第6話

秘密は話したくなるものだ。


学校の休み時間。


弥生は真由ちゃんの机に行った。

10分休憩のときはさっちゃんと弥生は真由ちゃんの机のところに集まる。

それが決まりのようになっていた。

なぜさっちゃんの机でもなく弥生の机でもなく真由ちゃんの机なのか。

それは弥生にも分からない。

というのは嘘で。


真由ちゃんはかわいいから。

真由ちゃんはみんなの人気者だから。

真由ちゃんはみんなのお姫様だから。


いつでも、3人の話題の中心は真由ちゃんだった。

だけど、今日は違う。

2人がびっくりするようなとっておきの話がある。


弥生は真由ちゃんの机に手を置いて、

「この前のばけねこの話だけどね、」

と話し始めた。


真由ちゃんは一瞬なんのことか分からない、という風にさっちゃんの顔を見た。


そして、怖い話を思い出したのか、

「あっ、ばけねこね。」

と言った。


「そうそう、あのねこね、本当にいたの。」

「しっぽが二つに分かれててね、本当にいるの。」


きっと2人はびっくりするに違いない。


だって怖い話が実話になったのだから。

真由ちゃんとさっちゃんが話していた、「ばけねこ」の話のように、変身はしないけど。

しっぽがちゃんと二つに分かれていたし、人間みたいに喋る。

あの黒猫は「ばけねこ」に違いない。


きっと真由ちゃんとさっちゃんは、目を輝かして、

「ええ!本当!?」

「弥生ちゃんすごいね!」

というだろう。

「いいなあ、私もみたい!」

と羨むのだ。

どうしても見たい!と頼まれたら、弥生も特別に黒猫を2人に見せてあげなくもない。


しかし、2人の反応は弥生の予想とは違っていた。


真由ちゃんは

「へー。。」

と言ったっきり黙ってしまった。


自分の指や爪をいじっている。

あれ、そんなに興味ないのかな。

と弥生が思っていると、さっちゃんが真由ちゃんを気にしながら、

「そうなんだ!すごいね。」

と相槌を打った。

相槌を打ってくれたのだろう。


そのとき、夏帆(かほ)ちゃんが話しかけてきた。

「ねーねー!あ、話し中だったかな、ごめん!!」

真由ちゃんが

「何?」

ときくと、

「隣のクラスの和弥(かずや)くんが、真由ちゃんのことが好きらしいよー。どうするー??」

果歩ちゃんは楽し気に喋りかけた。


和弥くんが真由ちゃんのことが好きらしいというのはみんなが知っていたことだった。

クラスで噂になっていたのだ。


真由ちゃんはさっきと同じような低いテンションのまま、

「えー・・・」

と言った。


真由ちゃんは、

「考えとく。」

と言って、恥ずかしそうに笑った。


果歩ちゃんは

「もう、真由ちゃんほんとかわいい!」

と言って抱き着くと、去っていった。


弥生が教室の入り口を見ると、和弥くんが覗いていた。


真由ちゃんはモテる。

直接好きだとは言わなくても、真由ちゃんが男の子にちょっかいを出されているのを何度も見ている。


真由ちゃんは、困ったように弥生たちに笑いかけた。

さっちゃんが「真由ちゃん、人気だからしょうがないよ。」といった。

弥生も「うんうん。」と頷いた。

入り口近くで果歩ちゃんの「和弥ー!!」という声が聞こえてきた。

仲良しなのだろう。

果歩ちゃんは和弥くんを追いかけている。

ドタドタ、とにぎやかな足音が響いていた。


帰り道。

さっちゃんが真由ちゃんに、

「和弥くんのこと、どうする??」

ときいた。

真由ちゃんは嫌そうに顔をしかめて、

「和弥くん、生理的に無理。」

と言った。



セイリテキニムリ。



真由ちゃんはたまに、小学生とは思えないような、大人っぽい言葉を使うときがある。

年の離れたお姉さんがいるからだろうか。

真由ちゃんは、弥生たちの知らないことを知っている。

気に入らない女の子がいる時、男の子にしつこくからまれたとき。

真由ちゃんは、この言葉をいう。

心底嫌そうな顔をして、小声で呟く。


弥生はこういうとき、息苦しいような気分になる。


和弥くんはきっと真由ちゃんの視界にすら入ってないのだろうな、と思った。

それでも真由ちゃんは許される。

みんなのお姫様だから。

私もさっちゃんも、いつ「セイリテキニムリ」と言われるかわからない。

和弥くんも、さっちゃんも、私も、きっと真由ちゃんの気分次第なのだろう。

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