神様からの試練 3

 約400匹のピ愚民を引き連れてフィールドを探索していく中で、唯祈いのりは彼らの生態に関することを色々と学んでいった。


「この子たちは、多かれ少なかれ、まとまった数の集団でコミュニティーを作っているみたいね。少なくとも数十匹……多い時には百匹以上の群れで生息している。逆に、それ以下の数の個体は全く見かけない。つまりこの子たちは、それなりの集団でないと生物として機能しないんだろうな」


 そんな生態になった理由もすぐに判明した。

 700匹近い集団に膨れ上がったピ愚民を率いていた唯祈いのりは、道中で自身の3倍近い体長を持つ、灰色のウサギのような生物を見つけた。ウサギはピ愚民の集団を見るや否や、大ジャンプして集団にとびかかってきた。


「っ!! 散開っ!」


 唯祈いのりの口から反射的に指示が飛ぶと、ピ愚民たちは忽ち蜘蛛の子を散らすようにバラバラと逃げ出したが、逃げ遅れた数匹が踏みつけの餌食となり、そのままもしゃもしゃと食われ始めた。

 この程度の能力しかないのであれば、単体や少数では生き残れないことは目に見えているというものである。


「おのれっ……みんな、仲間の敵を討つよ! 仲間が時間を稼いでいる間に、背後から攻撃して!」

『orz』


 自分の率いていたピ愚民が、なすすべなく野生動物に食われることにショックを受けた唯祈いのりだったが、すぐに反撃に移るために、ピ愚民たちに攻撃を指示した。

 700匹のキノコ生物が、数の暴力を生かしてあっという間にうさぎの全身に群がって、一心不乱に頭突きをする。体中を激痛に襲われて苦しむうさぎの反撃で、さらに数十匹のピ愚民が犠牲になったが、激戦の末なんとかうさぎを仕留めることに成功した。


「ふーっ、何とか倒せた。結構な数が減っちゃったけど、また仲間を増やせば…………うん?」


 戦いに勝って一安心した唯祈いのりの前で、一部のピ愚民がうさぎの死骸に根を張り、そのまま潜り込んでいくのが見えた。灰色の毛皮のウサギは、あっという間に全身がキノコだらけになり、そのままじわじわと朽ちていく。

 やや気持ち悪い光景だったが、同時に彼女はこれが彼らの食事風景であることを思い出した。


「確か、暫くこうしておけば、この子たちは増えるんだったね。とすると、残りの子たちのご飯も用意しなきゃならないわけか」


 うさぎ一匹でおよそ200匹の苗床になるようだったが、まだ食事にありつけていない個体は半分近くいる。となれば、彼らの食料も確保しなければならないのだが、唯祈いのりはここでまた色々考えるべきことが出てくるのを感じた。


「この子たちがのどれだけ空腹に耐えられるかわからないけれど、数が多くなればその分食料も多く必要になる。あと、食事中の子たちは完全に根を張って無防備だね。ほかの野生動物から守れるようにしないといけない。ん~、どうしたものかな」


 今のところ分からないことが多すぎるが、逆に今のうちにこそ色々試してみるべきではないかと唯祈いのりは判断した。

 まず彼女は、食事をしていないピ愚民を再び身長順に並ばせ、数を把握したのち残った約500匹をそれぞれ約100匹前後になるように分割した。


「ここからここまでが「い組」、ここからここは「ろ組」、ここからここは「は組」ね。そしてあなたたちが「に組」、残ったのは「ほ組」……いい、絶対に自分の所属するグループを覚えておくこと。いいわね」

『orz』

「じゃあまず「い組」はここから南の方角を3時間探索して、仲間を探してきなさい。仲間になったら片っ端から「い組」に組み込んでくるように。野生生物との戦闘は可能な限り控えて、追いつかれたら一番弱い子が足止めしなさい。はい、出発!」

『orz』

「「ろ組」は北側で―――――」


 分割した5グループのうち、2組になるべく詳細な命令を与えて探索に出し、1組には食事中の仲間を命がけで守るよう命じ、残った2組を自分の後についてこさせた。

 こうすることで、無駄に数が多いピ愚民たちを効率よく使おうというわけである。


 結果的に、彼女の目論見はそれなりに成功した。

 彼女が率いていたグループは、探索の末に開けた空き地を見つけ、大勢のピ愚民を整理できる拠点とすることができた。さらにそこでは、べつのピ愚民の集団が暮らしていたため、人数がさらに増加した。


