閉鎖工程進行97%

≪懐かしいですね≫

「恥ずかしいですが」

≪緊急事態の中防護服を着て人間らしさをアピールしてくれたミキヤの事を今でも思い出せます、ストレージに保存してあるので≫

「物理的に思い出せるの何かずるくない?」

≪AIですので≫

「アイさんは何かあるとシステマチックモード使うね」

 大きく溜息をついて立ち上がる。わざとらしくホログラムを通り抜けて部屋を出た。残りの階層は10。人間の作る建物は何時の時代も下部構造に行くほどに大きな容積率を誇り、部屋は小さくなる。

≪まあ、私としてもミキヤが吸血鬼だと言い出した時は大変に困りましたからね≫

「色々実験されたな、あん時は。ノーマスクで外を歩いて環境適応だっけ?調べられたり」

≪全然日の光が効かないので伝承は嘘をつくのだなと思いましたね≫

 1フロア分階段を降り、何となく右手の法則という言葉が浮かんで右に曲がった。

 一部屋目。当然のように鍵はかかっておらず、当然のように無人。手元の管理モニタの色がチェック済みに変更された。

「そりゃ日焼けで死ぬ生き物はちょっと儚すぎるだろ日焼け止めが必要なのは82年経っても変わらないけど」

≪日焼け止め、日焼けの抑制以外にも使い道あったんですね。人類に適用できない使い道ですが≫

「人類で羨ましいのは気軽に青空の下に出て海で泳げることだよ」

 夜なら行けるんだがなあと思いながら三つ目の部屋の確認も終わる。

≪……あの時に我々が大きく助けられたのは事実です。端末が5体集まっても運べないような物も貴方なら運べた≫

「そういう生き物だからな。それに俺も困っていた。飢えてしまうから」

  あの時の事は今でも思い出せた。

 死んで行くのだ。さっきまで話していた同僚が、道行く人が。

 運転中にドライバーが亡くなり暴走を始めた車に跳ねられる人もいた。後で思い返せばどちらにしろ死んでいたとは思うのだが、とにかく今でも思い出せるほどに恐ろしい光景だった。

 最初に考えたのは何が起きたか、だった。

 何度揺すっても起き上がらない同僚達を確認してフロアを走り回った。何が起きたかは明白ではないが結果だけが残されていた。深い交流は作らない、ボロが出てしまうから。だからと言って知っている顔が死んでいくのは全く好ましくない。

 次に考えたのは吸血鬼にとっての食糧問題だった。大量に要る訳ではないが、まるで摂取しない訳にも行かない。人間の食事は食える、エネルギーにもなる。だが何というか肝心の満腹感が無いのだ。草食動物に肉だけを与える、植物に海水をかける、致命的なすれ違い。雑食の中にどうしても人間の血液が必要な栄養素として存在する。種族としての特性、それは人類の絶滅はイコール吸血鬼の絶滅だった。

≪他の、というと変ですが。ミキヤ以外の吸血鬼の方々との連絡は結局つかないままでしたね≫

「スマホが使えなくなったからな、あの後」

≪今でもたまに思うんですが、なんというかファンタジー的な力で解決出来なかった事の一つになります、私の中で≫

「そんな力ないよ。俺の特性は種族の普遍的な奴だからな。馬鹿力、不死性、催眠、日焼けに注意。日焼けに注意はなんか違うけど、まあ連絡向きじゃない。それに」

 7つの部屋を確認して廊下で一息つく。

「ファンタジー力で解決ならとっくに神様とか出てくるんじゃないか?」

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