第4話

弥生ちゃんは黒猫のしっぽを見つめて言った。

「めずらしいな、お前。」

しっぽが2つに分かれている猫。

始めて見た。

弥生ちゃんは不思議な2つのしっぽを手のひらで撫でた。

そのとき、あっ、と思い出した。

「しっぽが途中でふたつに別れてるの。」

「普通は、しっぽって一本しかないじゃん?だから、半分人間っていうか・・・妖怪?」

真由ちゃんとさっちゃんに教えてもらった怖い話。なんだっけ。


目の前にいる猫は怖い話のイメージとは全然違っていた。

黒猫は、弥生ちゃんの前でおじさんのように座った。

しっぽの付け根を舐めたり舌を出したりしている。

黒猫を見ながら、弥生ちゃんは思い出した。

「ばけねこ・・・」

真由ちゃんとさっちゃんはそう言っていた。

「ばけねこ」の話と、目の前の猫がどうしても一致しない。

ばけねこ、というよりは、癒しねこ?

弥生ちゃんは、黒猫の背中に触れた。

黒猫は触られているのに全く気付いていないのか、それともどうでも良いのか。

自分の体を舐め続けている。

弥生ちゃんは、

おいっ。

と小さな声で言った。

すると、黒猫が顔をあげてこちらを見た。

「何?」

え?

と弥生ちゃん。

弥生ちゃんはそっとあとずさりした。

何?と聞かれても、何と答えたら良いのかわからない。

猫が喋った、のだ。

あまりにも自然に話すので一瞬困った。

あれ、猫って喋る生き物だっけ?そっかそっか・・・。

いや、おかしい。

それとも弥生ちゃんがおかしくなってしまったのだろうか。

いまのは何だったのだろう。

気のせい・・・?

「僕のこと、呼んだ?」

いや、気のせいじゃない。

やっぱり。

黒猫は弥生ちゃんを見て首を傾げている。

何ですか?

とでも言いたそうに。

喋ったよね、この猫。

ひょっとして、ほんとに本当に、この猫。

「ばけねこ・・・?」

弥生ちゃんは、猫に問いかけた。

「さっきからばけねこって何?僕のこと?」

弥生ちゃんに対して、ふつうに喋る猫。

弥生ちゃんは、猫を見たまま真面目に頷いた。

もしかしたら、弥生ちゃんは夢を見ているのかもしれない。

どっちにしても、この猫はおかしい。

はっ。

さっちゃんが「確か、妖怪。いつもは普通のねこの形なんだけど、変身して人間になるの。」

といっていたのを思い出した。

その時は呑気に笑っていたが、本当にこの黒猫がばけねこなら大変なことだ。

見た目は他のネコと同じような黒猫だ。

とてもこの黒猫が「変身」するようには見えない。

呑気にぺろぺろと前足を舐めている黒猫を見た。

弥生ちゃんは黒猫が一瞬のうちに人間に変身してしまうところを想像した。

もくもくとどこからか白い煙が湧いてきて、黒猫を包み込むのだ。

あっというまに人の形に変わっていく。

いつのまにか煙は消えていて、そこには1人の男の子が立っている。

弥生がそんなことを考えていると、

「なに考えてるの。」

と黒猫、いや、ばけねこが喋った。

えっと、、

弥生はどう話したら良いのか迷った。

そして口を開いた。

「変身とかするの?」

猫相手にこんなに真面目に質問している自分が不思議だった。

「変身なんてしないよ。」

と黒猫は言った。

「えー。」

と弥生は言った。

しかし弥生ちゃんは心のどこかでほっとしていた。

猫が変身して人間になるなんて怖すぎる。

話を聞いた時はそんなにすごい話だとは思わなかったが、冷静に考えたらすごいことだ。

弥生ちゃんは「なんだあ。」といって、また黒猫の背中に手を伸ばした。

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