第10話

塾についた。

弥生はクラスのドアの前まできた。


佐々木さんは一階のロビーで先生と話している。


(弥生たちの5年生のクラスは6階。5年生のクラスは授業の成績によってS.A.Gの3種類に分けられる。弥生はSクラスだった。)


あっ、辻くんだ。


入り口付近に、何人か人が立っている。


珍しく制服姿の辻くんが壁の近くに立っていた。


近くには、女の子2人がいる。


辻くんと同じ制服を着ている。


女の子の声が聞こえてくる。


「Sクラスの宿題ってどんなのー?」


「見せてー!」


女の子の1人が辻くんの持っている鞄を取り上げた。


「あ、やめて〜」


と辻くんは女の子みたいな高い声を出して言う。


「うわっ。難しそー。うちらAだからテキスト違うよねー。ちゃんと書いてるし。うける。」


と女の子たちが笑いながらテキストを見ている。


辻くんって真面目そうな人だと思ってたけど・・・


意外と、女の子に人気?


というよりも、いじられてる?


いや、、、いじめられてる、、、?


辻くんは、弥生のほうを見た。



「弥生さん!」



いきなり名前を呼ばれてびっくりした。


それよりも弥生が気になっていたのは、女の子たちの視線だ。


さっきまで辻くんに向けられていた視線が一気に弥生に集まる。


な、なにこれ、、


弥生はなるべく冷たい態度を意識して、辻くんを睨みつけた。


そして、前を向く。


後ろから辻くんの「ええ、、」という情けない声がきこえてきた。


弥生はそのまま真っ直ぐクラスに入った。


女の子たちの、「無視されてるじゃん」「おい、辻ー、」という声と笑い声が聞こえる。


席についた。


さっき起きたことはなんだったんだろう。


なんだか胸が痛い。


私は全く関係ないのに。


辻くんがクラスに入ってきた。


何か言ってくるかと思って様子を伺ってしまう。


いつものように、弥生の前の席まできた辻くん。


目があった。


「あの、」


と、弥生ちゃんがいうと、辻くんは、そのまま席についた。





弥生ちゃんは胸がもやもやしていた。


なんでこんなことになってしまったの?


さっき起こったことを思い出す。


弥生さん!


と辻くんは、名前を呼んできた。


私に何かを求めていたんじゃないだろうか。


それなのに、冷たい態度を取った。


なんであんなことしたんだろう。


きっと辻くんは傷ついたに違いない。


でも、なんで辻くんは私に話しかけたのだろう。


私も、辻くんをいじめてた人たちと同じような女の子なのに。


それに、辻くんとは一回も話したことはない。


プリントを回すときくらいだ。


そして、席に着く前の辻くんの様子。


まるで、私にがっかりしたみたいな様子だった。


気まずかった。


思い出せば思い出すほど、だんだんイライラしてきた。


なんで私がこんな気持ちにならないといけないの?


そもそも私、辻くんの友達でもなんでもないじゃないか。


それどころか、あの女の子たちみたいにいじめてた訳じゃない。


無視するくらいどうってことないじゃん


なのに、なんでこんなに胸がモヤモヤするんだろう。


休憩時間になった。


佐々木さんが話しかけてくる。


佐々木さんは、明るい声で弥生ちゃん!と話しかけてきた。


猫の話をしている。


ガタッ。


佐々木さんが前の席にぶつかった。


「あっごめんねー。辻くん、だっけ。」


佐々木さんは百点満点の明るい笑顔で笑いかけた。


辻くんも、「あっ大丈夫です!」と、明るく返事をした。


佐々木さんは、


「です!って変なのー。同い年なのに!」


と言って笑った。


辻くんは、「変かなあ〜」


といいながら、笑っている。

 


あ、普通に話してる。


2人。


すごいなあ、佐々木さん。


普通に話せて。


なんで私はこんなにきまづい思いをしているのだろうか。

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