インターバル

インターバル その1

 かなめがため息をつきながら転送装置から控室に戻ると、雪都ゆきとともう一人、満面の笑みを浮かべた見知らぬ癖っ毛の天使が出迎えてくれた。

 雪都ゆきとが出迎えてくれたことに一瞬嬉しくなったかなめだが、ふとあることを思い出して、慌てて自分の体を確認した。彼女の体には傷一つなかった。


「おかえりなさい、かなめさん。初戦を白星で飾れたようで何よりです」

「えへへ、大丈夫ですよ~かなめさん。たとえ死んじゃっても、ここに戻ってくれば元通りになるんですから、ボロボロでも気にすることないですよ♪」

「……雪都ゆきとさん、このは?」

「今回の遠征で、チームの案内をしてくれることになったステラエルさんです」

「初めまして、ステラエルっていいます。よろしくお願いしますね♪」


 そう言って、天使――――ステラエルは、満面の笑みを浮かべたまま首をかしげるように挨拶をしてきた。

 一応この世界に来た際に、案内人が各グループ一人ずつつくとのことだったが、それがこの天使なのだろう。

 だが、そんなことよりかなめには気に入らないことがあった。


「案内を行ってくれるのはありがたいですが、少々雪都ゆきとさんに近づきすぎじゃないかしら? 雪都ゆきとさんの世話役は私なのですから、少しは身の程をわきまえていただかないと」

「そうだよ(便乗)! さっきからあなたは教官になれなれしすぎと思うなっ!」

「あの、二人とも……服をあまり引っ張らないでください」

「ふぅん……へえぇ」


 ステラエルがあまりにも雪都ゆきとのそばに寄りすぎているのが面白くないのか、かなめはもとより、準備運動をしていた唯祈いのりまで目ざとくその光景を見つけて割り込んできた。

 そしてすぐさま視線で火花を散らし、雪都ゆきとの服を掴む二人を見て、ステラエルはにっこり笑って細めている目の奥を光らせた。


「ともあれ、今はかなめさんが初白星を挙げてくれたのですから、勝利をたたえましょう」

かなめさん、gratulierenグラトゥリエレンっ!」

「おめでとうございまーす!」

「さっすがかなめさん! 私も負けてられないね!」

「……まあ、かなめさんのすごさはあたしもよく知ってるから。おめでとう」

「ふふ、みんなありがとう。次はきっとあなたたちの番よ、頑張ってね」

「…………」


 色々な思惑はあるが、仲間たちは素直にかなめの初勝利を称えた。

 まるでスポーツチームと言うより、部活動のような緩いノリを見て、ステラエルは笑顔のままながらも、醸し出す雰囲気は若干不機嫌そうだった。


「まぁまぁ、皆さん仲がいいんですね! こんなに仲がいいチームはほかにありませんよー」

「そうなの? ほかのチームのことなんて知らないけど、これくらい普通じゃない? かなめさんの対戦相手とかどんな感じだったの?」

「私の対戦相手ですか……? …………ちゃんとした大人の女性でしたよ、一応。話もそれなりに通じましたし」


 来朝らいさから、相手はどんな人物だったか尋ねられたかなめは、ふと先ほどまでのことを思い出したが、詳細に説明するには難しい相手だったので、やや言葉を濁した。


「戦闘の詳細については、後で私にご報告ください。それより、鹿島かしまさんと千間せんげんさん、そして舩坂ふなさかさんはもう次の競技に呼ばれていますから、すぐに準備してください」

『はーい』

「うふふ、頑張ってくださいねみなさん。私もこの部屋から応援してるわ」


 かなめが戻ってきて間もなく、見習い3人がほぼ同時に指名されたようだ。

 戦闘の詳細を語って聞かせた方が今後のためになるのかもしれないが、残念ながらそのような時間はない。

 残った摩莉華まりかが、3人を自然な笑顔で見送り、そのままかなめの報告会に同席することとなった。


「はーい、じゃあそれぞれの行き先の転送装置にしっかり乗ってくださいね♪」

「教官、行ってくるね。来朝らいさたちも頑張って」

「言われるまでもないわ。私はいつだって最善を尽くすもの。せいも、遊びじゃなくて実戦だって忘れないように」

「うん、わかってるよ先輩! どんな戦いになるのかなー? ドンパチにぎやかなのがいいな! Kriegクリーク! Kriegクリーク! Kriegクリーク!」


 こうして彼女たちは、お互いの健闘を祈りつつ、ステラエルの案内によって別々の競技会場に飛ばされていった。

 果たして、次に彼女たちを待ち受ける運命は――――


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