最悪で残酷な世界 (ルリ視点)
僕はメーヤに案内された部屋で勇者と後で来ると言った連夜と魔王がこの部屋に来るのを待っている。
「勇者、君はもう我慢しなくて良いんだよ?泣いても笑っても我が儘を言っても大丈夫な所に来たんだから。君は赤ちゃんなんだから、そんな当然の事を我慢しなくて良いんだ」
「あう?るー?」
「ん、ゆっくりと出来るようになろうね?」
「う?あい、る~」
「いいこ」
僕は勇者を撫でながらここに喚ばれた直後の事を思い返した。
その日はいつも通りの日になるはずだった。
僕は学校に行く弟を見送って玄関から家の中に入ろうとしたその瞬間、家の玄関から魔方陣が光ながら浮かび上がり一瞬で僕は異世界に召喚されていた。
僕を召喚したらしき者達は僕を見て一瞬変な顔をした。
多分、何で布を喚んだんだ?と思ったのだろう。
僕はアルビノで光に弱いので家の中でも弟と父がプレゼントしてくれた体をスッポリと覆うフードを被っている。
つまり、最初に召喚した者達が見るのは僕ではなく僕が被っているフードなので一瞬、布だけを喚んだと思ったのだろう。
その後直ぐに召喚された反動で座り込んでた僕が立ち上がると、人をちゃんと喚んだと確認出来たのだろう。
(何だろうここ?羽根が生えてる人や動物の耳とか尻尾が生えてる人が居るから多分、異世界なんだろうけど、、、召喚された?)
「アレを持っておいで」
「は!」
「これで、厄介な者が居なくなるな」
「はぁ、何でアレの為にこんなのを喚ばなければいけないの?本当に最悪」
召喚されて何も分からない僕の前で次々とそんな事を言い出した。
グチグチと不満を喋ってるのを聞いてる (聞きたくないが何も分からないのでそれしかやることがなかった)と、最初に何かを持ってこいと命令された兵士 (多分)が両手に何かを抱え帰って来た。
(人を勝手に召喚しといて放置とか、、、この人達のモラルは大丈夫なのかな?ん?さっきの人が帰って来た?)
「お持ちしました」
「その穢らわしいモノを近づけるな!」
「は!申し訳ありません!」
「ソイツにコレを渡せ」
「は!」
何かを抱えた兵士?が僕の方に来た。
(何だろう?穢らわしいって言ってたけど、、、ゴミかなんかかな?)
「おい!お前」
「、、、。」
「コレを持て!」
兵士?が高圧的に僕に話しかけ?抱えていたモノの僕に突きつけるように渡して直ぐに手を離したので、僕は両手で兵士?が抱えていたモノを受け止めた。
その受け止めたモノは思ったより少し重く、知っているような感覚がした。
(アレ?この感覚、、、もしかして)
「そこのモノ」
「、、、 (あの羽根の人、今絶対に物って意味の方で僕を呼んだ)」
「それを持って旅立て」
「、、、 (何処に?どうやって?そんな説明も出来ない人に何で命令口調でそんな事を頼まれなければならない?)」
「分かったな?、、、では、それを馬車に乗せてこい」
「は!、、おい!こっちだ!」
さっきから偉そう (多分、ここで一番偉いのだと思う)な羽根の人が勝手にそう命令して、僕がまだ承諾していないのに決定したように決めつけ、兵士?に命令して僕を何処か (多分、馬車?)に連れていかせた。
(何の説明も無いのか?この世界は最悪な世界みたいだ)
「コレに乗れ!さっさとしろ!」
「っ!」
「よし!出発しろ!」
「はい!」
“ピシャッ、、、カッポカッポ”
兵士?は外に出て馬車まで僕を案内 (案内とは言わない案内)して馬車に乗せた。
馬車に乗せる時に兵士?は僕を放り込むように投げ込むように乗せた。
僕はとっさに抱えていたモノを庇ったので少しだけ背中を痛めた。
僕を馬車に (無理矢理) 乗せると馬車は直ぐに何処かに向かって動き出した。
(痛っ!、、、けど、コレは無事だ。布を捲ってみよう、、、僕の予想が外れていたら良いんだけど、、)
“ペラ”
「はぁ、、、やっぱり、、、赤ちゃんだ」
「、、、、?ぁ、、、。」
「ん?どうかしたのかな?」
「、、、。」
「ん?、、、どうかした?、、、まぁいいか。けど、あんなに振り回されても泣かなかったのはイイコだね?」
布を捲ると僕の予想通り、僕に渡されたのは赤ちゃんだった。
その赤ちゃんは泣きもしないで大人しく僕に抱かれていたので、僕はそれを褒めるように赤ちゃんを優しく撫でた。
「“ビクン!”、、っ、ぁ、、ぅ」
「ん?ああ、急に撫でてびっくりした?ごめんね?」
「、、ぅ、、あ~」
「?」
「あ~、、、う~、、きゃあ」
「嬉しいのかな?」
いきなり頭を撫でられて驚いた赤ちゃんが、僕の方に手を伸ばしてきたかと思うと急に笑い出した。
(けど、赤ちゃんの笑い声にしては静かだな)
『ねぇ、私達あそこに行くまでアレの世話をしないとならないの?』
『仕方ないじゃない。アレでも勇者よ?役に立たない要らないモノだけどね?』
『けど、近づくのも私は嫌よ』
『大丈夫よ。アレの世話は今アレに必要だと思われるモノとして召喚されたあの布に任せれば良いの。私達は食べ物や服の用意をアレの近くに置いとくだけよ』
『全くツイてないわよね?アレのお守りで魔王が居る城まで行かなくてはならない何て』
『そうよね。アレは赤子の姿のままこの一年間一切成長して無いのよ?』
『それ、私理由を知ってるわ!アレは神界の者と人間のハーフらしいわよ?だから一年以上前から歳を取らないのよ!』
『それ本当?役立たずの勇者として生まれてきただけじゃなくて?』
『ええ、本当よ!それでね、、』
他にも何か話してたが僕は赤ちゃんがこんなにも静かな理由がさっきの話で分かってしまった。
(この子は泣くことも大きな声で笑う事も許されなかったんだ。赤ちゃんのただひとつの仕事である感情の出し方を許されなかったんだ。多分、この子は少しでも声を出すと叱られたんだろうな、、、)
「君は勇者らしいね?」
「あう?」
「僕は瑠璃だよ。白夜 瑠璃」
「うー?」
「瑠璃だよ」
「るー?」
「うん、よく言えたね?勇者はいいこだね?」
「あう?うーちゃ?」
「うん、君は勇者だよ」
多分、名前さえ付けて貰えなかった勇者を僕は優しく撫でる事ひか出来なかった。
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