高月さんのグルメ ~♪~猛毒ハンバーグの食べ比べ編~♪~

「お待たせしました、ご主人様。『トリプルトーストのボツリヌス菌添え』でございます」

「おう、よこせ!」


 材料となる肉の山を変形させて作った、立派かつ悪趣味な椅子にふんぞり返る高月あやかのもとに、彼女の六道の闇から生み出された真っ黒な来朝らいさ(以下、黒来朝)が恭しくバーガーを運んできた。

 まず一品目は、ついさっきまで元の人物が作っていた『トリプルトースト』。真黄色まっきいろの分厚い豆腐のから揚げが三段をパンズが挟んでいるが、豆腐に含まれている毒の影響か、パンズまでペンキで塗りたくったかのように黄色い。

 あやかは早速奪い取るようにして一口で食べるが――――


「まっず!!??」


 醤油とマヨネーズがたっぷりかかっているとはいえ、豆腐をパンズで挟んだものがおいしいわけがない。


「ご主人様、お替りはいかがですか?」

「いるかっ! 残りはあそこのごみ箱にでも捨てちまえっ! 次はもっと旨いのを作れ!」

「承知いたしました」


 あやかの命令を受けた黒来朝は一礼して下がると、用意していたトリプルトーストをすべて転送装置の中に捨てて転送すると、次のお題である『伯邑考バーガー』を差し出した。

 このハンバーガーは中国4000年の歴史の中でも有名な、人肉料理の元祖と言われており、今でも書物に作り方が残されている、由緒正しき宮廷料理である。


「『フッ化水素コーティングの伯邑考バーガー』でございます」

「お! 美味そうだな! …………おう! これだ! これは俺様ごのみだ!」


 人肉を思わせる赤黒いハンバーグと、骨まで溶かして発狂するほどの激痛を与える化学物質のハーモニーが、あやかの口の中で上品な品格を漂わせる。常人は死ぬしかない旨さだが、あやかは生きてこの美味を堪能することができる。


「よし、気に入った! これは俺様が気に入った印をつけろ!」

「はい」


 こうして『フッ化水素コーティングの伯邑考バーガー』には、表面に高月さん印を付けたブランドとして、転送装置に収められた。


「ご主人様、続きましては『超大英帝国バーガー・有機水銀入り』でございます」

「ちょっと待て! 見た目がヤベェぞこれ!」


 次なるバーガーは、あやかですら思わずツッコミを入れてしまうほど奇妙な見た目を持つ『超大英帝国バーガー』。上部のパンズからニシンの頭が突き出て上を向いており、その間にはマーマイトやハギスや鰻ゼリーで味付けされたパンズに、有機水銀入りのフィッシュアンドチップスが挟まっている。

 まさにイギリス料理の粋を集めて作られた英国面の極みであり、当然味も究極の英国面であった。


「…………チェンジだ」

「承知いたしましたご主人様」


 一口食べたあやかは静かに首を振ると、『超大英帝国バーガー』を捨てさせた。


「では、続いて『ヤンバーガーのサキシトキシンソース』になります」

「お! これはうまそうだぞ!」


 んんwww『ヤンバーガー』とは、パンズに挟む具を、すべてパテにしたものですなwww 八段に重なったパテの存在感が圧倒的ですぞwww 名前の由来も、艦船に同一の装備を乗せる「論者積み」からきたものですなwww 具材はハンバーグ以外ありえないwww

 某天使も大好物ですなwww されども、サキシトキシンをソースにするのはお勧めできませんぞwww 呼吸困難になって死ぬ以外ありえないwww


「よーし、これも気に入った! ボリュームも満点で文句なしだ!」

「ありがとうございます、ご主人様」


 こうして『ヤンバーガー』も、無事高月さん印を着けられて、転送装置へと運ばれた。


「ご主人様、続いては『カルタゴバーガー、カエンダケ付き』でございます」

「今度はハンバーガーが真っ白いじゃねーかwww! なんでそんなハンバーガーがあるんだよwwww」


 カルタゴバーガーもまた、紀元前から受け継がれてきた由緒正しきハンバーガーであり、パンズからパテ、具材から何までやりすぎなくらい塩漬けにしたハンバーガーであり、ローマのカルタゴへの怨念が感じられる。さらに食べると指先やアソコが真っ赤に腫れて腐り落ちるカエンダケも加えて、殺意10割増しである。

 ゆえにカルタゴは滅びるべきである。


「しょっぺぇよ! これじゃあ味がわかんねぇよ!」

「お気に召しませんでしたか?」

「いや、さすがにこれはあんまりだろ!」


 あやかの気に召さなかったため、カルタゴバーガーは転送装置に送られた。

 そしてすぐに次が来る。


「お待たせしました『レバノンバーガー・アトミックスペシャル』です」

「すげぇ! これは豪華だな!」


 続いての品目は、異世界では「飛行機を落とすほどのおいしさ」と言われている『レバノンバーガー』である。

 まるでレバノンの国旗を思わせるように、赤黒く染まったトマトソースハンバーガーと、真ん中に真っ白な豆腐を挟み、レバノン国旗に掛かれているレバノン杉は、幻のお菓子「すぎのこの村」を挟むのだが、材料が足りなかったため、黒来朝はウラン棒を杉の子村の形に整えることで代用とした。


