ミリしら家族

澄岡京樹

とある考察

ミリしら家族



 超統合宇宙暦3000年。人類は完全に統合情報集合体となり個としての生命ではなくなっていた。……が、それはそれとして思考回路としては多くの個別コミュニティが形成されており、その中でさらに多くの個別人格体が意見を交わしていた。そういう意味ではまだ一つの巨大な生命になっているというわけではなかった。西暦2000年代初頭人類にわかりやすく説明すると、要は人類総SNS化社会といった感じであった。人類はSNS化していたのだ。


 そういうこともあり、もう完全に魂の電脳化に成功した人類は、誰もが一日中楽しくおしゃべりするマジで最高の世界を構築したわけなのだが、コミュニティ間の移動や独立などが自由自在になりすぎた結果、かつての人類が築いていた集団生活は遥か太古の文献でしか見られないほどのものとなっていた。その集団の名こそが——『家族』であった。



 タカシ、ジャン、エマの3人は考古学を研究している。3人はツイッ……ではなく意見交流サーバ『ツブヤイター』にて、家族と呼ばれる伝説のコミュニティについて激論を交わし、ついに——


「オーケー、やろう。タカシ、エマ。俺たちでいっちょ再現してみようぜ。あー、その、家族ってやつをさ」


 超古代人類のコミュニティを擬似的に体験してみることとなった。


「でも待って。タカシもジャンも家族ってどういうものかなんてきっと3割も理解できてないと思うの。そもそも私たちはもう情報体として長いこと暮らしてきているわけだから、かつての姿でどうやって食事をしていたのかとかどのように繁殖してきたのかとか全然わかってないじゃないの」


 わざわざ調べなければそう言った太古の情報は見えてこない。ましてや肉体が存在していた頃の生活情報は、アーカイブ自体が幾兆年の時間経過によって経年劣化しておりうまく映像を再生できるかすら怪しい。そんな状況であった。太古の情報アーカイブを作った当初は、人類が5000兆年も宇宙を航海する情報体になるとは流石に想定していなかったのだ。


 そういった事情がありつつも、3人は好奇心に勝てず「とりあえず雰囲気で再現してみる」ことにした。

 3人は今となっては意味が定かではない役割である「パパ」「ママ」「こども」にそれぞれなりきってみることにした。

 パパがエマ、ママがジャン、こどもがタカシである。


「じゃあやってみるわね……。ママ、こども、今日は『牛丼』? を食べに来たよ」

「フフ、楽しみだねパパ、こども」

「いいねいいね。なんか割引セール中らしいよ」

「じゃあ何バイトも食べられるね。よーしパパがんばっちゃうぞ〜〜!」


 どのような文献を読んだのか定かではないが、とにかく3人は試行錯誤しながら家族という概念の解明に取り組んだ。


「パパ。本?棚からママのヘソクリが出てきたよ」

「おお、ママのヘソクリが。……その本?棚というものが何なのかわからないからなんとも言えないね」

「うーん、ママが所有する何らかの情報媒体なのかな。そこにマネーを組み込んでいた……?」

「流石ジャン!」

「冴えてるわね、きっとそんな感じよ!」


 彼らはとにかく勘と経験を頼りに何となくそれらしき考察を続けていった。


「パパとママがなんかプロレスごっこ? とかいうのをする——的ななんかそんなのが古の書籍電子書籍に書いてあったのを見たことがある」

「プロレス? ならちょっとわかるわね」

「ああ、古の競技的なものだったよな、やってみるか」


「「うおおジャーマンスープレックス!!」」


 とにかく3人は多少の考古学知識を基にがんばって超古代人類のコミュニティである『家族』の究明に心血を注いだ。

 その甲斐あって——


「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとさん」「めでたいなあ」「おめでとう」「……おめでとう」


 3人は論文「〈家族〉とは何か。〜牛丼・ヘソクリ・プロレス。超古代のコミュニティに迫る〜」を発表し、ツブヤイターの議論をまとめるサーバの大賞で見事3位の座についた。ちなみに1位はかわいいネコちゃんについての話題であった。ネコは未だ、人類にメッチャ可愛がられていた。


〜ネコちゃん可愛いEND〜



ミリしら家族、了。

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ミリしら家族 澄岡京樹 @TapiokanotC

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