第4戦目:神様からの試練(鹿島 唯祈 対 妖魔アルムエルド)
神様からの試練 1
視界が白い光に包まれていた
周囲を見渡せばそこは何かの乗り物――――それも、今自分たちが生きている世界のどの乗り物よりもはるかに未来的な構造で、壁や天井は銀色の合金のような素材におおわれている。
「ここは……宇宙? ということは、ここはスペースシャトルの中?」
今いる乗り物もかなりスムーズに動いているので、宇宙にいるワクワク感があまり感じず、窓から見える景色もどことなく作り物のようにすら覚えてきた、
果たして今回の競技はいかなるものなのか―――――
今のところ内容が予想できず、悶々とする
「ほぅ……今回の対戦相手はお前か。またロクでもない奴じゃないかと心配してたが、今回はアタリのようだな」
「む、あなたが今回の相手というわけね」
声がした方を向けば、そこには異様な風体の男がいた。
親友である
(これが異世界の魔の物……初めて見た)
対戦相手の姿を見た
実戦に出る前に、その存在が絶たれた「魔の物」が今まさに自分の目の前にいる。それも、人間とコミュニケーションが取れ、なおかつ余裕があるという完全な上位種族。見習いが出会う敵としては最悪の部類であるが、全く手も足も出ない相手でもないようで、負けても特にペナルティーがない現状では、むしろこの出会いに感謝したいほどの好敵手であった。
「せっかくだから、名乗っておくよ。あたしは
「はっ、これはどうも、ごてーねーに。なるほど、ただもんじゃねぇってこたぁわかってたが、まさか退魔師たぁーな。んじゃ、俺も名乗っておくかな。俺の名は妖魔アルムエルド……アルとでも呼んでくれりゃぁいい。てめぇが退魔師なら、さしずめ俺は
自分で自分のことを
(俺を前にしても全く戦意を隠さない堂々とした態度…………滾るじゃねぇか! 俺の全力をぶつけるのに躊躇はいらなそうだな)
アルはアルで、自ら見習いを名乗る対戦相手の少女に強い興味を抱いた。
無数の激戦を潜り抜けてきたからこそわかる――――命をとした殺し合いをした経験こそないものの、その実力はかなり高く、潜在能力も青天井だ。ほぼ未完成の戦闘処女の時点でこれほどなのだから、完成形はどれほどのものとなるのか、楽しみでもあり、若干恐ろしさもあった。
視線だけで、お互い相手にとって不足なしとみなした二人。
今いる空間の広さは十分であり、もし同意があれば、すぐにでも刃を交えることも出来そうだったが―――――そんな二人の戦意に水を差すように、どこからか無機質なアナウンスが流れた。
『こちらは機長です。これから当機は競技会場へ向かいます。競技の説明を行いますので、お座席にお戻りください』
「競技の説明だって」
「聞くだけ聞いてやるか」
もとより真面目な
二人が着席したところで、二人の座席のちょうど真ん中の床から青い光が発生する。青い光の中はホログラムのようで、そこには一般人が想像する姿のキノコに人間の手足が生えた、まるでどこかのゆるキャラのような珍妙な生物が映し出された。
「なにこれ」
「なんつー間抜けな面の生物だよ」
いきなり変な生き物の姿を見せられて脱力する二人。
『この生物は「ピ愚民」といいます。ピ愚民は、眼下に見える惑星では食物連鎖の最底辺に属する生物であり、ほかの生物からしてみれば餌でしかない塵芥同然の存在ではありますが、気性は非常に従順かつ真面目、勤勉で命知らずであり、ひとたび労働力となれば文字通り死ぬまで働きます。そして、食べるものさえあればどんどん増える害虫のような繁殖力も持ちます。まさに、生まれながらの愚民、生来の奴隷種族と言えましょう』
「なんか言い方がいちいちひどくない?」
「はんっ、見た目が間抜けなら、生態も間抜けだな。で、この間抜けな生き物がどうしたって? こいつを多く倒した方が勝利、とか?」
『参加者のお二人には、この「ピ愚民」の「神」となり、彼らの種族を繁栄へと導いていただきます』
「「はぁ?」」
アナウンスを聞いていた二人は、思わず同時に素っ頓狂な声を出した。
『彼らはすでに道具の使い方をある程度学び、言語による意思の疎通も行いますが、導く存在がいなければ彼らはほとんど自主的に動くことはありません。そこで、参加者のお二人はこの「ピ愚民」たちの「神」となり、相手の参加者を崇拝する個体を根絶やしにする。つまり『代理戦争』を行っていただくことになります』
「代理戦争……ってこは、この生物を率いて殺し合いをするって言うの!?」
説明を聞いた
これがシミュレーションゲームならまだしも、異世界の競技とは言え、実際に生きている命を殺し合わせる競技など正気の沙汰ではなかった。
「なんか一気にめんどくさくなってきたな。っていうか戦争なら敵の頭を殺せば勝ちだろ? だったら今ここで決着をつけた方が手っ取り早いんじゃねぇの?」
一方でアルは、
別にリーダー役が苦手と言うわけではないのだが、今までの戦いの大半は的確な指示を出してくれる大将がいたし、他人に指示を出す暇があったら一人でも多く敵を殺したいのが正直なところだ。
