3 玉磨かざれば光なし

 蓮真は難しい顔をすると、赤へるについて語り始めた。


「赤へるの特徴は体色が赤く、ぎょろりとした目に尻尾のようなものがある。しかし、それ以外の情報は正体不明の妖怪だ」


 大和はキャンプ場で出会った赤い男の特徴を思い出す。蓮真の話を聞く限り、確かに共通点は多かった。


「しかし、奴は赤という絶対的な存在であり、主張の強い妖怪だ」


 大和は赤い男のことと、変化した肉玉を思い出す。


 蓮真は話を続ける。


「そこで私は、一つの仮説に辿り着いた」


「仮説?」


 蓮真は頷くと、赤へるの特異性を語る。


「恐らく赤へるの能力は、自分の体の一部を他者に植え付けてコントロールするものだと考えられる」


「そんな化物…どうすればいいんですか?人間が勝てるわけがない」


 大和は頭をかきむしり困惑する。


「しかし、恐るべきは、無差別であることだよ」


 蓮真はもう1つの問題を語る。


「大和君の話とこの仮説を照らし合わせると、赤へるは憑依した宿主を乗っ取り暴走していることがわかる」


「宿主を乗っ取り暴走?」


 蓮真は頷き、そして大和は悲観する。


「きっとこのままでは、もっと酷い惨劇が起こる」


 大和は震え、この世の終わりの如く表情が優れない。


 そんな大和に蓮真は問いかける。


「大和君、君はどうする?」


 大和の目には、希望が欠けていた。


「僕はもう生きる気力をなくしました」


 蓮真は優しく、そして穏やかに大和に問いかけた。


「大和君は、生きるって何だと思う?」


「わかりません」


 大和は問いかけの意図がわからず困惑した。


「私はね、人間は眠る、食べる、呼吸をするために生きていると思うんだ」


 言葉の真意がわからず、疑問を口にする。


「どうしてそれが生きることなんですか?」


 蓮真は苦笑すると、問いかけに答えた。


「何故なら、眠る、食べる、呼吸をするということは、生きるという行為だからだね」


 大和は頭の中にクエスチョンマークが現れた。


「わかりずらかったかな…」


 蓮真は少し噛み砕いて話すことにした。


「例えば、美味しいものを食べると幸せだよね。だけど、物事の根本はそこじゃないんだ」


「幸福以外の意味があると?」


 蓮真は頷くと、遠い目をした。


「最近の子供は贅沢だからね。だけど、それは君が答えを出さないといけないことだ」


 大和は難しい顔をして考え、そして蓮真に問いかけた。


「じゃあ、死って何ですか?」


「生きることの反対さ。呼吸をしない、睡眠を取らない、食べないことが死だよ」


 大和は、頭の中のピースが不明瞭ながらも合わさり始めたのを感じた。


「君はまだ、するべきことがあるんじゃないかね?」


 蓮真の言葉に頷くと、大和は決意する。


「僕は、赤へるを止めたいです」


「よく言った。流石は男の子だ」


 しかし、言葉にできても自分ではどうすることもできないのが現状である。

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