神様からの試練 7

「やれやれ…………俺としたことが、熱くなりすぎちまった。もう当分、青色は見たくねぇ…………」


 拠点まで戻ったアルは、げんなりしながらそう口走った。

 確かに敵のピ愚民は自分たちに比べると個体能力は圧倒的に低く、初めのうちはほとんど無双ゲームの如く爽快に殺戮することができたのだが、いかんせん敵の数が多すぎるどころの騒ぎではなかった。

 これがもし現実世界の戦いならば、突貫して敵の総大将を打ち取ればまだ勝ち目はあるだろうが、「自分で逃げ出す」という概念がないピ愚民相手に一点突破戦術は相性が悪かったとしか言いようがない。


「とりあえず…………戦士の数をなんとかして増やさにゃぁな。今のままだと、拠点を留守にしている連中を全員連れてきても足りねぇ。武器は……何か新しいものを作るっきゃねぇか。あいつらの拠点でいろいろと奪ってやったから、少しはまともなものが作れるようになればいいんだがな」


 こうして、今まで個々の力に頼っていたアルも、ようやく方針転換を行い、頭数の確保と武装の充実を急いだ。すでにピ愚民自体の強さは相手を大きく上回っているのだから、少しでも相手の数に肉薄すれば、今の段階でも十分勝ち目はある。


 そうと決まればまずやることは、武装の強化だった。

 今までは日緋色金の武具に頼っていたが、先述した通り特殊能力はもうこれ以上発動できないのだ。


「日緋色金の精製は一日に三度まで………ってこたぁ、この競技が始まってから時間はめちゃくちゃ長く経過してんのに、一日経ってないわけだ。ちっ、あんなところで見せびらかすんじゃなかったぜ」


 アルの誤算は、伝家の宝刀たる「日緋色金の精製」の三回のうち一回を、競技説明の際に競技相手へカッコつけるために消費してしまったことにある。そして二回目をかなり序盤で試しに使い、本格的な装備を整える際に最後の一回を使ってしまった。

 指示以外何もすることができない唯祈いのりに対する、数少ない能力的なアドバンテージだけに、惜しいことをしたとアルは苦々しく感じていた。


 とはいえ、彼はまだ特殊能力のすべてを失ったわけではなかった。むしろ、ここからが彼の本領発揮だ。


「少しちいせぇが、奴らから溶鉱炉を奪ってこれた。そこのグループはこの溶鉱炉と同じモンをできる限り作り出せ! 材料はこっちで用意してやる! 残るやつらは俺についてこい!」


 敵陣営から高温溶鉱炉の技術を奪ったことで、彼らもまた金属を高温で溶かす技術を手に入れた。

 それでも宇宙船の破片になっている合金は、頑丈すぎて加工できなかったが、アルは拠点から少し離れた山に一直線に分け入って、そこで鉄鉱石を掘り始めた。


「鉄はあそこだな、しかも質もバツグンだ! これなら……アレができるな! お前らはここで採掘して、ある程度溜まったら拠点に運べ! 残りはこっちに行くぞ!」


 次に彼が目を付けたのは、少し離れた洞窟の中…………巨大なクモなどが闊歩するこの洞窟を、アル率いる赤ピ愚民たちがあっという間に制圧。自分たちの餌を大量に手に入れると同時に、地中に埋まっている石炭を掘り出し始めた。


 そう、アルの特殊技能である「金行」の作用により、彼は地中に埋まっている金属の位置とその埋蔵量、さらにはその質まで把握することができるのだ。

 そのため、唯祈いのりたちが人海戦術で鉄鉱石を捜索し、場合によっては砂鉄すら用いたのに対し、アルはほとんど一発で鉱脈を探し当てることができた。


「よく聞けお前ら、鉄と炭、それと葉っぱに木の枝を、これらの比率で混ぜ合わせて鋳造しろ。できた金属は、奴らの鉄とは比べ物にならん強度になるはずだ」


 採掘した鉄鉱石は、あらかじめ用意してあった上質な木炭と、栄養豊富な木の葉と共に高温溶鉱炉で溶かして混ぜ合わせる。すると出来上がるのは――――表面に細かい皴のような模様が入った、独特の鋼鉄


「ハッハッハ! これぞ失われし幻の金属の一つ、ダマスカス鋼の出来上がりってわけだ!」


 魔法の金属細工師が持つ技術の粋を教え込んで作られたダマスカス鋼は、流石に日緋色金に劣ると言えど、唯祈いのり陣営の武器とは比べ物にならない頑丈さと切れ味を誇る。

 しかも、アルに影響されて冶金能力や鍛冶師としての力に目覚めていたのか、赤ピ愚民たちは熟練した人間顔負けの速度でダマスカス鋼を量産し、それらを武器に変えていった。


 だが、武器の作成はこれだけでは終わらない。

 敵陣営を攻撃した際にわかったことは、相手は質の低さを数で補うために密集し、さらに力によらない攻撃力を出すためにバリスタまで投入してくるということ。

 これらを克服しないことには、二度目に攻撃しても結果は変わらないだろう。なのでアルは、固まっている敵に対する有効打を入れる方法を考えた。


「流石に今の俺たちじゃあ、あんな複雑な機構の兵器を作るのは無茶だ。もっと単純で、効果があるもの…………ぬぅ」


 飛び道具も考えたが、弓矢では盾持ちの敵には効果が薄いだろうし、クロスボウやバリスタを今から設計するのは、あまりにも面倒くさすぎる。


「あ~あ、こんな時に奴が……大将がいてくれりゃあな、ここらで一発逆転のアイディアが出るのかもしれねぇ。あんの風精や陰険忍者もいりゃぁ、敵が何してんのかすっぱ抜いてやれたかもしれん。それにそろそろ……軽口いえる相手くらいほしくなってきたぜ。あんの羽軽女でも構わねえからな」


