第3話

次の日、喋りながら帰り道を歩く。

いつもの弥生、真由、幸の3人組だ。

弥生ちゃんは通学路の途中にあるビルの時計を見上げた。

ここを通る時、ビルの時計を見る。

それが弥生ちゃんの癖になっていた。


もうすぐ4時か・・・


下を見ると、日向に、3人の影が長く伸びていた。

ぽかぽかと暖かい太陽を浴びて。


「あ、じゃあ、ここで」

「弥生ちゃんばいばい」

「ばいばい」


これから塾だ。

塾には慣れてきた。

だから嫌なわけじゃない。

嫌なわけじゃないけど、学校帰りに塾に行く以外にやることがない。

それが弥生ちゃんにとっては物足りなかった。


なにかないかな。


弥生ちゃんは思いついた。

三つ葉山を通っていこう。

塾が始まるまではまだ少し時間がある。

いつもは30分前につくので、こっそりお菓子を食べたり、学校の宿題をしたりしている。

塾に行くには、、三つ葉山の周りを囲うようにしてある大きな道と、三つ葉山の中を通っていく道の2つの道がある。

いつもは、周りの道をだらだらと歩いている。

大きな通りなので整備されているし、歩きやすい。。

三つ葉山を通っていく道は、上り下りがあって時間がかかるため、あまり使わないのだった。

家族からも、道が分かりづらいから通らない方がいいよ、と言われていた。

弥生ちゃんは、坂道に足をのばす。

足が傾斜の抵抗を受けて、がくっと力がかかった。

前を見ると、うね、っとねじまがったような山道が続いていた。

こんなに急な坂道を歩くことは滅多にない。弥生ちゃんは、すぐに疲れてきた。

頭上を見上げるとカラスが二匹、カアカア、となきながら旋回していた。

久しぶりだな、この道を歩くのは、と弥生ちゃんは思う。

どれくらいぶりだろう。


-去年の夏。

真由ちゃんたちと、頂上の公園に行ったときぶりだ。

公園では三つ葉山祭りがあった。

真由ちゃんのお母さんがきて、屋台でりんごあめを買ってもらった。

みんなでくじも引いたな。-


弥生ちゃんはそんなことを思い出しながら、歩いていくと、もうすぐ平らな道に出る。

平らな道、といっても周りには木々が生い茂っているので、山道である。

久しぶりに見る景色にわくわくしながら歩いた。

この道を行くと、三つ葉山マップとかかれた看板が見えてくるはずだ。

カサカサ、と木が揺れる。

何かいるのか、それともただ風で揺れているのかは分からない。

相変わらず夕方のぽかぽかした陽気が弥生を暖かく包んでいた。

あったあった、と看板の近くまで行く。


「えーっと、ここから2つに分かれた道の右側の方を行って、と。

謎のモニュメントがある公園をつっきる。

すると、階段がある。

階段を下に降りていくと、大通りにでる」

看板に載っているカラー付きの地図を見ながら確認する。

白い看板は錆びていて、所々茶色く変色していた。

看板の通りに「大通りにでる」ことができれば、あとは簡単。

塾は目と鼻の先だ。

大通りを真直ぐ歩くと、高くそびえ立っている洋風な建物が見える。そこが弥生の通っている塾「ACスクール」なのだった。

迷子にならないかちょっと心配だった弥生は安心した。

あとは地図の通り歩いて行くだけだ。

そのとき。


ニャーン。


と声が聞こえてきた。

見ると、自動販売機の横に猫が二匹いる。

一匹は、白に茶色の斑点がある猫。

座り込んで後ろ足を舐めている。

もう一匹は灰色に黒色の縞模様がある猫。

この猫は目つきが悪い。

灰色猫は白い方の猫に近づいた。


弥生ちゃんは猫たちに近づいた。

白い猫にそっと手を伸ばした。

こちらをじっと見ていて、逃げる様子がない。

よしよし、と撫でてみた。

白い猫は背筋をピン、と伸ばして、しっぽまでまっすぐ上に伸ばした。

弥生ちゃんが住んでいるところでは、あまり猫を見かけることがない。

三つ葉山は例外だ。

かわいいなあ、と撫でていると、もう一方の灰色ネコが、トコトコ、とどこかに歩いていく。

あ、待って~

と追いかけていくと、駐車場に出た。

うわ~、こんなところに駐車場があったんだ、初めて知った。

十数代車が止められそうなスペースだ。

一台車が止まっていたが、誰も乗っていないようだ。

灰色のネコはコンクリートでできた細い柵の上を歩いていく。

落ちそうだけど、落ちない。


すると、停まっていた車の下から、もう一匹のネコが出てきた。


新しい猫だ。

「あっ、黒猫~。」

弥生ちゃんは呟いた。

しゃがんでねこと目線を合わせる。

こっちにおいで~。

黒猫は金色のまあるい瞳でこちらを見た。

あまりにジッと見つめてくるので、つい視線をそらした。

これは・・・人見知りじゃなくて、ネコ見知り。。

弥生ちゃんは人見知りなところがあったが、猫にまで人見知りを発揮するとは・・・

そう思ったら自分で笑えてくる。

おーい。

小さな声で呼びかけると、黒猫は近づいてきた。

ピンとしっぽを立てて、歩いてくる。

ピンと立ったしっぽの先は綺麗にふたつに別れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る