第7話 朱雀の試練


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「……んっ…?」



朝日の白い光で目を覚ますと、何かが物足りない気がした。その答えを探すために温かくて真っ白な布団の中でモゾモゾと動いてみると、すぐに答えは見つかった。


「…かおる…?」


目を擦りながら上体を起こし部屋を見渡しても、探し求める男の子は何処にもいなかった。そしてもう一つ、不可思議なことに気が付いた。


「…あれ?ここ、馨の部屋じゃない…?」


そう、何故か馨の部屋ではなく初めに案内された自分の部屋の布団で眠っていたのだ。寝起きの頭で一生懸命考えてみても、何故、どうやって自分の部屋に戻ってきたのか見当も付かなかった。すると、不意に女の人の「失礼致します」という声が聞こえ、襖が静かに開かれた。


「おはようございます、美子様。朝食のご用意が出来ておりますがこちらにお持ち致しますか?」


「お、おはようございます。えっと、お父さまと食べます。」


起きたばかりで声が裏返りそうになるのをなんとか堪えてそう答えると、廊下に正座をしているその人がまた口を開いた。


「畏まりました。では、身支度のお手伝いをさせて頂きます。」


「お手伝い?」


すると、それを合図としたかのように水の入った桶やお化粧箱、私の巫女装束を持った女の人達が姿を現した。


「先ずはお顔を洗いましょう。」


「次に御髪を。」


「お召し物はこちらに。」


迅速に、かつ丁寧に整えられていく自分の姿に一種の感動のようなものが芽生える。けど、やっぱり慣れない特別扱いに、木目の綺麗な天井をぼんやりと眺めることしかできなかった。






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「…おはようございます、お父さま。」


さっきの一件が尾を引いて疲労の滲む挨拶の声に、座って待っていたお父様が顔を上げた。


「おはよう。今日は袴の結び目が綺麗だな。」


「ははっ…」


乾いた愛想笑いを返すと、目で座るように促された。それに従って座布団の上に座ると朝食を載せた朱色の御膳台が運ばれてきた。



「「いただきます。」」


手を合わせてお父様と一緒に挨拶をし、慣れない大人用のお箸でご飯を食べ始めた。一口二口と箸を進めると、部屋が昨日よりも広く感じた。



「…あれ?お父さま、どうして権宮司殿と馨は朝ご飯を食べに来ないんですか?」


ようやくその原因に気が付き、お椀を両手で持ったままそう質問した。すると、汁物を口にしていたお父様が眉間に皺を寄せて口を開いた。


「…食事中は私語をしないようにと教えたはずだが……まあ、今は許そう。」


そう言うと、持っていたお椀とお箸を膳に置いたので、私も慌ててそれに倣った。


「権宮司殿と次期当主殿は、本日行われる「朱雀の試練」に向けての用意があるため朝食は既に摂っており、ここにはいないという訳だ。」


「「朱雀の試練」って、あの「赫焔籠」の時に話してた真の神託を授かる試練ですか?」


「ああ。きちんと話を聞いていたようだな。」


思いも寄らないお父様からの褒め言葉に、ニヤけそうになる頬を両手で抑えてまた質問した。


「それじゃあ、馨が今日その試練に挑むんですね?」


すると、お父様はゆっくり頷いた。


「何か他に気になるのなら権宮司殿が後程見られるからその時に聞いてみるといい。」


話し終えるとお父様はまたお箸を手に取って食事を摂り始めた。



(…そっか、今日が試練の日だったから忙しそうだったんだ。それなら、馨も言ってくれればよかったのになぁ…。)