 拠点内でせわしく動き回るピ愚民たちを見て、アルはふーっとため息をついた。

 彼自身はあまり気が付いていないが、ここにいる大勢のピ愚民のすべてを背負って立つというのは、非常に責任感を伴うことであり、それが彼の心に負担としてのしかかっているのであろう。

 だが、アルに弱気になっている暇はない。自陣営の勝利のため、今はあらゆる力と知恵を総動員し、敵に打ち勝たねばならない。


 拠点と採掘鉱山、それに獲物を捕らえるための第二拠点を建設しながら、戦力を蓄える赤ピ愚民たち。

 アルの努力により、一時期は10000匹を下回っていたピ愚民の人口は70000まで増え、武器もそれなりの数が整ったし、強敵を倒し続けたことで個体の強さがより高まった。


「おーし、そろそろ奴らの拠点をもう一回荒らせるだけの戦力ができたな。今度は深入りしないうちに、一撃離脱で奴らの戦力を徐々に削いでいってやる!」


 自分たちの戦力も増強されたが、敵が全く回復していないとは考えにくく、むしろ以前より多くなっていることも十分に考えられる。ならば、一度に大勢を相手するのではなく、自軍に損害が出ない程度に各個撃破を心がけ、敵の優位を徐々に奪っていく――――漸減作戦を決断した。


 だが、アルよりも先に、唯祈いのりの方が動き始めてしまった。


 拠点から少し離れたところに偵察に出していた赤ピ愚民が、なにやらとんでもない敵を見つけたらしく、猛スピードで帰還してきた。


『!!!!』

「ん? どうした、敵か? その慌てぶりだと、強敵でも現れたのか? おいそこのチームはすぐに武装して俺の後ろについてこい!」

『Wor!!』


 敵の正体を掴もうと、アルは偵察が戻ってきた方角へ戦士たちを連れて出撃した。そして、森に差し掛かる前に彼らが見たものは―――――


「畜生っ! 奴らか!」


 見るのも嫌になった、青色のキノコの集団が、まるで人形のように一糸乱れぬ足取りで、続々とアルの拠点目指して進撃してきていた。

 一目見ただけでは数はわからなかったが、少し見ただけで森のずっと奥まで青い行列が続いていることは分かった。しかも、彼らが手にしているのは、攻撃したときに持っていた長槍ではなく、彼らの背丈と同じくらいの長さの筒状の武器だった。

 それが何を意味するかを理解したアルは、自分たちが絶望的な状況にいることを理解してしまった。


鉄砲マスケットだと!? ふざけんなっ!」


 彼が叫んだ直後、どこからともなく雷が落ちたような轟音が響き、アルと配下の戦士たちの周辺に、鉄の弾が無数に着弾し、破裂したのだった。



「ふふふ、ようやくあたしのターンが来たわ。悪いけど、この先ずっと私のターンで終わらせてあげるっ! 全軍、進めーっ!!」

『∠(・x・)』


 唯祈いのりの凛とした声が戦場に響くと、四方八方から青ピ愚民の津波が怒涛の勢いで押し寄せたのだった。

 第二次大攻勢の幕開けである。


〇ここまでの戦力


唯祈教:

【人口】1,856,000

【武装】銃剣付マスケット銃 バリスタ カノン砲

【遺伝子技能】跳躍 光合成 装甲 加速 ぶん回し 嗅覚 眠り粉

【学習技能】巡回 師団編成 死守 火起こし 建築 文字(カタカナ) 数学 伝令 操船 道具作成 青銅器作成 鉄器作成 石炭採掘 銀採掘 薬学 陣形 陽動戦術 攻城兵器 包囲攻撃技術 造船 火薬 製紙 手押し車 警戒システム 神学 鋼鉄精製 鉄砲鍛冶 大砲鋳造 機械工学 蒸気機関 弾道学 一斉射撃 野戦築城


アルムエルド教:

【人口】77,700

【武装】日緋色金の刺突具 日緋色金の打撃具 ダマスカスソード ダマスカスの槍 ダマスカスの斧

【遺伝子技能】跳躍 装甲 爪撃 ぶちかまし 強脚 加速 回し蹴り 大切断 猪突猛進 暗視 食いちぎり 嗅覚 捕縛の糸 四肢潰し スタンピード

【学習技能】突撃 道具作成 集中攻撃 火起こし 士気高揚 磨製金属精製 ウォークライ 弱点看破 陽動戦術 鉱脈鑑定 建築 鉄器作成 石炭採掘 ダマスカス鋼錬成 焼夷弾

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