「とりあえずここを拠点の一つとしよう。今後野生動物を倒したら、すべてここに集めておこうか」

『orz orz』


 増えたピ愚民を組み込んだ唯祈いのりの集団は、道中で巨大なカエルやネズミ、さらには歩行する花などを殴り倒し、それらを拠点に運んで食料とした。

 探索に向かったチームも、きっと3時間後には元の場所に戻ってきたが、「い組」に指定したチームはなぜか数が大幅に減っており、かなりのダメージを受けていた。どうやら彼らの向かった先には何かがあるようだ。


「何にやられたんだろう?」

『orz…』

「言葉がわからないや……。どうにかして文字を教えないといけなそうだね」


 彼女とピ愚民たちの前途は、まだまだ多難なようだった。



×××



 一方その頃アルは、同じように道中で野良ピ愚民を加え、そのまた先で巨大ウサギと遭遇し、これを撃退したわけだが…………


「よえぇな、こいつら。こんな図体だけの奴に、ここまでやられちまうとはなぁ」

『orz』


 ピ愚民たちのあまりの弱さに、あきれてものも言えないようだった。

 一体で勝てない相手には、複数でタコ殴りにするのが戦術の基本とはいえ、一回戦うだけでそれなりの被害が出てしまうこの生物たちを、どのように扱ったらいいか大いに悩んでしまう。

 だが、彼らが食事をしていくにつれて数が増え、その苗床となった生物の特徴をある程度受け継ぐ――例えばウサギやカエルなら跳躍力や走破力がよくなるし、巨大ダンゴムシを食らえば、身体が少し硬質化するなど――ことがわかると、アルはこの競技の目的を「いかに強いピ愚民を生み出せるか」に見出し始めた。


「ははぁん、なんとなーくコツがわかってきた気がするなぁ! ああそうだ、試しにこいつらに武器でも持たせてみっか。おいお前ら、その辺に堕ちてる木の枝を使って棍棒を作ってみろ」

『orz』


 アル配下のピ愚民たちは、彼に言われるまま地面に落ちている木の枝をバキバキと加工し始め、あっという間に棍棒を装備してしまった。これを見たアルは、初めてこの生物たちのことを褒めてやりたい気分になった。


「おーし、そんじゃああそこにいる猫だかトラだかみてぇなのを倒してこい! 全力でぶん殴れ! お前たちの本気を俺に見せて見ろ!」

『orz!』


 棍棒を装備してどことなく精悍な表情になったピ愚民たちが、巨大なヤマネコ型モンスターに向かって突撃を開始する。

 ヤマネコは素早い動きであっという間にピ愚民の集団に肉薄し、その鋭い爪でまとめて数十匹を殴り殺したが、棍棒で武装したピ愚民たちは一歩も引かずに攻撃を続けた。


「こいつはオスだな! ってことは〇玉が弱点だ! 袋叩きにしろ、〇袋だけにな!」

『orz!』


 大勢の犠牲を払いながらも、棍棒で執拗に金的したことで、強敵だったヤマネコは断末魔をあげて倒れた。800匹近い数がいたにもかかわらず、最終的に500匹ほどまでに減ってしまったが、数が多すぎても命令するのが手間だと考えているアルにとって、この程度の損害は許容範囲内だった。


「おーしおーし……お前ら、どんどん食って、どんどん強くなれよ! 俺がついてる限り、お前らはどこまでも強くなれるはずだからな! しかし、武器を持っただけで一気に強くなったなぁ。いずれは鉄の剣でも持たせてみるか? 俺の趣味じゃねぇが、盾を作るのもいいかもしれんな!」


 強敵を倒し力を蓄えつつあるピ愚民たちを見て、最初は邪険にしていたアルにも奇妙な愛着が湧いてきたようだった。




〇ここまでの戦力


唯祈教:

【人口】1,300

【武装】なし

【遺伝子技能】跳躍 光合成

【学習技能】巡回 旅団編成 守備


アルムエルド教:

【人口】500

【武装】棍棒

【遺伝子技能】跳躍 装甲 爪撃

【学習技能】突撃 道具作成(木)

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