であるならば、もうこの時点で対象同士の一騎打ちで決着をつけるのが手っ取り早いのではないか。そう考えたアルは、アナウンスによる説明が続いているにもかかわらず、おもむろに席を立って、その手に見事な作りの剣を握った。
「おい、イノリとか言ったな。面倒だから今ここで白黒つけちまわねぇか?」
「うーん……キチンと競技は行うべきなんだろうけど、確かにあたしも勝負内容に少し納得がいかない。だったら、いまここで戦った方が、ピ愚民たちにとって幸せなのかもかもしれない。いいよ、受けて立つ」
「おい、まて。モノホンかそれは」
「どこかで見覚えがあるの? これはあたしの遠い遠いご先祖様が、
「は―――はははっ! こいつぁおもしれえっ!! マジでモノホンを出してきやがった!! 天目一箇の奴、とんでもねぇ物をどこぞの奴にくれてやったようだな!」
「……? まさか緋緋色金を知っている?」
「知ってるも何も……日緋色金たぁこーゆーモンだろ」
するとどうだろう! アルがその手に持つ大剣に、血のような赤い砂が砂鉄のように吸い寄せられ、見る見るうちに温かみがあるような赤い剣身に変化した。
「緋緋色金の精製!? まさか現代にそのようなことができる存在がいるなんて!?」
「お前のそれに比べたらおもちゃだが、この俺が生み出したからには、威力はゴキゲンだぜ? どうだ、試してみるか?」
「…………」
両者ともに殺気を増大させ、今まさに刃を交えようと身構える―――――が、空気を読まないアナウンスが二人に聞こえるよう大声で響いた。
『参加者にお知らせいたします。機内での戦闘、並びに危険物の使用は禁止されております。すぐにお座席にお戻りになられない場合は失格とさせていただきますので、予めご了承ください』
「「!!」」
無機質な声が、淡々と警告を述べたため、二人は戦意を削がれてしぶしぶ座席に戻った。
「ちっ……競技が始まったら今度こそ待ったなしだかんな」
「うん、お互い正々堂々勝負しよう」
『最後の説明になりますが、参加者様同士での戦闘は行うことができません。勝利条件は相手勢力の絶滅、ただ一つです』
「な、なんじゃとおおおぉぉぉぉ!!」
アルは思わず大声で叫んだ。
ここまで来て、目の前の好敵手と戦うことを禁じられたせいで、イライラが一瞬でマックスに到達したようだ。
しかしアナウンスは、そんなアルの都合など知ったことかとばかりに淡々と説明を終えてしまった。
『以上で競技の説明は終わります。代理戦争の決着がつくまで競技は続きますので、よい一日をお過ごしください』
「はぁ……なんだか妙なことになったね」
「おい! こうなったら両方失格でも構わねぇ! 今すぐ俺と死合え!」
「いや、流石にそれはどうかと思うよ。あたしはどんな競技でも全力を出したいし」
「うるせぇ! ここまで来て戦えないとかふざけんな! 俺はなんとしても――――――おわぁっ!?」
「う、うわぁっ!?」
今まで安定して動いていた乗り物が、突然大きく揺れ、どこからか大きな爆発音がした。
「いったい何が………ああっ!」
「どうした!? この機体に何かぶつかったのか!? 敵なら俺がぶっとばしてやる!」
「ちがうの! 後方の翼のエンジンがすごい勢いで火を噴いてる!」
「なにぃ!?」
二人が窓の外を見ると、わずかに見える機体後方のエンジンから盛大に火が吹き、破片がばらばらと宇宙空間に飛び散っているのが見えた。
それと同時に、機体は惑星に向かって水平姿勢のまま急降下しているようで、このままでは大気圏突入時にばらばらになるか、さもなくば地上か海面に激突して墜落してしまうだろう。
「畜生っ、どうなってやがる!」
「あたしはコックピットを見てくる!」
「俺も行くぞ!」
先ほどまで敵対していた二人だったが、宇宙船の危機に瀕したことで呉越同舟の状態となった。
二人はフロアを離れて前方の通路を進み、揺れる期待に足を取られないよう注意しながらなんとかコックピットにたどり着いた。二人掛けの操縦席にはだれもおらず、画面にはよくわからない警告が無数に表示されていた。
「冗談じゃねぇ! 競技が始める前に墜落死なんてまっぴらごめんだ! とりあえず着地させるぞ! お前はそっちの操縦桿を引け!」
「わかった!」
この二人は宇宙船の操縦技術などはないが、何とか制御しようと操縦席に付き、操縦桿を握りしめると、思い切り手前に引いた。
宇宙船はすでに大気圏を突破しており、雲の上の高高度からものすごい速さで落下していた。
「あがれっ! あがれぇっ!!」
「エンジンは全開のはずなのに、速度がどんどん下がってく!? どうして!?」
実は宇宙船――――と言うより、航空機にかんする基礎的な知識だが、機体が速度不足で失速している時に操縦桿を引いてしまうと、逆に揚力がなくなってしまい、速度が全く上がらなくなってしまうのだ。
そんなことをこの二人が知るはずもなく、機体は無情にもどんどん高度を下げていった。そして……………
「なんてことだ! もう助からないぞ!」
「こんなの嘘でしょう? なぜなんですか?」
哀れ機体は大陸のど真ん中に腹うちの状態で墜落。機体は爆発し、木っ端みじんになったのだった。
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