疑心の先に待つ奇跡 4

 会場全体ではなく、半分程度の面積の中で重点的に点数を稼ぐという雪都ゆきとの作戦は、試合開始直前から決まっていた。

 しかし、この作戦で100%勝てるという保証はないことは、彼自身よく理解している。最悪、すべての得点源が左右対称に配置されている可能性も考えたが、真っ先に目星をつけたテントの番号が、半分以内の面積の中で三つ得点になったのだから、そのような意地悪な仕掛けはないと彼は判断したのだった。


「とはいえ…………予想以上に不毛ですね。これだけ探しても、まだ27点にしかならないとは……」


 そう独り言ちながら、雪都ゆきとは手に持っている大学ノートをちらっと開き、書き込まれているメモをパラパラとみなおした。

 メモに使ったノートとペンは、雪都ゆきとが初めから持っていたものではなく、その辺にあった露店から勝手に拝借した物品だった。これらの筆記用具がペアになるものの一つだとしたら、ずいぶんと勿体ないことをしていると思うのだが…………そんなことが気にならないほど、ペアになる品物がのだ。


「数千……いえ、数十万点はある品物の中で、比較的判別しやすいものだけだとこの程度。と言うことは、ペアとなる品物の含有率は非常に低いと言わざるを得ませんね」


 700m四方の駐車場には、テントの数が全部で約5440区画存在し、その半分と少しだけでも約2800もの露店が存在することになる。

 そして、露店に並べられている品物の数が、かなり少なく見積もって仮に平均100個だとしても、実に28万個にもなるわけで、こまごました品物がたくさんあることから、実際はもっと多くなるだろう。

 その中から目立つものを優先したとはいえ、テントを含めてたったの27ペアしか作れないのは、明らかに少なすぎる。この様子では、半分だけを重点的に見ても、ペアが99作れる可能性は相当低いと思われる。


(目論見は失敗、ですね。まあ、事前の作戦と言うのは得てしてそのようなものです。あとは、どのタイミングで手を付けていない区画に足を運ぶか…………うん

?)


 突然――――競技会場全体に、やや強めの風が巻き起こった。

 普通の人間ならばかなり歩きにくくなり、目を瞑ってしまうほどの強風……今まで無風だった会場にこのような突風が吹き荒れる原因は、楓迦の存在以外考えられなかった。

 雪都ゆきとへの妨害行為ともいえなくもないのだが、彼自身は走るのに何の支障もないどころか、吹いている風に乗れば今まで以上に早く動けるので、むしろ助かる面も大きいのだが………………それ以上に彼は、信じられないものを見た。


「細かい品物が……! ふぅ――なるほど、その手で来ましたか。さすがは風の大精霊。本領発揮と言ったところですね」


 会場全体にある品物の中から、紙や袋など非常に軽い品物が、まるで羽虫が群れるように強風で舞い上がっていき、それらはすべて会場中心の上空にいる楓迦のもとに引き寄せられるように集まっていった。


『探しに行く必要などない…………品物の方から来させればいいのです。ふふふ……雪都ゆきとさんは驚きますでしょうか? あの済ました顔が愕然となる瞬間を見れないのは少々残念な気もしますね』


 彼女が考えに考えた方法は、一定の重さの物だけを引き寄せる風を会場全体に渦巻かせて、一か所に集めてから一気にペアを作ってしまうというものだった。

 これなら会場全体からペアを選べるし、なにより雪都ゆきとの作戦を大きく崩すことが可能だ。

 かなり強引な力技であるが、あまり多く引き寄せすぎても判別が困難になるだけなので、特定の重さの物だけを浮かび上がらせるだけの慎重な魔法の使い方が要求される。まさしく、風の魔法そのものである楓迦にしかできない芸当であり、敵である雪都ゆきとも、思わず称賛してしまうほどだった。


『さて、手始めに50g以下の物を集めてみましたが、それだけでこんなにたくさんあるんですね…………もう、ここに集まったものだけで99ペア作れるのではないでしょうか?』


 ただしそれでも、50g以下と言う軽い物品に対象を絞っても、周りの風景が見えなくなってしまうほど品物が吸い寄せられた。もはや、ダイ〇ンばりの吸引力である。

 ペアになるものは必ず同じ重さになると踏んだ楓迦も、まさかここまでたくさん集まるとは思っていなかったようだ。そこで彼女は、もう一工夫してさらに選別を行うことにした。


『少し時間がかかりますが、これなら……っ!』


 楓迦は、吸い寄せた軽い物品をさらに選別するため、彼女の周囲を取り囲むように局地的な竜巻を発生させた。

 紙切れ、ハンカチ、プラスチックのトレー、薄い本、プチトマト、ボタン電池などなど――――ごちゃ混ぜになった細かいものが、高速で回転する旋風で、徐々に重さで上下に分かれていった。楓迦は、高速竜巻を利用して、遠心分離を試みたのである。


『…………見えてきました! 同じ柄の布マスク、ピンポン玉、よくわからない薄い本、爪切り……消して得点にしてしまいましょう。それ以外のいらないものは、得点になりえないので、会場の外に捨ててしまってもいいですよね』


 こうして楓迦は、会場全体から集めた50g以下の品物の中から、一気に22個ものペアを確保することができた。

 そして、ペアにならないと判断した品物は、今後の選別の邪魔なので、会場の外にどんどんと吹き飛ばしていった。これもまた妨害ギリギリの行為だが、楓迦の選別はかなり正確なのだから、いらないものを減らしたと感謝してもらいたいくらいだった。


『しかし、あれだけたくさん集めたにもかかわらず、たったこれだけしか得点にならないだなんて…………一回だけで勝てるほど甘くはないとは思っていましたが、今回の競技は意外と厳しいのかもしれませんね』


 楓迦もまた雪都ゆきとと同じように、品物の数に比してペアの数があまりにも少ないと感じた。

 果たして楓迦は、この広大な数の品の中から、雪都ゆきとよりも先にペアとなる品物を吸い寄せることができるのだろうか?

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