SSS!
見習い退魔士たちの教官を務める男性退魔士、
「おや、もう来たのですか皆さん。集合時間まであと1時間あるのですが」
「いいえっ! 上官から呼び出しを受けたのなら、確実に時間内に集まれるよう可能な限り早めの行動を心がけるのは当然ですっ!」
「よく言うわ…………教官からの召集が嬉しいからって、私たちまで巻き込んですぐに店から出てきたもんね」
「いやー、韋駄天もかくやの見事な
ところがメールを受け取った
「…………早めの行動を心がけるのは素晴らしいことですが、あまり早く来ても迷惑と言うこともありますから、気を付けてくださいね。とはいえ、来てしまったものは仕方ありません。あと一人来ますので、席に座って待っていてください」
『はーい』
さて、この柔らかな物腰の教官――――
今年で24歳になる彼は、ギリギリ第一線で戦うことができた世代であり、彼女たちと一番年が近くてかつ経験があるということで、教官の任についているのである。
「よかったら、資料に目を通しておいてください」
「これは…………『白機関・異世界遠征計画』……?」
異世界遠征計画とはいったい何のことか…………? 気になった見習いたちが資料をめくろうとした時、会議室に女性が一人飛び込んできた。
「失礼いたします。
黒いスーツを着たセミロングの茶髪の女性、
「大丈夫です
「あら、そうだったのですか。ですが、一番最後に来てしまったというのは、少し複雑な気分ですわ」
そう言って
しかし、今度はなぜか
「むぅ、教官」
「どうかしました? 鹿島さん?」
「なんでよりによってこの人呼んだの? っていうか、
「そう言われましても…………」
「こらこら
「あ、まあまあまあお二人とも、こんなところで睨み合わないで、ね?」
「えー止めちゃうの?
「だまらっしゃい。このままだと二人とも、教官に嫌われるよ」
『…………』
二人がようやく静まったところで、朴念仁の
「さて、皆さんに早く集まってもらいましたので、もう説明を始めましょうか。先日、討魔省(※退魔士たちを管轄する省庁)から、我々「白機関」に密命がおりました。それが…………手元の資料に書いてある、異世界遠征計画というものです」
「異世界……えっと、私たちが異世界に行くってことですか?」
「まるで漫画のような内容」
いくらこの世界に異能超常があふれ、物理法則も平気で捻じ曲がる世界だとしても、異世界などと言う概念は、それこそタイムマシン並みにありえないものだ。
「はは~ん、この世界に魔の物がいなくなったのなら、ほかの世界の物を倒しに行けばいいって話なんだね!」
「もうすでに計画が立ってるってことは、異世界に行く手段は用意されているということよね教官」
「ええ。違う部署が持ってきた話なので、原理の詳細は私も不確かなのですが、どうやら次元の向こう側の存在と接触することに成功したようです。ですが、今回は残念ながら、単純に魔の物を倒せばよいというものではないようなのです」
そこで討魔省の上層部は、現在過剰在庫気味の退魔士たちの活躍の場がないか交渉を行ったらしいのだが……………相手にその意図が伝わったのかどうか不明ながら、上限6名までの優秀な人材の派遣を要求してきたのだった。
説明している
だが、この機を逃せば今後この世界での退魔士の地位は衰退の一方。であるならば、多少の危険を冒してでも、実戦経験を積むのも悪くはないだろう。
それに、いざとなったときの安全策も用意されており、そこまで無茶をしなければ命を落とす危険はないという見通しもあった。
「なるほど、それであたしたちが異世界で活躍できれば、退魔士の仕事がなくなってしまうこともなくなるんだね! 教官、あたしやってみるよ!」
「うーん、なんだか嫌な予感がするけれど、将来のために実績を積んでおくのも大切だし、教官が安全っていうなら、まあ大丈夫でしょう」
「私ももちろん行くよっ! えっへへへ~、戦いってどんなのだろう? 今からワクワクするね!」
「私も賛成ですわ。異世界にも私たち退魔士の実力をお見せしましょう」
見習い4人は誰もがやる気になっていた。
そして
「我々白機関の初めての実戦がこのような形になるとは少し想定外でしたが、やる気があるようで助かります。私も全力でフォローしますので、無理のない範囲で戦いましょう。ああ、それとですが、もし負けても命を落とさない準備はしてありますが、何かしらの功績を挙げた方には、討魔省から報酬として100万円をお渡しするとのことです。ぜひ頑張ってください」
『100万円!?』
100万円の臨時収入が入ると聞いて、見習い4人はにわかに色めき立ち、お互いに顔を見合わせた。
育成に数十億もの税金がかかっているともいわれている彼女たちだが、その費用は実際に彼女たちの懐に入るわけではなく、毎月支給される数万円の支度金以外は年相応のお小遣いかはたまたバイト代が、彼女たちの全財産となる。
ゆえに、100万円は少女たちにとっては夢のような大金だ。
「では、異論がなければ、『白機関・異世界遠征計画』を発動すします。念を押しますが、今回は演習ではなく実戦です。いつも以上に気を引き締めてくださいね」
「教官! 一つ意見があるの!」
「なんでしょう鹿島さん」
説明を終え、これから期日までの行動計画の説明に移ろうとしたところで、
「『白機関・異世界遠征計画』って名称は、教官が考えたの?」
「いえ。これはあくまで、上層部から仮作成された名称ですが」
「今のままだとちょっとつまらなくない? せっかくなんだし、もっとかっこいい名前つけようよ! ライサもそう思うでしょ!」
「古臭いと言えば古臭いよね。もっとこう、JKっぽさを出したいっていうか」
どうやら女子たちは、まるで大戦の頃のお堅い名前が気に入らないらしい。
そもそも「白機関」というのは、
「でしたら、陸軍の精鋭部隊のように「特殊作戦群」と名乗るのはどうでしょうか
?」
「おお、かっこいいですね、特殊作戦群!」
「ですがただの特殊作戦群だと、何か足りませんわ」
「じゃあさ! あたしたち6人だし、教官が隊長と言うことで『
「おお、それっぽい響き、いいね!」
「『六花特殊作戦群』…………ドイツ語で
「じゃあ略してSSSか! 強そう!」
「……皆さんがそれでいいというのであれば」
こうして、白機関改め『六花特殊作戦群』(通称SSS)は、異世界遠征と言う前例のない任務に挑戦することとなった。
果たして、彼女たちにはどんな困難が待ち受けているのか、それを知るものは誰もいなかった。
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