第17話

ゴミ捨ての人が戻ってきて、掃除が終わった。


帰る準備をしていると、田中くんが来た。



「弥生ちゃん、一緒に帰らない??」



一瞬時が止まった。


夢?


こんなことがあるはずがない。


どうしたら良いのか分からなくなった弥生ちゃんは、「あ、ちょっとトイレ・・・」と言って、断ってしまった。


弥生ちゃんは女子トイレに避難した。

さっきのは何だったんだろう。

どうして私は断ってしまったんだろう。

好きな人なら嬉しいはずなのに。

なぜかこわくなってしまった。


その時、「にゃあ」と声が聞こえてきた。

声のする方を見ると、例の黒猫がいた。


黒猫は、「なにしてるの?」と聞いた。


弥生ちゃんは、なにって・・・と言いかけて、「ねえ、きいてきいて!田中くんが一緒に帰ろうって言ってきたの。もしかしてあなたのせい?」ときいた。

「田中くんと一緒に帰れるようにしといたよ!」と黒猫ははりきって言った。

「あ、そうなの。」

なあ~んだ、と弥生ちゃんは安心した。

「やっぱりそうだったのね。」

「それよりも、あなたのせいって、なんか嫌だな。色々考えたんだよ!弥生ちゃんのために。どういうタイミングか良いのか・・・。雰囲気も大事にしたい・・・。この雨のシチュエーションを活かしたい・・・。」

「はあ。」

「ところで弥生ちゃん何してるの。一緒に帰るんじゃないの?」



「断った~??もったいない!せっかく夢を叶えてあげたのに!!」

「えー!だって~、びっくりしたんだもん。汗」

「おいかけなよ。魔法で引き留めといてあげるから。」

「え、そんなことできるの?」

「でも分からないよ。もう帰っちゃってるかも。ぐずぐずしてると。」

「ええっそんな!!どうしよう・・・」

トイレの鏡を見ると、泣きそうな弥生ちゃんがいた。


男子と2人で話すだけでも緊張する弥生ちゃんにとって、いきなり好きな人と一緒に帰るなんて大事件である。

「今を逃したら、一生喋れないかもよ。それでもいいの?」

「確かに・・・。で、でも!何話せば分かんないし。緊張するよ。」

「何か話したいことは無いの?」

「話したいこと、話したいこと、、、あ!ケロリン星人!」

「何それ?とにかく急いで!」

「うん!」


弥生ちゃんたちは1階まで降り、下駄箱の前まできた。


田中くんの後ろ姿があった。下駄箱の靴を履き替える板の上に座っている。黒いランドセルが見えた。

田中くんはザーザーぶりの雨を見ていた。


弥生ちゃんは、走った。


「待って、たなかくっ・・・」


どた。


いったあ・・・。


靴を履き替える板のところでつまずいてしまったのだ。

こんなに盛大に転んだのは久しぶりである。


膝がズキズキする。


田中くんが振り返って言った。


「えっと、、、大丈夫?」


消えたい。


恥ずかしい。


弥生ちゃんは保健室に来た。

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