「あぁ……うめぇな。これもアリだ! 俺様の印を刻んでおいてくれ!」

「承知いたしました、ご主人様」

「いやー、お前が作るハンバーガーはマジでうめぇ! 次はとっておきを頼むぜ!」


 『レバノンバーガー・アトミックスペシャル』もまた、無事あやかのお眼鏡にかなったということで、上部のパンズに高月さん印を刻印されて、転送装置に送られた。

 そして、次は…………


「お待たせいたしました、ご主人様。こちらが、最後の一品『終わりのあやかバーガー』でございます」

「よっしゃ! 俺様の名前がついてるバーガーったあ気が利いてるじゃねえか…………ん?」


『終わりのあやかバーガー』…………それは、とある大規模組織から流出した、最凶生物のデーター分析して作られた、究極の激甚災害ハンバーガーである。

 数十種類のレシピの中でも極めて異色な見た目であり、コールタールに漬けて黒く染め上げたパンズの中に、血と鉄で練られた恐ろしい姿のパテを挟み、周囲を触れるものすべてを傷つけるサメの牙で囲むことで、まるで暗黒物質が不気味な笑みを浮かべている最強におぞましい見た目になる。

 まるで「俺様を容易に食らえると思うな! むしろこっちから食ってやるぜ!」と言わんばかりの力強い見た目。そして、すべての衝撃を超越する味は、まさに最凶生物高月あやかの名にふさわしい。


 だが、あやかは終わりのあやかバーガーを口にする前に、黒来朝がぽつりとつぶやいた言葉が気になり、彼女の手の中で暴れる終わりのあやかバーガーを握力で押さえながら、その真意を尋ねた。


「最後ってのは、どういうことだ?」

「ご主人様……この品を気に入っていただけても、お気に召さなかったとしても、あと一つだけ転送装置に納品すれば、ご主人様は勝利となります」

「あ…………」


 あやかが電光掲示板に目をやると、確かに高月あやかの特典が499と表示されている。すなわち、今の品を納品すれば、このゲームはあやかの勝利で終わる。


「そして、この競技が終われば、ご主人様の身はここに来る前に戻ってしまいます。それはつまり…………」

「お前が! 消えるのか!? 噓だっ!!」

「いいえ、これは定めなのでございます。さあ、ご主人様、私の最後のご奉仕…………受け取っていただけますか?」

「……………」


 あやかは黙って、その手に握った『終わりのあやかバーガー』を力強く口に運んだ。

 噛むたびにあふれ出てくる、気が狂いそうになるほどの地獄の怨恨と、黒来朝が精魂込めて流し込んだ、海に一滴たらすだけで全世界のサメが絶滅するほどの猛毒が、あやかの涙腺をピリピリ刺激する。


「ではご主人様、最後の納品に行ってまいります」

「…………味の感想は聞かないのか?」

「はい。私のご主人様への忠誠を全て捧げた逸品ですから、聞かなくてもわかります」

「お前とは、もう会えないのか?」

「この競技が終われば、私の存在は消えてしまうでしょう。ですから……私は、せめてご主人様の記憶にだけは残るよう、精いっぱいご奉仕させていただきました。ご主人様、この競技が終わっても、私のことを覚えていてもらえますか?」

「……………当たり前だろう! 俺様はヒーローだ! ヒーローは愛した女のことはぜってぇ忘れないもんだっ!」

「ふふっ、それを聞いて安心いたしました」


 こうして、黒来朝が終わりのあやかバーガーを大量に納品したところで、競技は終了した。

 500 - 25 高月あやかの圧勝だった。


『本日の競技は終了いたしました。気を付けてお帰りください』


 無機質なアナウンスが流れると、あやかの身体が転移の光に包まれ始める。

 そして、少し離れたところから、黒来朝が深々と頭を下げて、一時だけのご主人様を見送った。


 転送装置のハンバーガーが、この先どうなるのかはあやかにもわからない。

 だが、自分の自慢の使用人が真心と毒を込めて作ったハンバーガーだから、きっと誰かがおいしく食べて昇天してくれるだろうと心の中でつぶやいた。


(俺様は忘れないぜ、お前の名前を……………そういえば、あいつの名前聞いてなかった!)


 最後の最後まで決して名乗らなかった来朝は、ここにきてようやく、あやかに「もやもや感」と言う名の毒を与えることができたようだった。



第二試合結果

勝者:高月あやか 勝利条件達成により

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