最終戦:疑心の先に待つ奇跡(冷泉 雪都 対 大精分霊・楓迦)
疑心の先に待つ奇跡 1
※今回のスタートレギュレーションを一部変更してます。予めご了承ください。
目の前にあるとんでもなく広い駐車場には、青色のタープテントが無数に並んでおり、それを囲うようにやや高めの鉄柵がずらりと並んでいる。どうやら、何かしらの大規模イベント――――雰囲気的には蚤の市が行われているようだが、妙なことに商品が大量に並んでいるにもかかわらず、中には人の気配が全くない。
「フォート・ブラッグ基地……の、完全なレプリカと言ったところでしょうか。世界最大の軍事基地を、このような目的に使用するとは考えにくいですからね」
フォート・ブラッグ基地――――それは、アメリカ連合国が誇る世界最大の陸軍基地であり、連合国陸軍の精鋭を訓練する場所であると同時に、かの国が「
日本の退魔士に比べて歴史は浅いとはいえ、その人員の数は日本の比ではなく、
だが、いつも大勢の超人兵士でにぎわっていたこの基地には、人が殆どいないところを見ると、競技のためのレプリカだろうと
だが、全くの無人かと言えばそうでもなく、鉄柵で囲まれた会場の入り口に、緑色の服を着た女の子の姿を見つけた。
見たところ、年頃は見習い最年少の
肌は色白だが、淡い緑の髪の毛に、深緑のワンピースと黄緑のスカートを着用している、全身緑ずくめの格好だった。しかし、現役の精鋭退魔士である
(魔の物の一種……というよりも、完全な霊体ですね。しかも、無垢体(※魔に全く染まっていない霊体)とは珍しい。私も生まれて初めて見ました)
自分の世界を基準に物事を考えるのがベテランの悪い癖ではあるが、とりあえず
一方で緑ずくめの少女――――楓迦もまた、ほぼ同じタイミングで
(……何やら冷たそうな人が来ましたね。しかし、それなりの魔力は感じますが、「水」の気はあまり感じない……ふむ)
四大精霊の一、シルフの分霊体である楓迦は、目で見るよりも先に「空気を読む」。相手が纏う空気、匂い、魔力、音……すべてをすぐに分析できる彼女に対し、隠し事は通用しない。
彼女がしゃべる言葉も、肉体から発する音ではなく、どこか空中から響いてくるような感覚がある。
『あなたが今回の対戦相手でよろしくて?』
「はい。その質問から察するに、あなたもまた対戦相手なのでしょう。私は
『……ええ、これはどうもご丁寧に。私は、風の大精霊シルフの別け身にして、日本に配置された欠片の一角……突貫同盟所属の楓迦です』
対戦相手を前にして、わざわざ右手を胸に当てて非常に綺麗な角度でお辞儀をして名乗る
(思っていた通り、話はきちんと通じる相手のようです。話が通じない相手が多いと聞いていましたので、助かりました)
(硬い…………話は通じますけど、冗談は通じなそうですね)
周りに非常識な存在が多すぎて、時折頭やお腹に幻痛を覚える楓迦だが、ここまで真面目一辺倒の堅物というのも対応に困る相手だった。せめて、あの30歳の長老並に感情の起伏があればまだやりやすいのだが…………
そんな二人がファーストコンタクトをした直後、会場のゲートの前に突然二人の大人の男性が転移してきた。
赤と白の縞模様の服、長靴下、帽子、ジーパンを身に着て、眼鏡をかけて杖を突いている男――――が二人。本当に全く同じ背丈服装格好をしていて、双子と言うよりもクローンのようだった。
「「やあ、参加者さんたち! 楽しい楽しい『しんけいすいじゃく』にようこそ!」」
そして、当たり前のように同時に喋り始める二人。どうやら彼らは、競技の説明者のようだった。
「Hey! シャルリ、大変だ! オンリーワンの品物を集めたBAZAARに、本物そっくりの模造品が紛れ込んじゃったZE☆」
「OK、安心するんだワルター! なんたって僕たちは著作権属性の魔術士だ! 偽物は、偽物同士をぶつけ合わせて、消しちゃえばいいのSA!」
「Oh! Nice ideaだねシャルリ! でもこれだけ広いと、面倒くさくないかい?」
「HAHAHA! 心配することはないよワルター! この会場には、僕たちの「著作権封神フィー〇ド」が張ってあるから、あとはそこの二人に同じもの同士を探してもらえばいいんDA!」
「Wow! それなららくちんだねシャルリ! でも、それだと本物も消えちゃわないかい?」
「大丈夫SAワルター! 後で新しい本物を作るからNE!!」
「「HAHAHAHAHAHAHAHA!!!!」」
(ゑェ……なにこの茶番)
