史上最大の任務 6
ゲーデの必殺技が直撃したにもかかわらず、何事もなかったように元気に人を殺して回るボーイ。彼は一体どんな手品を使ったのだろうか?
ゲーデが必殺技を放つ際に、ボーイは彼女の手に魔力が急激に集まるのを感じ、それに対抗するために魔術を軽減する素材で自分を包んだ。
その素材は「絹」――――それも、ただの絹ではなく「霊絹」と呼ばれる、魔力を持った糸を吐く魔虫からできたものだ。高級繊維である絹で敷物を作るのはかなりの贅沢だが、全くないわけではない。
ボーイは、その「霊絹」の元となる繭を、咄嗟の判断で自分の周りにまとわせ、純粋な魔力による強力な攻撃を耐えしのいだのであった。
新しくひらめいたこの魔法、静的な言葉をチョイスするなら『クーゲル・ココン』とでも言うべきだろうか。魔力による攻撃相手なら、炎以外は余裕をもって耐えられる、強力なシールドである。
「ハァーーーッハッハッハ! あのババアが俺を外に出してくれて助かったゼェェェっ! ここまでくりゃ、こっちのもんだァっ!」
狭い室内と違い、敵の攻撃をいくらでもよけることができる屋外に出たボーイは絶好調だった。
地上を逃げ惑う人間たちは、上から見ればまるでゴミのようだし、時々反撃してくる警官のマシンガンもボーイがいる高度まではなかなか届かない。届いたとしても、表面を魔力でコーティングした絨毯には傷一つつかない。
「誰を殺しゃいいのか知ンねぇが、この島にいる奴ら全員殺せば、どれかがターゲットになるだろ! あいつらが戻ってくる前に、殺しまくってやるぜェっ!」
とはいえ、ボーイ自身はこのままずっと好き勝手出来るとは思っていなかった。
しかし、追いついたとしても方や機関銃使いの少女、方や武器からビームを出すことが精々の魔法使い。空中と言う地の利を得た彼にとって、何のことない相手のはずだった。
「あん? 今度は何の音だ――――ってうおおぉぉぉぉぉっ!!??」
相手を軽く見るのが、ボーイの悪い癖である。
空のかなたから甲高い音が鳴り響いたのを聞いた瞬間、横っ腹から大量の弾丸と何か塊のようなものが凄まじい速さで通過した。
攻撃の気配を感じたボーイは、空飛ぶ絨毯の下の方から強力な突風を発生させて急上昇することで回避したが、自身を攻撃してきた「何か」はその奇妙な外見を急速旋回させて、再びボーイに襲い掛かる。
「クソがぁっ! なんで戦闘機が出てくんだよ! おかしいだろオイっ!!」
ボーイが見たのは、飛行機から尾翼のみを切り取って、垂直尾翼の部分がコックピットになった形をした小型戦闘機――――「リピッシュ」である。
史実では試作すらも作られなかった幻の戦闘機だったが、
兵器といて完成したリピッシュは、胴体の下を貫く単発ジェットエンジンで、音速一歩手前の速度で飛びながらも非常によく小回りが利いた。恰好はあれだが、決してネタで終わる機体ではない。
前回の競技では、誕生したばかりの複葉機に襲われたボーイ。
その際も(魔力切れになりそうだったと言うこともあり)非常に苦戦したのだが、相手がジェット戦闘機となると、もはや戦うという次元の話ではなくなってしまう。
装備した機関砲から放たれる銃弾の威力は、先ほどのMG42の比ではなく、おまけにリピッシュとすれ違うだけですさまじい突風が発生し、まるで巨大なハンマーでぶっ飛ばされるが如き風圧が発生する。
ボーイは、戦闘機を持ち出した静に対して毒づきながらも、絨毯の速度を目一杯上昇させて、必死に回避を試みるのだった。
「あーっはっはっは! 逃げる敵は悪い奴だっ! 逃げない敵はもっと悪い奴だっ! 退魔士として、悪い奴は見過ごすわけにはいかないよっ!」
非常に狭いコックピットの中でそう叫びながら、
戦闘機で人間のような小さな標的を狙うのは、ある意味非効率的なのだが、かといって低速の飛行機を選べば反撃を受けてしまいかねない。
ボーイの回避する方向を狙って弾丸をばらまき、何発か当てたとみるや、そのままこの機体で「ストライク」してしてしまいたかった。
ボーイもリピッシュが来ることを分かっていたからか、自身の周囲に隕石を召喚し、さらにその上に爆破用の魔法人がかかれた絨毯で包み、即席の対空浮遊地雷を作った。
「む!」
このままリピッシュで突っ込めば、逆にその速度が仇になって隕石の群れに衝突し、
これに素早く対処するために、
「カイザーシュテルン支援砲撃!
