置いてから出た霧子の言葉はそれとは違っていた。


「…ええ、本当よ。私に二言はないわ。ただし、この試合で絶対不可侵領域ノータッチエリアに指定出来るのは互いに1点のみ。尚且つなら良いわ」


 絶対不可侵領域ノータッチエリアが1点で、尚且つ身体を覆う衣類禁止というのは、実質的には裸体を隠せるものは残せないという意味であった。


 ここで、二度目の時間停止タイムストップ


 そろそろ読者の諸君も気になっていると思うので、今回の脱衣セクシー担当…もとい

 今回の太陽の対戦相手である、水無月茜の今日の着用物について番号をつけて羅列しておこう。


 ①シュシュ(猫の足跡柄)※手首に着用※

 ②学校指定ジャージ上

 ③インナーシャツ(高密着素材)

 ④ブラジャー(無重力)

 ⑤学校指定ジャージ下

 ⑥学校指定運動用短パン

 ⑦ショーツ(肉球柄)

 ⑧靴下(猫の足跡柄)

 ⑨運動用ミドルブーツ(靴底が運動に適した高反発素材の物)

 ⑩必勝と書かれたハチマキ(数合わせ)


 以上の10点が今日の茜の着用物である。

 この内、②から⑦までが霧子の言った身体を覆う衣類に該当する。


 今回は需要の薄い太陽の着用物も一応羅列しておくことにする。


 ①ブレザー

 ②スラックス

 ③ワイシャツ

 ④インナーシャツ

 ⑤ネクタイ

 ⑥靴下(三足で980円)

 ⑦靴

 ⑧腕時計(スポーティーデジタル)

 ⑨ベルト(数合わせ)

 ⑩謎のチェーン(財布に繋がっている模様)


 以上の10点が今日の太陽の…間違えた!

 正しくは、⑩はパンツ(トランクス派)である。

 危うくノーパンの変態男にするところだったが、太陽は元々そんな感じだから気にすることもないだろう。


 では、時間停止タイムストップ解除!


「やったー!!ありがとうございます!!部長!!ボクはこのブーツを絶対不可侵領域ノータッチエリアに指定して、靴下を左右別々に分けますね!」


「え!?………そ、そう?あかねちゃんがそれで良いなら良いわよ。これで、今回の試合は今までで初めて絶対不可侵領域ノータッチエリアを指定して行う試合になるわね」


 霧子は喜んでブーツを指定した茜の反応に明らかに驚いていたが、それも無理からぬことだった。

 普通ならば、絶対不可侵領域ノータッチエリアを指定するとなると身体を隠せる物を指定するのが当たり前だからである。と言っても、このルールが適用されるのは今回が初めてなのでという基準はないが、女の子として裸体を晒さないで済む物を絶対不可侵領域ノータッチエリアに指定したがることは簡単に予測出来ることであり、霧子の口から出た身体を覆う衣類は指定禁止という発言パワハラに対して、女の子である茜から抗議があってもおかしくはなかった。

 しかし、茜は霧子の発言パワハラをあっさりと受け入れてブーツを指定した。

 これにより、茜の着用物は以下の通りに変化した。


 ①シュシュ(猫の足跡柄)※手首に着用※

 ②学校指定ジャージ上

 ③インナーシャツ(高密着素材)

 ④ブラジャー(無重力)

 ⑤学校指定ジャージ下

 ⑥学校指定運動用短パン

 ⑦ショーツ(肉球柄)

 ⑧靴下右(猫の足跡柄)

 ⑨靴下左(猫の足跡柄)

 ⑩必勝と書かれたハチマキ(数合わせ)

 ◇絶対不可侵領域ノータッチエリア指定物…運動用ミドルブーツ(靴底が運動に適した高反発素材の物)


 これはまさしく、まさかの展開である。

 茜がブーツを絶対不可侵領域ノータッチエリアに指定したため、もし太陽が10点差を付けた場合、茜はのみという非常に変態的マニアックな格好になってしまう。


霧子きりこさん、僕は腕時計を絶対不可侵領域ノータッチエリアに指定します」


 暫く何も言わなかった太陽が審判である霧子に絶対不可侵領域ノータッチエリア指定物を伝えた。


「は?太陽たいようくん、あなた何を言っているの?もう午後三時半過ぎなのにまだ寝惚けているのかしら?それともあなたは真性ほんもの童貞バカなの?」


「いやいや、なんか二人して僕の扱い酷くないですか!?絶対不可侵領域ノータッチエリアを指定しただけでバカ呼ばわりなんて…というか今のバカという言葉には物凄い悪意が感じましたけど…霧子さん、まさかまた変な読み方してませんか?」


