神様からの試練 6

「突貫……突貫だっ! すべてぶっ殺せ! 生きてるやつを優先的に狙えよ! 建物は邪魔だったら壊せ!」

『Wor!!』


 『突貫同盟』の急先鋒たる妖魔アルは、自らは戦えないにもかかわらず、まるでピ愚民たちと一体になったかのように突撃を開始した。

 情けない鳴き声を上げていた弱い生物の面影はどこへやら、アルによって鍛えに鍛え抜かれた5000匹の精鋭無比なピ愚民は、無表情ながらも重量感のある威圧を伴って敵の拠点になだれ込んだ。


『(゜д゜;三;゜д゜)』

「くっ…………生産組全員、拠点中心に退避っ! 防衛部隊は班長中心に陣形を組んで! 用意ができた部隊から配置を指示するから!」

『∠(・x・)』


 一方で完全に奇襲を受けた形となった唯祈いのり陣営は、備えをほとんどしていなかったこともあり、慌てて生産人員を拠点中心部へと退避させ、拠点防衛のために置いておいた兵力を、急いで配置につかせた。

 楽しそうな顔をするアルとは対照的に、唯祈いのりは苦虫をダース単位でつぶしたような表情をしていたが、それでも彼女は混乱することなく、冷静に細かな指示を下していった。


 足の速い遺伝子を獲得している唯祈いのりたちの青ピ愚民は、武器も何もない状態では全く歯が立たないため必死になって逃げだしたが、アル配下の赤ピ愚民たちは彼らの3倍速かった。


『WOOOO!!!!』

『(( ;゚Д゚))』


 たちまち背後から追いついた赤ピ愚民たちは、その手に持つ日緋色金の武具で、青ピ愚民たちを一撃で両断する。そして、邪魔な建物があれば、それらもあっという間に粉砕した。


「なに……あの威力。まさか、緋緋色金製!? そんなのあり!? あたしは指示出すことだけしかできないのに、向こうだけ特殊能力使えるとかひどくない!?」

「っはははは! やっぱり驚いているようだなぁ嬢ちゃん! これも俺の力なんでな、悪く思わんでくれよな!」


 赤ピ愚民たちの攻撃力と突進の速さは凄まじく、開戦からしばらくもしないうちに、唯祈いのり陣営に2000匹以上の犠牲が出た。

 だが、拠点の中心まで到達するころになると、ようやく拠点の守備隊が揃い、武装している部隊が反撃を開始した。


「「に組」前衛部隊、構え! 奴らをこれ以上先に進ませるな!」

『(`・x・´)』

「ちっ、長槍か…………面倒くせぇっ!」


 建物の遮蔽を利用した密集陣形で、拠点中心部への進撃を阻む青ピ愚民たちの集団。その数およそ10000匹…………まるで古代ローマ軍団のように、一糸乱れぬ陣形を組んだ彼らは、四角い盾を構え、身長の5倍以上の長さがある長柄槍を一直線に構えた。

 巨大オークの突進すらわずかな犠牲で止める彼らの長槍は、盾も持たずに突貫してくる赤ピ愚民たちに効果的に働いた。

 突き出される鉄製の穂先は、日緋色金の武具が掠るだけで破壊されてしまうが、その後ろからも無数の槍が迫ってくると、すべてを破壊することができず、突き刺さってしまい、少数ではあるが脱落者が出始めてしまう。

 いくら命知らずなピ愚民たちとはいえ、このまま正面から突っ込むのはほとんど自殺行為に等しい。だが、このヤマアラシ陣形とて無敵ではない。むしろ、欠点も多かった。天性の戦上手であるアルが、それを見逃すはずはない。


「てめぇら! 馬鹿正直に真正面から突っ込むんじゃねぇ! 建物を壊して側面に回り込め! あいつらは武器が長すぎて満足に動けねぇからな!」

『Wor!!』


 赤ピ愚民たちは、アルの指示を受けて建物の破壊を行い、無理やり開いた道から敵の側面や後方に浸透していった。

 青ピ愚民たちもそれに反応して、外側にいる兵士から順番に向きを変えていったが、やはりその速度は鈍く、どんどん突っ込んでくる赤ピ愚民相手に大損害を出し始めた。


「おら行け! いけいけいけいけっっ!! 突っ込め! 引っ搔き回せ! 敵とゴミはまとまってた方が片付きやすいってもんだ!」


 拠点守備隊は一歩も引かずに善戦したものの、一匹一匹の強さが格段に違うせいで、陣形をどんどんと崩され、強力な武器とスキルでガンガンなぎ倒されていった。

 戦争と言うにはあまりにも一方的な展開…………もはや虐殺に等しい光景であったが、アルはここでふとどこか違和感を覚えた。


「……おい、ちょっと待て。いったい奴らはどんだけ兵士を用意してやがんだ? 一向に減ってる気がしねぇぞ?」


 彼の感覚では、もうすでに敵のピ愚民を少なくとも自分たちの2倍……つまり、10000匹は仕留めているはずだった。そしてその感覚は正しく、青ピ愚民はアルたちの猛攻により11000匹に上る多大な犠牲を払っていた。

 にもかかわらず、一つの陣を突破してもそのすぐ後ろに同じような長槍の密集体形が現れ、それを迂回しようにもさらに横からも同じ量の敵が現れるのである。


「ふざけんなっ! あいつの方こそ何かズルしてんのか!? 蘇生か? 蘇生でも使ってんのか!?」


 倒しても倒しても、まるでわんこそばのようにどんどんと増援が現れる。

 脆弱な敵を一気に倒すはずが、気づけば彼らの突貫の威力は長距離を進んだ矢のように減速してしまい、しかも深入りしすぎたせいで自軍が各地で分断され、敵地の真ん中で包囲されつつあった。