まるでどこぞの怪しいテレフォンショッピングのような漫才をしながら説明をする双子を見て、楓迦は思わずげんなりしてしまった。
しかし、
「なるほど、神経衰弱ですか。つまりこの中に存在する同一の物を確保して、それらを消していけばいいのですね」
「Yes! その通りSA☆! そして、先に99個のペアを消した方が、Victoryってわけなんだ! ね、簡単だろう?」
「ただし、消す前に壊しちゃうとカウントされないYo☆ あんまり壊しすぎると、どっちもクリアできなくなっちゃうから、要注意DA!」
「すべてに同一のものが存在するという訳ではないのですね。不要な攻撃は控えるべきでしょう」
『あなたも付き合いがいいのですね。でも、少し助かりますわ』
いうだけならば簡単だが、一目見ただけでも会場のスペースは広く、この中から同じものを99以上見つけるのは、想像を絶する大変さだろう。
「制限時間は無制限! ただし、品物の数が勝利に届かない数になっちゃったら、試合終了だ! 気を付けてくれよ!」
「後ろの門が開いたら、試合開始だからね!」
『……私からも確認ですが、同じもの同士は、触れ合わせれば消えるのですよね?』
「Oh、LADY! 大丈夫だ、安心したまえ! 僕たち二人がお手本を見せようじゃないか!」
「そうそう! 仮の僕たちがペア物品だとすると!」
「こんな風に触れ合った瞬間に―――」
お手本と称して、シャルリとワルターがハイタッチした瞬間…………
「「NOOOoooooooooooo―――――」」
白く光ってあっという間に消滅してしまった。
競技説明は唐突に終わったのであった。
「消えてしまいましたね。もう少し聞きたいことがあったのですが」
『えっと、ごめんなさい……』
「いえ、大丈夫です。後は実地で確認しましょう。さて、門が開いていないということは、まだ開始時間まで少し余裕がありそうですね。楓迦さん、私から一つ提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
『提案?』
「はい、今回の競技ですが、お互いに意図的な妨害行為は慎むこととしたいのですが、いかがでしょうか」
再び二人きりになった直後、
『……なぜそのような提案を? 私に何か利があると?』
「はい。妨害行為の禁止を確約することで、楓迦さんにも、私にも、三つの利があります。まず一つ目に、お互いに妨害をしあえば、今回の競技の遂行は非常に難しくなります。下手にエスカレートすれば、最悪共倒れになりかねません。ですから、今回の競技はスポーツマンシップにのっとり、お互いの実力を存分に発揮できるようにしたいのです。二つ目に、お互いがお互いを信頼することで、より競技に集中することができます。それゆえに、純粋な力量の上下で、競技の勝敗を決められるでしょう。そして三つ目に、恐らく私たちにとってこれが最後の競技となるでしょう。ゆえに、お互いに遺恨を残さないようにしたいのです。とはいえ、半分は私の希望のようなものですが…………楓迦さんは落ち着いた方なので、純粋に競技を行えると期待しているのです」
『ふぅん、初対面なのに、ずいぶんと買い被るのですね。ですが……私もその方が、無駄に神経をすり減らさずに済みそうです。いいでしょう、私はその提案を受け入れましょう』
お互いに妨害行為を行わないとする協定を堂々と提案してくる
正々堂々と戦えるのであれば、楓迦にとってもメリットは非常に大きい。もちろん、
『ですが、私はまだあなたを完全に信用しているわけではありません。もし協定を破ったのであれば、どうするおつもりですか?』
「その疑念はごもっともです。ですから、楓迦さんが私の行動が協定違反だと確信したのなら、好きなように反撃、または先制攻撃も可能です。その代わり、私も信義則が破られたと確信したとき、それ相応の反撃を行いますが」
『呆れるほど脆い協定ですわね……言っておきますが、私に嘘は通じませんよ』
「承知しました」
こうして、二人の間に、スポーツマンシップにのっとった相互妨害行為の禁止協定が結ばれた。
そして、彼らが合意に達した数秒後に、会場への門が自動的に開く。
二人は目線だけ交わして静かに頷くと、ほとんど同時に会場の中に突入していった。
果たして二人の協定は、うまく機能するだろうか…………
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