ミサイルを積んでいないリピッシュの代わりに、
「クソがっ! クソがクソがクソがァァァっ!! なんとしても撃ち落としてやるっ!」
避けきれなかった機関砲が命中したことで、体に大ダメージを負っていたボーイは、肉体の修復の為に「霊絹」の包帯を全身に巻いて、まるでミイラのようになっていた。
引きちぎられた体を治すのは並大抵のことでなく、純白の高級包帯のほとんどが赤い血に染まっている。
それでも彼は、勝負を諦めなかった。
襲い来る圧倒的な暴力に歯ぎしりしながらも、隕石と爆弾絨毯を組み合わせた浮遊機雷を次々と召喚し、高速で飛ぶ鋼の翼を撃ち落とそうと必死だった。
ところが、そんな彼にまたしても別の方から攻撃が飛んできた。
「この惨状…………お前らのせいかあぁぁぁぁぁっ!!」
「げっ、あのババア!? この面倒クセェ時にっ!」
何も見えない地下から脱出するのに苦戦したが、遅れること3分、ようやくゲーデが彼らに追いついてきた。
(あいつら…………戦っているのか? 同じ暗殺者仲間だと思っていたのだが…………まあいい、どちらもVIPに危害を加える意思があるようだし、二人まとめて撃ち落としてやる!)
ゲーデは、この世界が神の競技会場にされていることなど知るはずもないので、暗殺者二人がなぜ殺し合っているのか理解に苦しんだ。
しかし、どちらも味方にはなりえないことだけはわかっているし、このまま放置して漁夫の利を得ようとも、島の被害が拡大するだけだ。ならば両方倒すまで―――――そう考えたゲーデは、まず島民に甚大な被害を与えているボーイから先に狙うことにした。
「死ねぇぇぇぇっ! エクスゥ! ブレイドオォォ!」
「ハっ! いまさらそんな攻撃、目を瞑ってもよけられるゼェ! こいよババア、ビームなんて捨ててかかってきやがれ! ギャーハハハハハ!」
「俺様をまだババア呼ばわりするかっ! ふざけやがって! 野郎ぶっ殺してやるっっ!」
雷の如くほとばしる大出力ビームをあっさりと避けるボーイ。
「オラ、死ねっ!」
「ギャハハ、バーカ! 当たるかよ! それよりもお前、背中ががら空きだぜ!」
「何を言って――――グアアアアァァァァァァァ!!???」
血の気の多いゲーデは、わざわざボーイに接近してしまったせいで、ボーイを狙う
ゲーデが着ていた燕尾服は、呪術を織り込むことで見た目以上の防御力を持っているが、近代兵器の暴力は呪術の服を軽く引き裂き、ゲーデに大ダメージを負わせた。
「ギャハハ、あともう一押しってとこかァ! 後はあの戦闘機さえなんとかすりゃあ…………一か八か、アレを試してみるか!」
ゲーデと
ボーイは、リピッシュの銃弾を何とか回避しながら、空中に巨大なアクリルの「下敷き」と羽毛でできた「絨毯」を召喚した。
彼の身体はもうほとんどボロボロだが、それでもなお体内の魔力は尽きない。
「ヒャアアハハハハハハァァァァ!! 回れ回れぇっ!」
「えっと、なにあれ?」
コックピットから、巨大な下敷きと絨毯が召喚されたのを見た
だが、平衡に並んだ下敷きと絨毯がお互い違う方向に回転することで、二つの物体の間にバチバチと音を立てて静電気が溜まり始めた。
それに加えて、空気中に『ハイドロ』で加えた水分と『オーツー』で増やした酸素を充満させれば―――――強力な
「堕ちろっ! 『アークディスラプト』っっ!!』
雷の数倍大きな雷鳴と、アーク放電独特のコロナ音が島全体を覆い、コンゴーナス島に存在するすべての電化製品および電子機器、電子兵器を一瞬にして沈黙させた。
「操縦系統が、動かないっ! 脱出っ!」
彼女はすぐに緊急射出装置を使って脱出して事なきを得たが、ボーイ相手に猛威を振るったリピッシュは、そのまま島の中心部に墜落して爆発したのだった。
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