神様からの試練 4

 道中で並みいる敵をなぎ倒しつつ、配下のピ愚民を率いて進むアルは、開始地点からかなり離れた場所にあるやや広い平地に、とんでもないものを見つけた。


「ありゃひょっとして、俺たちが乗ってきた宇宙船じゃね!? 残骸がバラバラで原形をとどめてねぇが、この合金は間違いねぇっ! ははっ、どうやら俺にも運が向いてきたようだ!」


 彼が見つけたのは、地面に墜落してバラバラに砕け散った宇宙船の残骸だった。

 高高度からの落下の衝撃に耐えられなかったせいか、機体はアルの言う通り原形を全くとどめていないものの、真上から落ちたことで破片があまり広範囲に散乱しておらず、ほとんど地面にめり込むように貴重な金属の林を形成していた。

 これを先に発見したことが、どれだけ有利になるかは言うまでもないだろう。頑丈な拠点にもなれば、一部の素材はいずれ加工して武器にすることができるかもしれない。


「よし決めた、ここを俺たちの拠点とする! 道中の餌は全部このあたりにもってこい」

『orz』

「しかしなんだな……いつの間にか、とんでもねぇ大所帯になっちまったな」


 アルの指示でわらわら動くピ愚民たちの大群を見て、彼は思わずため息をついた。道中で強い動物も弱い動物も片っ端から倒してはピ愚民たちの餌にしていたせいで、いつの間にか彼らは5000匹を超える大集団になった。

 しかも、初めはそこまで差がなかったピ愚民たちも、違う種類の餌を摂取したことで強さに大きな差が出るようになり、この拠点までたどり着くまでに速い個体と遅い個体とで到着時間がかなり違ってしまっている。特に、最近加入したばかりの個体は初期状態と同じくらい弱く、逆に世代を積み重ねて分裂した個体は、アルの指示をある程度汲んで効率よく動くようになってきた。

 これだけ違いが出てしまうと、一括で命令するのが非常に面倒くさい。


「ふん、どうすっかな。俺は一々雑兵を指揮するのは好きじゃねぇんだよな。それに、獲物を取り込むとさらに増えやがるしな。これ以上増えたら、とてもじゃねぇが俺の手に負えんぞ…………」


 こうしている間にも、遅れて到着したせいで彼の指示を聞いていない集団が、その場で次々と棒立ちになる。いくら強くなっても、こればかりは彼らの性質上どうにもならなかった。


「そうだな、お前らはどうにかして火を起こしてこい。ひょっとしたらこの部品のどこかに、点火装置があるかもしれねぇ。なかったらお前らで工夫しろ」

『orz!』

「ああ、お前らも指示待ちか。だったら棍棒の先端に付けられるような細かい金属片を片っ端から拾ってこい」

『orz』


 今まで面倒くさがって一括で命令していたアルだったが、ここでようやく分業体制に入り始めた。道中で仕留めた獲物を運び込み、利用できる金属を選別し、道具加工に使う火を起こす。まだおおざっぱではあるが、効率は格段に上昇し始めた。

 さらに、ピ愚民が持てる重さの金属片を棍棒に取り付け、槍や斧、槌などに加工することで、彼らの武器の攻撃力は大幅に上昇した。


「不格好だが、ただの棍棒よりは数倍マシだな…………本当は剣とか槍とかにできりゃいいんだがなぁ」


 ここでふと、アルの脳裏にあることが浮かんだ。

 この競技が始まってから、自分が使える能力のほとんどは意味がないことがわかっている。金属細工師の技能で作った武器は、意外にもこの世界で具現化することができたが、アルにちょうどいい大きさで現れるため、どうあがいても短手短足なピ愚民たちに持つことはできなかった。たとえ装備できなかったとしても、魔力のない彼らに武器の力を発揮させることはこれっぽっちもできやしない。

 だが、もう一つ試していないものがある。

 それは――――鍛冶神の加護による日緋色金の鋳造。


「試してみるか…………」


 アルがピ愚民たちが作った武器に向かって手をかざすと、驚くことに彼らの武器に美しい朱色の金属がコーティングされ、ほのかに赤く輝き始めたではないか。


「っしゃあぁっ!! 俺は全くの無能力ってわけじゃねぇんだな! こいつがあれば…………っ! おい、そこのお前、斧でそこの金属板をたたき割ってみろ!」

『orz』


 指名された個体が、日緋色金でコーティングされた斧を大きな金属板に振りかざしてみると、金属板はまるで紙屑のようにあっさりと切断された。

 その様子を見たアルは、狂気に染まった双眸をカッと見開き、上機嫌で大笑いし始めたのだった。


「はは、ははは…………っはははははぁ!! こいつぁいいっ! この武器さえありゃあ、どんな強い奴だろーが、片っ端から膾切りだ! くっくくっ! あの女がこれを見たら、さぞかし目玉を丸くすんだろうなぁ! うし、そうと決まりゃあ早速試し斬りしに行くぞお前ら! ここにある武器をもってついてこい! 足りない奴はそのまま棍棒を持ってこい!」

『orz!』


 こうして、新たな武器をピ愚民たち装備させたアルは、その威力を試すべく再び森の中に歩みを進めた。

 彼が目指すのは、道中少しだけ立ち寄ろうとした森の中の泉で、そこにはほかの生き物とは一線を画すほど強力に見える巨大な鹿が生息している。戦闘狂のアルも、その鹿とやり合うのはまだ早いと判断したいわくつきの敵だったが、強力な武装を整えた今、彼らは森の主に挑みかかることにした。


「行くぜお前ら! 足の付け根とのど元を狙え!」

『orz』

「シ、シカーーーーーーーッ!?」


 アルの突撃命令の元、さながら軍隊アリの如くワラワラ突撃するピ愚民の大集団…………泉のほとりでのんびりしていながらも、どこか威厳のある巨大鹿は、ピ愚民たちの勇猛果敢な攻撃を見て、思わず圧倒された。

 巨大鹿の大きさはピ愚民の十数倍以上あり、強靭な蹴りや角でのかちあげ、さらには執拗な踏み付けでピ愚民の数がガンガン減っていくが、それでもピ愚民たちは一歩も引かずに鹿の身体によじ登り、アルから命じられた弱点に、次々と日緋色金の武器を突き刺していく。

 恐ろしい勢いで巨大鹿の身体がザクザク切り刻まれていき、足が切られ、横倒しになったところで頸動脈をズタズタに引き裂かれる。10分近くの激闘の末、強敵は打ち取られた。ピ愚民たちの勝利である。


「ちっ、流石にずいぶん減っちまったな。だが、これだけつえぇ奴をぶっ殺せば、十分釣が帰ってくるはずだ! お前ら、帰ったら全員でメシにすんぞ! 武器の回収も忘れんなよ!」

『orz!』


 かつてない強敵だったこともあり、一時期は6000匹以上にまで増えていたピ愚民に数千単位で損害が出る大被害となった。だが、激戦を生き残った個体は、これからさらに強くなり、この先のアルの覇権を大いに助けてくれるだろう。



〇ここまでの戦力


アルムエルド教:

【人口】4,200

【武装】日緋色金の刺突具 日緋色金の打撃具

【遺伝子技能】跳躍 装甲 爪撃 ぶちかまし 強脚

【学習技能】突撃 道具作成(木) 集中攻撃 火起こし 士気高揚

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