環境構築作業87%

「……

 深く静かに、朗々と朗々と。AI主制御室の前に溢れている人間たちの間に自分の声を流していく。

 いきり立っていた人々の喧騒が止み、廊下から熱が失せ、人々が一人一人と立ち去っていく。その光景を最後の一人が消えるまで静かに眺めていた。

≪助かりました≫

 声に振り向く。人々に押し倒された彼女を立たせると彼女の制服を整えた。

「大丈夫か?痛いところとかない?」

≪痛覚センサは稼働してませんよ。内部にも異常はありません≫

 そう告げる彼女の頬が赤くなっていたのが目に留まる。

 何とはなしに手が伸びた。

「腫れそうな色だけど」

≪人間の反応性との調和機能です。外部環境でミキヤを手伝う際に痛覚センサの反応がいる際は不具合に気づくためにオンにしてますが、ここでは必要ないので≫

 さよか、と告げながら手を離した。

 30年を経過してもコロニーから出ることが出来ない、というのは人類には大きな苦痛になると言うことを度々実感する。これもその一つで定期的に動物の暴走スタンピードのように人間も群れで暴れるのだな、と何度目になるのか分からない実感を得た。

≪ミキヤのアレは何度見ても不思議ですね≫

 打撲反応――と言うことらしい――の箇所に手を添えた彼女がいう言葉に少し笑う。

「不思議と言うならアイさん達もだよ」

≪不思議ですか?≫

「効いてないもんな。言葉が」

≪人間とはシステムが違うのでしょう≫

「最近は人間臭いなあ、と思うけどね。制服を着ないで人間達の間にいたら一瞬見失うかもしれない」

≪……誉め言葉ですね≫

 そう言って笑う彼女が人間じゃないと思うのが、難しいような、華が咲くような笑顔。

「制服以外見たことないな、そう言えば」

 それを見てつい口をついた言葉。

≪ミキヤは趣味で手助けしているので時々忘れてますが、私達AIは皆現状でも業務中なのですよ?≫

 澄ました顔でそう告げる彼女はとても人間らしかった。

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