そんなことを心の中で呟きながら、柔らかいご飯を何度も噛んで喉に通した。だけど、満たされていくお腹に比例するように、どんどん心に虚しさが溜まっていった。





………

……






「失礼致します。」


朝食を終え、御膳が下げられるのと同時に権宮司殿が姿を現した。


「おはようございます。我が一族の仕来りによりご挨拶が遅れてしまい誠に申し訳ございません。」


深く頭を下げた権宮司殿を平然と眺めるお父様は、一つ瞬きをしてから口を開いた。


「おはようございます。お忙しい中、ご挨拶いただきありがとうございます。」


そんな上辺だけのやり取りを横目に、私は彼の姿を探した。すると、それに気が付いた権宮司殿が答えてくれた。


「美子様、申し訳ございません。馨は既に試練に挑んでおりますので、こちらへ参り直接ご挨拶を申し上げることが出来ません。」


「あっ…そう、ですか…。」


今朝のこととか、途中になってる話の続きとかを聞きたかったのに、それらが叶わないと知り肩を落とした。


「その試練って、何時くらいに終わるものなんですか?」


何の気なしにそう問えば、意外にも返ってきたのは沈黙だった。





「…滞りなく進めば戻るのは昼頃だと思われます。しかし、恐らく馨は戻らないでしょう。」


「えっ……?」


冷淡な声で吐き捨てた言葉は、受け止めるにはあまりにも重く心を潰した。潰れた心は、いとも容易く思考と言葉を奪う。



「…「朱雀の試練」は挑む者に真の神託を授ける以前に、その者が朱雀の力を持つのに相応しいか否かを見定める試練なのです。」


聞きたいけど聞きたくない現実を、耳に反響する声が無情にも脳に刻み込んでいく。


「朱雀は五行思想の「火」に相当し、加護として火を操る力と未来を見通す力を我ら【朱雀】に授けるのです。そして、その強大な力に値する者かどうかを見定めるために、「朱雀の試練」またの名を「火炎の試練」を与え適性を見るのです。」


「…火炎の、試練…?」


嫌な予感に唾を飲むと、冷や汗が頬を伝って畳に落ちた。



「…「火炎の試練」とは挑む者を火の海に落とし、どのように対処するのかを朱雀が見る試練です。そして、生きて帰るも命を落とすもその者の力量次第なのです。」


…どうしてこの人は、自分の息子の命が危ういというのに、こんなにも冷静なのだろう…?それに、どうして「戻らない」なんて言えるんだろう…?怒りも焦りも露わにしないその表情に、だんだん怒りが込み上げてくる。



「…たとえ危ない試練だとしても、馨なら大丈夫ですよね?戻らないなんて」


「馨には、火を操る力も未来を見通す力もありません。生まれた時に授かる加護が両方とも欠落しているのです。故に、あの子が試練に挑んだとしても、帰ることは叶わずただ炎に焼かれて死ぬのです。」


私の言葉を遮って言い放った残酷な言葉は、再び私の心を潰し憤怒を煽った。



「…し、ぬって………っ!どうして分かってるのに止めないの!?馨は【朱雀】の次期当主で、いなくなったらあなたたちだって困るでしょう!?」


立ち上がって怒りを叫んでぶつけても、その人は冷静に私を見つめていた。


「…この試練であの子が焼け死んだとしても我々は困りません。【朱雀】の次期当主は他におりますので。」


「…えっ…?」


その瞬間、昨日馨が言っていた言葉が脳内に響き渡った。



『【朱雀】の一族では男性よりも女性の方が朱雀の加護が強いようで、代々当主を務めるのは女性なんだ。』


『…【朱雀】の現当主、即ち僕のお母様はご懐妊なさっていてね、今は大事を取ってお休みになられているんだ。』



…過去の記憶と現在の言葉が混ざり合って、一つの答えを導き出す。その答えに、全身の血の気が一気に引いて身体が震え出した。



「…何ともめでたいことに、朱雀様は女の子を授かっております。そして、その子は胎児でありながら強い加護を受けており、ゆくゆくは一族を率いてくれると朱雀様は申しております。故に、試練であの子が焼け死んだとしても何一つ困ることなどないのです。」


