第19話

時々、車道を通る車が雨水の波を作って通り過ぎていく。

ボタボタと雨が弥生ちゃんのビニール傘に当たる音が鳴っている。

弥生ちゃんと並んで歩いている田中くんの足を見た。

弥生ちゃんは嬉しかった。

だけど、ちょっぴり不安だった。


田中くん、楽しいかな。

田中くんは何を考えているんだろう。

退屈だと思われちゃったらどうしよう。


弥生ちゃんはケロリン星人のことを思い出した。

ケロリン星人の話をずっとしたいと思ってた。

話しても大丈夫かな。


「あの・・・ケロリン星人見てる?」


「あ、見てるよー。なんでー?」


「よく掃除の時間に歌ってるから。田中くん。」


「聞いてたの?恥ずかしい。笑」


そういうと、田中くんは笑った。


「弥生ちゃんも、ケロリン星人見てるの?」


「うん。」


「そういうの見るんだね。なんかあんまりそういうイメージ無かったかも。」


「面白いよね。」


「冬樹殿!」


と、田中くんがケロロのマネをした。


「であります!っていうよね!」


「そうそう!」


「アフロ軍曹~♪」


「アフロ軍曹はアフロ~♪」


「あれってなんでアフロなの?笑」


「知らない。笑」


気が付いたら、雨は止んでいた。

弥生ちゃんは傘を畳んだ。


「弥生ちゃんってあれだよね。お姫様に立候補してた。」


「うん、」


「すごいよね。あれ。」


「えへへ。」




弥生ちゃんがお姫様役になってから(あれは事故だけど)クラスの皆の弥生ちゃんの接し方が少し変わってきていた。

「仲良し3人組のうちの一人」から「お姫様役に立候補した子」になっていた。

弥生ちゃんがクラスで何か発言したら、親し気な笑い声がどこかから聞こえることもあった。


「じゃあ僕こっちだから。」


「うん。」


「また明日!」


田中くんは明るい笑顔で笑った。


弥生ちゃんも当たり前のように、合わせて


「うん。また明日!」


と言って笑って手を振った。


が、一人になって歩きながら考える。

明日からも話せるだろうか。

2人だから話せたんだし、皆がいる中で田中くんと今日みたいに話せる自信は無い。


空を見上げると、曇っている。

曇った空の間から光がさしていて、暖かかった。


弥生ちゃんは水溜りを見つけた。

えいっと踏んでみた。

いつもなら避けて歩く。

足が濡れてしまうからだ。


水が少しはねて、靴下に水がしみ込んだ。

気持ち悪かったけど、今日は良い気分だった。


色んなことが少しずつ良くなっているような気がした。

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