 アルの背筋に、冷や汗が一滴流れた。


「「は-20」から「は-25」、押し返しの陣形で進め! 「は-18」は側面から! 「へ-4」から「へ-11」はバリスタで射撃!」

『(`・x・´)』


 一方で唯祈いのりは、大ダメージを受け続ける味方陣営に休むことなく指示を下し続けた。その一連の指示の速さは驚異的で、ピ愚民でなければ何かの呪文にしか聞こえないほど。

 彼女は突破された陣地はすぐに後ろに下げて再編成し、その間に陣形を組み終えている部隊で持ちこたえた。それだけでなく、一度中心部まで避難させた30000匹を超える生産チームを全員武装させ、さらには別拠点の守備隊まで動員するという徹底ぶり。

 そうして集まった戦力は全部で合わせて90000匹――――もはや総動員である。


『WOOOOOOO!!!!』

『(`・x・´)』


 ようやく前線まで運ばれたバリスタが、赤ピ愚民軍団めがけて鉄槍の雨を降らせる。

 巨大生物の皮膚を問答無用で貫く威力の攻撃は、フルアーマー状態に等しい装甲を持つ敵に大打撃を与えた。


「あいつら鬼か……? 味方まで巻き込んで撃ってきやがる!?」

「この際多少の誤射コラテラルダメージは許容する! どんどん撃ちなさい! それと、敵が落とした武器は最優先で回収すること!」

「おいやめろ!」


 さらに悪いことに、唯祈いのりたちは自分たちで生産できない貴重な緋緋色金装備に目を付け、これを回収しようと試みた。それを見たアルに、一気に焦りが生じる。

 なぜなら、アルは特殊能力である日緋色金の精製が、これ以上使えないと判明したため、ここで装備を失ってしまうと二度と作り直せないからである。


(引き際か…………っ! クソッ、敵はまだ大勢いるってのに!)


 眼前に広がる敵ピ愚民の数は、明らかに自陣営の総人口を余裕で上回る数がいる。その上味方のピ愚民たちも無傷の個体がほとんどおらず、疲労も蓄積しているようだった。

 悔しいが、このまま戦えば攻撃軍全滅は目に見えている。アルは撤退を決断した。


「てめぇら、引き上げだ! 拠点に戻るぞ!」

『!!』

「敵が逃げる! 盾を捨てて追撃に入れ!」

『(`・x・´)』


 味方が落とした装備を回収しつつ撤退を開始する赤ピ愚民たちを、今度は青ピ愚民たちが包囲追撃する。

 アルたちは自分たちが来た方角に撤退しようとするも、いつの間にかそちらにも敵が回り込んでいた。どうやら、唯祈いのりたちもただで返す気はないようだ。


「血路を切り開く! 突貫だ! 最後の気力を振り絞れ!」

『WOOOOOOO!!!!』

「一人でも多く敵を地獄の道連れにするのよ! 正面に立たないで横腹を突いてあげなさい!」

『(`・x・´)』


 優勢だったはずの戦況が一転、全滅の危機に陥った青ピ愚民たちは、気力を振り絞って脱出を試みた。


「今だ! 伏兵!」

「だあぁっ! こんなところにまで敵がいやがる! 奴らは細胞分裂でもしてやがんのか!?」


 拠点がある平地から脱出し、ようやく森の中に入ったアルたちだが、まだまだ気が抜けない。唯祈いのりはなんと退路に伏兵を配置しており、最短ルートで撤退しようとする赤ピ愚民に、ダメ押しとばかりバリスタと投槍をお見舞いした。


 最終的には何とか戦場を離脱したものの、気が付けばアルたち攻撃軍は2000匹に満たない数まで減っており、貴重な装備も半分近く失ってしまった。



「はぁ…………なんとか全滅は免れたし、拠点の被害もそこまでじゃなかった。敵にも大きな損害も与えられた…………でも、これで勝ちって言い張るのは、少し無理があるかもしれない」


 アルの猛攻を何とかしのぎ切った唯祈いのりは、改めて自軍の被害を確認すると、あまりの深刻さに頭を抱えたくなった。

 失った人口は約45000……なんと総人口の約四分の一を失った計算になる。敵の数は約5000なので、敵兵1匹でこちらが9匹倒された計算になる。

 特に、競技開始直後から仲間になり、順調に増やしてきた最古参グループの「は組」がほぼ全滅に近い状態であり、戦力の低下は数値以上に大きかった。



 アルの奇襲に端を発した戦いは、結局双方の痛み分けという形で終わったのだった。



〇ここまでの戦力


唯祈教:

【人口】101,700(▼47,600)

【武装】鉄の槍 鉄の盾 バリスタ

【遺伝子技能】跳躍 光合成 装甲 加速 ぶん回し 嗅覚

【学習技能】巡回 師団編成 死守 火起こし 建築 文字(カタカナ) 数学 伝令 操船 道具作成 青銅器作成 鉄器作成 石炭採掘 銀採掘 薬学 陣形 陽動戦術 攻城兵器 包囲攻撃技術 造船 火薬 製紙 手押し車 警戒システム 神学


アルムエルド教:

【人口】9,100(▼3,300)

【武装】日緋色金の刺突具 日緋色金の打撃具

【遺伝子技能】跳躍 装甲 爪撃 ぶちかまし 強脚 加速 回し蹴り 大切断 猪突猛進 暗視 食いちぎり

【学習技能】突撃 道具作成(木) 集中攻撃 火起こし 士気高揚 磨製金属精製 ウォークライ 弱点看破 陽動戦術

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