その人は無表情のまま、答え合わせでもするかのように丁寧に言葉を紡いでいった。答えを聞き終えて、私は一言一句違わなかった事実に膝から崩れ落ちた。


…怒りや悔しさ、悲しみに無力感がぐちゃぐちゃに入り混じって、その苦しさから何も考えることができなかった。




「…美子。権宮司殿に怒鳴るなど非礼な行いだぞ。【応龍】として恥を知りなさい。」


それまでずっと口を閉ざして成り行きを見守っていたお父様が、突然私を非難した。今の話を聞いても動じないということは、お父様もそのことを知っていたのだろう。


「……はい。申し訳ありませんでした。」


歯を食いしばりながら謝り、頭を下げるとお父様も権宮司殿に頭を下げた。


「権宮司殿、申し訳ありませんでした。幼いが故に感情を抑制出来ぬのです。このような事が二度とないよう教えますのでお許しください。」


「いえ、気にしておりませんので頭をお上げください。」


そう言われて体勢を戻しても今の、怒りに歪んだ顔を見せたらまた「非礼だ」と怒られると思ったから顔は伏せたままにした。


「美子、部屋に戻って少し頭を冷やして来なさい。私が良いと言うまで自由行動は許さない。」


「…はい。失礼します。」


ここから早く離れたくて重たい体を無理矢理動かして部屋を出た。すると、私の後を追うようにお手伝いさんが一人立ち上がって歩き出した。見張り役としてお父様が付けたのだろう。


(…信用ないな、お互い様か…)


憎いやら哀しいやらでまた顔が歪んでいくけど、その顔を見る人は誰もいなかった。ただ前を向いて静かな廊下を迷う事なく歩いて行った。






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部屋に辿り着き、持って来ていた文献を広げて眺めていた時に一番初めに考えたのは、言うまでもなく馨のことだった。


(…どうにかしないと…でも、どうすれば良いんだろう…)


たとえ実の父親が諦めていたとしても、たとえ馨自身が納得していたとしても、見捨てるような真似だけはしたくなかった。


(…馨を助けるためには「朱雀の試練」を何とかしなくちゃいけないけど、そのためには火を操る力と未来を見通す力が必要…)


見張り役の人に考え事をしていると悟られないように、読んでもないページをめくって勉強しているフリをした。


(…私が使えるのはケガを治す力だけ…炎の海には効かないだろうし、それに馨が朱雀に認めてもらわないといけない…)


聞いたことを一つずつ整理して、何が問題でどう解決しなくちゃいけないのか、私に何が出来るのかを確認していく。普段は使わない頭を全速で回転させて必死に考えた。


(…そもそも、試練がどこで行われているのかも知らない…ここにいる人達は皆知ってるはずだけど、教えてはくれないだろう…)


考えても考えても、一向に打開策は思い付かず焦りだけが募っていった。


(…味方もいなくて、朱雀の加護を持たない私に、出来ることってー…)


最悪な結果ばかりが目の前を過ぎって弱音を吐きそうになった時だった。



ブワッ…!!


ガタガタガタッ



…開け放していた障子を揺らしながら、部屋の中に夏を感じさせる風が吹き込んできた。その風が耳を撫でた時、微かな声が聞こえた。



『………キテ…ミコ……』



…その声は、琴の余韻のように細く澄んだ声で、あの時聞いたものと全く同じだった。





「申し訳ありません。すぐに戸を閉めます。」


ずっと私に向けられていた目が風の吹き込んでくる障子の方に向けられたのと同時に、私は机の上にあった湯呑みを素早く倒してお茶を溢した。


「…あっ!」


「美子様!お怪我はございませんか!?」


お茶の溢れた音と私の声に慌てて近寄ってきたその人に、申し訳なさそうな顔をして弱々しく笑って見せた。


「…ごめんなさい、裾がぬれただけなので大丈夫です。だけど、机と畳が…」


そう言うと、その人は安堵の息を吐いて首を横に振った。


「いえ、美子様にお怪我がないことが一番でございます。すぐに拭くものとお召し物をお持ち致しますので少々お待ち下さいませ。」



そそくさと部屋を出て行く足音が完全に聞こえなくなったのをこの耳でしっかり確認してから、私も廊下を駆け出した。誰にも見つからないでと強く祈りながら、あの場所へ真っ直ぐ走っていった。