 太陽は不意に霧子から罵られたことが理解出来なかった。

 しかし、その反面で真性の童貞バカという霧子の言葉を読みつつあった。


「私が何かおかしなことを言ったかしら?というか、次にら折檻と言ったはずよ。そんなに折檻されたいの?ふふふ…」


「う……何でもないです。じゃなくて!何で僕はバカと言われたんですか!」


「そんなの決まっているじゃない。あなたが絶対不可侵領域ノータッチエリアに腕時計を指定するとか言うからよ」


「いや、腕時計はセーフでしょう?衣類ではないですし身体も覆いませんし…」


「はぁ……………ちっ……」


(う………今絶対に舌打ちしたよな?怒らせちゃったか?霧子きりこさん怒るとすごい怖いんだよなあ…普段からみたく可愛くしてくれないかなあ…そうすれば本当にパーフェクトなのに……)


 霧子が浅くため息をついた後に小さな舌打ちをしたことで、太陽は威圧感によって身体を緊張させていた。

 同時に心の中は先週の霧子の可愛さを思い出して弛緩していた。


太陽たいよう!一度しか言わないからよく聞きなさい!」


「は、はい!」


 霧子は太陽を呼び捨てにした。


絶対不可侵領域ノータッチエリアの指定は女性限定ルールなの。太陽たいよう、あなたは女なの?違うでしょう?だから指定は出来ないの。わかった?」


「女性限定ルール!?いや、だってルールブックにはそんなこと…」


「この私がルールブックよ!!!」


 ズガーン!!!!※落雷のSE※


 その言葉は様な衝撃の一言だった。


 !!!


 偶然か必然か、要素がある野球拳式クイズ対決において、それも今回の試合でを担当する霧子から、そう言われてしまってはも出ないのである。


(そんな…やっぱり霧子きりこさんって色々とずるいですよ…二出川にでがわ延明のぶあきなんて読者は誰も知りませんって……)


 太陽は心の中で愚痴っていた。

 しかし、そんな太陽とは裏腹に、自分の提案が通って機嫌が良くなった茜は、太陽に向けていた刺々しい態度を少しだけ柔らかくしていた。


「まあまあ!ドンマイだよ!たいよー!」


 茜は初めて話したその日から太陽のことをたいよーと読んでいる。


(水無月みなつきさん…そうだ。こんなことで目的を失ってはダメだ。今日は絶対に脱がないし、脱がせない!)


 太陽はこの試合の結末を既に描いていた。


 そして、試合開始の時間がやって来た。


「厳正なコイントスの結果、表が出たので、この試合の先攻は表を選択した太陽くんに決まったわ。新入にいり太陽たいよう水無月みなつきあかね。二人とも互いに全力を出しあってせいぜい脱がされないように頑張りなさい。それでは…」


(せいぜいって……ん?霧子さん?)


 審判として試合開始のコールをする直前、霧子は太陽の肩を指でつつき、コイントスに使用した1セント硬貨ペニーを太陽にだけ見える様にしてと回転させた。

 余談だが、野球拳式クイズ対決で何らかの理由でコイントスを行う場合、ラッキーペニーの話が有名な1セント硬貨を使用する決まりとなっている。


(んなっ!?ちょっ!?霧子きりこさん!それどっちともリンカーンじゃないですか!何でそんなことを!)


 霧子が太陽に見せたコインは両面共にエイブラハム・リンカーンがいた。つまりは両面共に表面のデザインが刻印されてイカサマコインだった。正式にはイカサマコインではなく、極めて珍しい両面とも表面が刻印されたエラー硬貨であるが…ともあれ、霧子はイカサマをおこなって意図的に太陽を先攻にしたのだった。

 ちなみに、霧子がいつも履いているローファーはコインローファータイプてあり、これは別名ペニーローファーとも呼ばれているものである。そして、このコイントスに使用した1セント硬貨ペニーは霧子がローファーに挟んでいた物である。

 ペニーローファーの由来についての説明は割愛するので気になった人は自分で調べて欲しい。

 知識とは、他者から簡単に教えられるよりも、自らがそれを調べることでより記憶に残るものなので、何かについて気になったときには自分で調べることが大切だぞ!


(なんで!?どうしてそんなことを!?そんなことまでして僕を先攻にする理由は!?)


 イカサマをしてまで太陽を先攻にした霧子の意図を全く理解出来ない太陽の心を置き去りにしたまま、霧子の口が開いた。


「試合開始!!!」


 ついに、運命(?)によって紡がれた同級生対決が始まった!


「たいよー!さっそく第1問いくよ!」


「う…あ…わかった」


(くそ!今は霧子きりこさんの意図を推し量るよりも試合に集中だ!)


 動揺したままの太陽に茜は元気よく出題を開始した。


「問題!まずは簡単な常識問題から!ボクが試合に勝ったら買って貰える約束のアブドゥアーの開発者の名前は何でしょう!フルネームで答えてね!」


「だからアブドゥアーってなんなんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」


 部室内に太陽の嘆きとも言えるツッコミが響き渡った。

 ちなみに、剣高クイズ部の部室は完全防音なのでどんなに大声で叫んでも外部に音が漏れることは一切ない。


 こうして、太陽と茜の野球拳式クイズ対決は幕を開けた!


 果たしてどちらが勝つのか?

 太陽を先攻にした霧子の意図は?

 この戦いの結末は?


 様々な伏線ことが絡み合いながら戦いは進んでいく。


 次回へ続く………



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