第14話

次の日


雨かー。


雨の音をききながら、布団の中で思った。

どしゃぶりというほどじゃないが、結構降っているではないか。


弥生ちゃんは制服に着替えて、顔を洗って朝ご飯を食べて、家を出た。


「ラブラブになあれ!にゃんにゃん。」

という猫の言葉。

変な踊り。


猫は「ラブラブ」と言っていたが、どうなるのだろう。

弥生ちゃんは実は今まで、まともに男子と喋ったことがない。

皆と話しているときに弥生も一緒にいる。だけ。

会話に入って何か発言するわけでは無いので、話している実感はあまりない。

そんな弥生ちゃんが果たして田中くんと「ラブラブ」になれるのだろうか。

そもそも、「ラブラブ」とはなんだろう。

男子に好かれたことが無い(少なくとも本人はそう思っている)弥生ちゃんがいきなり、田中くんに好かれて何か発言できるのだろうか。


ドキドキしながら過ごしていたら2時間目が終わった。


ラブラブどころか、全く田中くんと関りが無い。


休憩時間。

ちょっと長めの休み時間で、20分間ある。

大休憩と呼ばれていた。


弥生ちゃんは真由ちゃん、幸ちゃんたちと喋っている。

すぐ後ろの方では、田中くんが友達とふざけている。

普通だったら田中くんたちは外に野球やサッカーをしに行く。

しかし、今日は雨だ。

「今週のケロリン星人見た?」

「あ!見た見た!めっちゃ笑ったわ」

「タママかわいい」

田中くんは、いつも通り。

どう考えても、猫のいう「ラブラブ」という状況ではない。


なあんだ、また失敗か。

半分がっかりして、半分安心した。



真由ちゃんが、

「ねえねえ、2人さ、、、好きな人とかいる?」

と弥生ちゃんと幸ちゃんにきいた。


幸ちゃんは

「気になる人はいるけど、、」と言った。

真由ちゃんは「えーだれだれ?」と言った。

弥生ちゃんも「だれだれ?」と言った。


「そんな好きってほどじゃないから。」

というと、恥ずかしそうに手で顔を隠した。

幸ちゃんはちらちらと2人のほうを見て、「真鍋くん。」

と言った。


真由ちゃんと弥生ちゃんは「えっ」と言って驚いた。


隣のクラスの男の子だ。

真鍋くんとは喋ったことはないが、顔は分かる。

今年から転校してきたのだ。


当然、同じクラスの男の子の名前が出るだろうと思っていた弥生ちゃんと真由ちゃんは驚いているのである。

3人とも、隣のクラスの男の子と話すことなんてほとんどない。


真由ちゃんはニヤニヤ笑い、「えー、知らなかったあ」と言った。

弥生ちゃんも「うんうん。」と言った。幸ちゃんは「そうだよね、いや、そうだと思うよ。全然言ってなかったし。」と言った。


「でも、すごい。応援する。」と真由ちゃん。

弥生ちゃんも「うん。がんばって。」と言った。

幸ちゃんは「えー、そんな、いいよ、いいよ。」と言って笑った。

「すごい好きとかじゃないし。」と言ってまた恥ずかしそうに笑った。あつー、と言って顔を手で仰いでいる。


幸ちゃんは話題を変えたくなったのか、「2人はどうなの?」と聞いてきた。

真由ちゃんは、ちらっと弥生ちゃんの方を見て、「私は、田中くん。」と答えた。

「田中くん」というところで声が小さくなる。

恥ずかしいのだろうか。

幸ちゃんは、ニヤッと笑い「おー。」と言って小さく拍手をした。


真由ちゃんと幸ちゃんは「次は弥生ちゃんの番」とでも言いたそうに弥生ちゃんの方を見た。


弥生ちゃんは「私も、田中くん、かな。」と答えた。


真由ちゃんは「えっ」と小さな小さな声で答えた。


そして、黙った。

「そっかー・・・。あ、でも。」と言った。

「私、まだそんなに好きとかじゃないし。ちょっと良いなーって思っただけだから。うん。」と言って笑った。


弥生ちゃんは「そっかー。」と言って笑った。

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