神様からの試練 2

「う……うぅ、ここは…………?」


 墜落寸前で意識を失っていた唯祈いのりが目を覚ますと、自分の周囲が何やら騒がしいことに気が付いた。

 ハッとあたりを見渡すと、果たして彼女は自分の身体よりも少し小さい、キノコに手足が生えたような生物の群れに囲まれていた。


「こ、この子たち……まさか、例のピ愚民!? しかも、ここどこ!? 周りの物がすっごく大きいんだけど!?」


 唯祈いのりの周囲は雑木林のようだったが、木や根っこ、それに葉の一枚まで非常に大きく見える。いや、逆に唯祈いのり自身がまるでフィギュアになったかのように小さくなっているというべきか。

 まずは現状把握すべく、その場に立ち上がる唯祈いのり。周囲を囲むピ愚民たちに敵意はないようだが、彼らのコミュニティーのど真ん中に突然現れた見知らぬ存在に、若干戸惑いを覚えているようだった。


「no (カミサマだべ)」

「on (天孫降臨だ)」


『orz』

「えぇっと…………」


 おもむろに一斉に土下座するピ愚民たち。

 どうやら彼らは、唯祈いのりのことを自分たちを導く存在だと認識したらしい。ピ愚民の生態についての説明を思い出した唯祈いのりは、彼らが自分を神様だと認識していると考え、とりあえず指示を下してみることにした。


「まずはそこに10列で並びなさい」

『orz』


 唯祈いのりの指示を受けたピ愚民たちは、言われるままごちゃごちゃと並び始めた。確かに10列に並んではいるが、こういった指示は初めてだからなのか、前後左右にいったりきたりで要領が悪く、全員が並び終えるのに10分近くを要してしまった。


「んー……指示の出し方が悪かったかな。じゃあ、もう一度。この線を基準に…………あれ?」


 唯祈いのりが足で地面に線を書こうとしたところ、足が地面をすり抜けることに気が付いた。それどころか、自分の身体が半透明になっているではないか。


(うそ!? あたしの身体、幽霊みたいになってる!? なんで!? 同期魂魄体が不具合を起こした!?)


 ふと彼女は、説明の最後で「参加者同士の」という規定を思い出した。そう「禁止」ではなく「できない」なのである。

 要するにこの競技は、参加者がこの世界に物理的接触ができないようにするために、何らかの力が働いているということになる。


「ああもう…………そりゃ確かに神様だわね。んー、いけない、別の手段を考えないと。とりあえず今は、このはっぱを目印に右から小さい順に10列に並びなさい」

『orz』


 今度は目標物を決めて、より詳細な指示を下したところ、ピ愚民たちは先ほどの混乱が嘘のように整然と並び始めた。かかった時間も3分程度で済んだ。


(あー、なるほど。この子たちは指示待ち人間と言うより、ロボットみたいな感じなのか。詳細な命令はすぐに理解するけど、あいまいな指示だとどうすればいいかわからなくなるのね)


 ピ愚民たちの生態についてなんとなく理解した唯祈いのりだったが、同時に先行きの不安が大いに沸いてきた。

 10列に並ばせて数えた結果、今この場にいるピ愚民の数は447体。状況次第では、この先まだまだ増えるだろう。しかしそれは、戦力が増すたびに詳細な指示が行き届かなくなる可能性を示唆していた。

 唯祈いのりはこの先どうすれば競技を優位に進められるか、暫くの間頭をフル回転させ悩みぬいたのだった。



×××



 さてその頃、唯祈いのりがいる地点からそれなりに離れている場所で目を覚ましたアルは、唯祈いのりと同じく目を覚ました瞬間にピ愚民の群れに囲まれていた。


『orz』

「ちっ……なんだこいつら! 俺はそーゆー媚びた態度は嫌なんだよ!」


 イライラしているアルは、無抵抗にひれ伏すピ愚民たちの頭を蹴飛ばしてやろうとしたが、その蹴りは見事にピ愚民の身体をすり抜け、危うくその場でバランスを崩して転びそうになった。

 よく見れば、自分の身体が半透明になっており、その辺の石ころや木の枝に触れてもすり抜けてしまう。そして、彼もまたすぐに「参加者同士の戦闘ができない」の意味を理解した。


「そういうことかああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!! 返せ! 俺の実体を返せ!! 今すぐ返せこんちくしょぉっ!!」

『orz……』


 烈火のごとく怒り狂うアルだったが、地団駄も踏めず壁ドンもできないせいで、イライラが解消するどころか余計募るばかり。

 そして周囲のピ愚民たちは、神様がお怒りになっていることに恐れを抱き、怒りを鎮めようと、ひたすらその場に土下座しはじめた。彼らにとってアルの怒りは余程恐ろしかったのか、中には身を震わせて何らかの液体を漏らしている個体もいた。


「くうぅ……競技とはいえ、こんな妙ちくりんな生き物の神様をやってやらにゃならんのか! 気がのらねぇが、このまま何もしないで負けるのは癪に障る。どうにかして、勝ち筋を見つけねぇとな。とりあえず、お前ら全員で何匹だ、教えろ!」

『orz』

「鳴き声じゃわかんねぇよ! 俺にわかる言葉を話せ! 話せなかったらなんか工夫しろ!!」

『orz……』


 無茶ぶりする神様に戸惑うピ愚民たちだったが、怒り狂ったアルが恐ろしいからか、彼らはいそいそと話し合い、1分後には地面に左から木の枝4本、葉っぱ5枚、小石6つを並べた。

 いったい何を表現したいのか理解できなかったアルだが、やや考え抜いて、彼らが「456」を表現したのだということに気が付いた。つまり、ここにいるピ愚民の数は456体ということになる。


「そうか…………こいつら、文字もねぇのか。ちっ、どうすっかなこれ」


 思考の時間を経たことで、少しずつ頭が冷静になってきたアルは、こちらの指示は通じるが向こうの言葉も文字もわからないピ愚民たちをどう扱うべきか、しばらくの間、深く思案したのだった。


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