作戦終了

結果発表!

 競技は全て終わった。

 転送装置から雪都ゆきとかなめが戻ってくると、残っていた見習いたちが全員拍手で出迎えてくれた。


「教官、お疲れ様!」

かなめさんも、おかえりなさい!」

gratulierenグラトリエレンっ!」

「いかがでしたか? 楽しかったですか?」


「皆、出迎えありがとう。かなめさんも競技に?」

「はい、あのあと私もすぐに試合が決まったようでして、すぐに呼び出されたんですよ。ふふっ……なんだかこうして、二人で並んで出迎えられると、まるで結婚式みたいですね♪」

「ええっと……」


 雪都ゆきとと並んで転送装置から出てきたかなめは、そんなことを言ってすぐに彼の腕をぎゅっと抱きしめた。もちろん、唯祈いのりがそれを黙って見過ごすはずがない。


「あーっ! かなめさんずるいっ! あたしもっ!」

「まったく、唯祈いのりかなめさん見境ないんだから…………」


 唯祈いのりは、雪都ゆきとの空いているもう一方の腕にぎゅうぅっとしがみついた。相変わらず困惑する雪都ゆきとをみて、来朝らいさはやれやれと首を振るのだった。

 しかも、こういう時に限って天使ステラエルは止めようとしない。


「えへへ~、神父様の代わりなら私がやってもいいですよ♪」

「あんたにはこういう時こそ止めてほしいんだけど…………」

「天使にとって、恋愛は大好物なんですよ! 天使は恋愛厳禁ですから、むしろ羨ましいくらいです」

「そうだよっ!(便乗) イノリ先輩とカナメさんが教官を取り合うのは、見ててすっごく楽しいもんね!」

「ねーっ」


 精神年齢と感性が近いからか、せいとステラエルはすっかり意気投合しているようだった。

 今日何度目かわからないあきれ顔をした来朝らいさは、目線で摩莉華まりかに助けを求めた。


「はいはい、皆さん。それより結果発表の時間ですよ。それが終わったら、ステラエルさんが温泉にご案内してくれるそうです」

「助かりました摩莉華まりかさん。皆さん今は控室のソファーに集合しましょうか」

「えへへ、私もちょっと忘れてました♪」


 なんとか腕の引っ張り合いから逃れた雪都ゆきとだったが、結局結果発表の時もソファーの両側には自分を狙う女性二人が、しっかり両脇を固めていた。


「はーい、それでは全体成績の発表です!


 SSSの皆さんの総合戦績は『7勝 4敗 2分』! わあぁ、凄いですね☆! 引き分けを負けにカウントしても勝ち越しですよっ!

 個人成績は


 唯祈いのりさん:1勝 1敗

 来朝らいささん:1勝 1敗 1分

 せいさん:1勝 1敗

 摩莉華まりかさん:2勝

 かなめさん:2勝

 雪都ゆきとさん:1敗 1分


 でした~! 負けなしの人が二人もいるなんて、私も驚きです! でもなんで教官さんが1勝もできていないかは謎です♪ 教官さんの面目丸つぶれですね?」

「返す言葉もありませんね……。結果がすべてである以上、私の力量不足を認めるほかありません」

「そんなことないよ教官! 私の時だって、相手に何もできずにやられちゃったこともあるし!」

「そうですよ雪都ゆきとさん! 私なんてもう、どっちもズタボロになるくらい酷かったんですから!」


 意外にも、個人戦績が一番悪かったのがメンバーの中で断トツで強い雪都ゆきとだった。唯祈いのりかなめは、雪都ゆきとを必死でかばおうとしたが、当の本人はそこまで落ち込んでいなかった。


「マリカ先輩とカナメさんはすごいねっ! なんたって、負けなしなんだよっ!」

「ありがとう、せいちゃん。私の場合は、どっちも相手が自滅しちゃったからだけど、それも時の運ですわ」

「時の運か…………私はなんだか、地味な戦いばっかりだったかも」

「そんなことないですよ来朝らいささん! あの氷の上ですっぽんぽんになったのは――――」

「あーっ! あーっ! 思い出させないでっ!」


 勝ったこともあれば、負けたこともあったが、どれもこれもメンバーにとっては悲喜こもごもの思い出だ。

 しかし、この控室に来てからずいぶんと時間がたったように思えるのに、じつはまだ半日ほどしか経過していないというのも不思議な話だった。


「あたしがピ愚民たちと戦ったのは、1か月くらいの長さに感じたのに、なんだか夢を見ていたかのように、時間が朧気なんだ」

「そういえば私も、向こうの世界で夜も入れて四日過ごしたはずなのに、終わってみれば数分くらいしかたっていないように思えるわ」

「皆さんの話を聞いていると、実に興味深いですね。実世界の常識が通用しないとなれば、今後の活動の転換となるかもしれません」


 ともあれ、彼らはそれなりの成績を上げたことは確かだ。

 上層部にこのことを報告すれば、おそらく色よい返事が得られることだろう。


「そういえば皆さん、すっかり忘れていましたけど、皆さんが好成績を残しましたので、私の上の方にいる神様が「好きな願いを一つ叶える」権利をもらえるそうですよ! よかったですね!」

『願いをかなえる権利?』


 戦いが全部終わった今になって、ステラエルはさらっととんでもないことを口走った。そのせいで、SSSのメンバー6人は、異口同音に困惑してしまう。


「あのね、そういうのはもっと早く言ってよ」

「えー、でも初めからそれを教えたら、皆さん手段を択ばなくなるじゃないですか? それじゃ詰まらないなって♪」

「…………結果的に平常心で戦えたのはいいですが、せめて代表者である私には相談していただきたかったですね。しかし、いきなり願いを一つと言われましても」

「しかも人数分じゃなくて、全体で一つ……唯祈いのりかなめさんは喧嘩しそうだから、きちんとみんなで話し合おうか」

Genauゲナウっ! 確かにっ! 私でも小さいことに使っちゃいそうだから、みんなで決めた方がいいよね!」

「では、後でお風呂に入りながらゆっくりと考えましょう。それでもいいわよね、ステラエルちゃん?」

「もちろんです♪ 誰が雪都ゆきとさんと結婚するか、よく話し合って決めてくださいね♪」

「「…………」」

「コラ、いちいち燃料投下しないでっ!」


 ともあれ、SSSの任務はこれにてほとんど完了だ。

 後は「叶えたい願い」を一つ決めるだけだが、それはこの後、温泉での女子会議で決定されることになるだろう。

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