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「…はぁ、はぁ、っ…」


部屋を飛び出して辿り着いたのは、昨日あの声を聞いた「赫焔籠」の前だった。何か変わったことはないかと流れる汗を拭いながら見渡してみても、特に変化はないようだった。



「…いるんでしょう?力を貸して欲しいの。」


火の灯ってない灯籠に向かってそう言ってみても返事はない。だけど、私は構わず言葉を続けた。


「…わたしは、馨を助けたい。あなたもそう思ってるから、わたしを呼んだんでしょう?」


真っ直ぐ石籠を見つめると、さっきと同じ夏の風がそよそよと吹き始めた。


「…お願い、必ず助けるって約束するから、力を貸して…!」


力強く言い放つと、遠慮がちに頬を撫でていた風が突如強くなった。




『………ココ…アケテ……』



風と共にまたあの声が聞こえてきた。「ココ」がどこなのか分からず、石籠に近付いてよく見てみると小さな取っ手が付いていた。そして、それを引いてみると小窓くらいの扉が開いて石籠の中が見えるようになった。



「えっ…」



…開けた扉の奥を覗くと、石籠の中央のところで丸まる何かを見つけた。目を凝らしてみると、赤褐色の羽毛に包まれた丸い身体が微かに震えていた。言葉もなくただそれを見つめていると、閉じていた二つの精悍せいかんな目が私に向けられた。



『……アリガトウ…ズット、マッテタ……』



形の綺麗な嘴から発せられた声は、紛れもなく私を呼んだあの声だった。


「…あなたが朱雀、なの?」


戸惑いながらそう尋ねると、赤褐色の羽を持つその鳥は小さく頷いた。


「……」


想像していた姿形とは全く異なるその様子を凝視していると、朱雀は己の姿を恥じるように俯いた。


『……モトモト、イロ、チガウ……イマ、チカラ、ヨワイ……』


「力が弱いって…?」


その言葉に心臓が跳ね、痛いくらい早く脈を打った。


『……ニンゲン、シンジル…カミサマ、チカラ、イッパイ、ナル…』


「…今は、あなたを信じてくれる人がいないってこと?」


すると、朱雀は俯きながらまた小さく頷いた。その姿はとても悲しそうで、私は思わず手をきつく握った。


「…馨に、加護がないのもそのせいなの?」


そう言うと、今度は首を横に振った。


『……トリノコ、カゴ、アル……ツカイカタ、シラナイ……』


思いも寄らない答えに目を見張り、すがるように身を乗り出した。


「ほ、ほんとうっ!?馨に加護はあるの!?」


『……ホントウ…デモ、トリノコ、ヒ、コワイ……チカラ、ツカエナイ……』


「火がこわいって思うと、火を操る力や未来を見通す力が使えないってこと?」


少し分かりづらいけど何とか理解して言葉にすると、朱雀はコクンと頷いた。


「じゃ、じゃあ!それを言いに行こう!そしたら、馨も助かるよね!」


さあ行こう!と意気込む私を静かに見つめながら、朱雀は首を横に振った。



『……ダメ、アノバショ…ケガレテル……ギシキ、ジャマスル…シ、イザナウ……』


「…けがれてる…?儀式…?死にいざなう…?」


朱雀の言ってることが全く解らず、取り敢えず気になったところを復唱した。すると、朱雀が語り始めた。



『…シレン、チガウ…ホントウ、「スザクノギシキ」……トリノコ、ハジメテ、チカラ、ツカウ、シンタク、ウケルコト、「スザクノギシキ」ト……』


遠くを見つめるような目で石籠の外の空を見上げる朱雀。その姿は、悲しみや憂いを纏っているようで胸が締め付けられた。



『……ズットムカシ、ホノオ、キエタ……トウシュ、オサナイ、トリノコ、ギシキ、ヤラセタ……トリノコ、ヒ、コワイ……シンタク、ホノオ、チカラ、ナイ……トウシュ、アセル……シンタク、ホノオノタメ、トウシュ、トリノコ、ヒノウミ、オトシタ……チカラ、ムリヤリ、ツカワセル……デモ、トリノコ、ヒ、コワイ…チカラ、ナイママ………』


…言葉は途中で消えてしまったけど、その先は容易に想像ができた。そして、その残虐な過去に私は返す言葉を失ってしまった。



『……ソノコ、クルシイ、カナシイ、イタイ、ウラメシイ……フノカンジョウ、マ、ヨブ……アノバショ、ケガレタ……ソノコ、ヒトリ、イヤ……ベツノトリノコ、オナジコト、ナカマ、ホシイ………』


朱雀が口を閉ざして私を見つめた瞬間、それまで堪えていた涙が堰を切ったように流れ出した。滲む視界に慈しむような目をした朱雀が映り込むと、更に涙が溢れてくる。



「…っ、…ね、え…どうして、試練で、生きて帰れる子と…っ、死んでしまう、子がいるの…っ?」


しゃくり上げながら何とかそう問えば、朱雀は真っ直ぐ私を見つめながら答えてくれる。


『……ヒ、コワイ…ソレヨリ、イキタイ、ネガウ……チカラ、ツカエル……デモ、タダシクナイ、ツカイカタ……シンタク、ホノオ、ナイ……』


「…あなたを、朱雀を信じたっ、訳じゃないから…正しくないってこと?」


今度は溢れてくる涙を一生懸命拭いながらそう尋ねた。


『……ソウ……デモ、ギシキ、ヤリカタ、チガウ……ソレ、シンタク、ホノオ、ナイ、リユウ……』


暗い顔でそう答えた朱雀は、疲れたのか上げていた頭を体にうずめて目を閉じた。…その姿が誰にも信じて貰えないからだと思うと、心に鈍い痛みが走った。




「…わたしは、馨を助ける。」


無意識に、口が誓いでも立てるかのように動き出す。その声に、朱雀の羽が微かに震えた。



「…でも、あなたも助けたい。だから、どうしたら良いのか、教えて欲しい。」


そう言うと、目を閉じていた朱雀がゆっくり目を開いて私を見つめた。その目は、心の奥底まで見透かしてしまいそうなほど鋭くて、とても綺麗だった。



「絶対助けるから、わたしを信じて。」



その目に負けないように、私も真っ直ぐ見つめ返した。しばらくの間、言葉もなく見つめ合っていると、朱雀がゆっくり瞬きをした。



『……ミコ、イノル…ソノママ、ワタシ、ダキシメル……』


「祈りながらあなたを抱きしめるとどうなるの…?」


確認するようにそう問えば、朱雀は首を横に振った。


『……ワカラナイ…デモ、ミコナラー…』


そこまで言うと、朱雀は目を閉じて体に頭を埋めた。その姿はまるで、私に全てを託したよと言っているような気がして、嬉しくなった。そして、私も目を閉じて深く息を吸い込んだ。



「…お願い。朱雀に力を、馨に加護をー…」



目の前の小さな神様に祈りながら、からすくらいの大きさの鳥を両腕で抱き締めた。



…その瞬間、赤褐色の羽が燃えるような赤へ変わっていき、その小さな体から紅蓮の炎が噴き出して私ごと包み込んだ。その変化を呆然と眺めていると、腕の中で丸まっていた鳥がその鮮やかな緋色あけいろの翼を広げて飛び立った。羽ばたくたびにその鳥の纏う紅蓮の炎は増していって、私はその美しさにただ見惚れていた。すると、感触を確かめるかのようにしばらく空を飛んでいた鳥が灯籠の上に止まって私を見た。



『……アリガトウ、ミコ…コンドハ、ワタシノバン……』



そう言ってフワリと私の右肩に舞い降りると、天に向かって大声で鳴いた。…その声は、篠笛の音のように優しく凛としていて、天を突くように響いていった。





        

続く…

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