××してください!
第25話 え? なんだって?
パソコン部の助っ人から早くも二週間が経過していた。
川瀬を始めとしたパソコン部員は相変わらず女子に免疫がなく、むしろVRの完成が近づいたことでより一層童貞をこじらせている。
ボランティア部はと言えば、部長さんは運動部の助っ人、僕と
「ほぼ毎日ごみ拾いをしてるけど、なんでこう散らかるかな」
「ちゃんとごみ箱に捨ててるつもりでもこぼれ落ちちゃうこともあるし、その落ちたごみを見てポイ捨てのハードルが下がるのかも」
「そんなもんかなあ」
今まではごみが落ちていてもそんなに気にならなかったけど、こうしてごみ拾いが習慣化すると文句の一つでも言いたくなる。
ポイ捨てする陽キャは恐くて文句どころかまともに言葉すら発せられないけどな!
「そんなもんなんだよ。でね、わたし考えたんだ」
「若干イヤな予感がする……」
「むぅ。
なぜか僕の思考を引き合いに出されたうえに小バカにされてしまった。僕よりもパソコン部の連中の方がゲスくて酷いんだぞ。
「部長と一緒にごみ拾いをしたらアピールになると思うんだ。こんなに学校にごみが落ちてるんですよって。そしたらポイ捨てをする人が少しは減るかも」
「アピール作戦は良い案だと思うよ。だけどよく考えてみて。部長さんが男子の目に晒されるような活動をして大丈夫かな」
「そこは
「僕が壁になるのも無理があるんじゃないかな!」
うふふと余裕の笑みを浮かべる
「そこはほら、
「絶対に無謀な賭けだよね? 僕を肉の壁にしてくださいなんて言ったら部長さんはきっと変な勘違いをすると思うよ?」
「変な勘違いって……どんなの?」
「うーん。やっぱりわからない。部長はどんな勘違いをするの?」
「それは部長さんの口から直接聞いて。僕からはとてもじゃないけど……」
普通は肉の壁と聞いたら大統領のSPみたいなものをイメージすると思う。だけど性欲盛んな男子高校生及び頭の中がピンク色の人は全裸で女の人を取り囲む映像を思い浮かべる。
ファン感謝祭モノでよく見るあの光景である。世界観によってはその肉の壁をオークが形成することもある。
「なら、今から部長のところに行こうよ。今日は女バスの助っ人って言ってから体育館だよ」
「待って。もしかして女バスのみなさんの前で僕に土下座させるつもり?」
「うん。部長が話を聞いてくれなかったら」
「いやいやいや! 部長さんは絶対に
僕には最悪の未来しか想像できない。完全な負け戦だ。
ポイ捨てを減らしたい気持ちはよくわかる。土下座をするのだって構わない。だけど相手が部長さんとなると話が通じない可能性が圧倒的に高い。
「やっぱりさ、僕らが地道に活動を続けるしかないんじゃないかな」
「それでもいいけどさ、
「今、おもしろいって言い掛けたよね?」
「ソンナコトナイヨ」
「そのカタコトは容疑を認めてるようなものだよ」
「まあまあ細かいことは気にしない。体育館にゴーだよ」
「思ったんだけどさ、体育館に入った途端に土下座したらインパクトがあるんじゃないかな」
「なにその結婚式を妨害する男みたいなやつ」
「……
「なんでそうなるの!? 僕は……」
言いかけたところで言葉に詰まる。僕は一体なんだと言うのか。どんなに思考を巡らせてもこのあとに続く言葉が出てこない。
「あ、えーっと……
「イヤではないよ。ただ、向こうが僕を拒絶してるから無理そうだなって」
「わたし、すごい名案を思い付いたんだけど聞いてもらっていいかな?」
「顔は見えないけど、今の
「鏡がないからわからないよ。でも、楽しそうは合ってるかな。ふふふ」
「その笑い方がすごく悪そうなんだけど」
「失敬な。せっかくの名案を教えてあげないよ?」
絶対にろくでもない案だと頭では理解しているのに、そう言われてしまうと内容が気になって仕方がない。
今ここでグッと我慢すれば何もなかったことになるし、話を聞いたらどんな案でも乗らざるを得ない。
「……
「よくぞ聞いてくれました」
僕は
「部長が男子嫌いなら、
もし時を戻せるのなら、誘惑に負けた過去の自分をぶん殴ってやりたい。
元の素材が良い陽キャならともかく、僕みたいな根暗でゲスい陰キャの女装なんて地獄を生み出すだけだ。
よりキモさが増して部長さんに通報、最悪の場合は刺されるかもしれない。
「さすがに僕の女装はキツいって」
「そうかなあ。
「え? なにか言った?」
「ううん。なんでもない」
まさか自分がラノベ主人公みたいなことを言う日が来るなんて思いもしなかった。
こういう現象は本当に起こり得るので今後はあまり批判しないようにしよう。
「女装しないで済むように部長を説得してみるよ」
「さすが
「さんざんヘタレって言ってるくせに」
「ふふ。それとは別の話だよ」
別の話と言われても全然ピンと来ない。だけど、女子に期待されるのってすごく気分が良いのは確かだし、僕の女装回避が掛かっているとなれば気合を入れないわけにはいかない。
ボールが跳ねる音や、バッシュが床を擦る音が耳に入る。僕とは縁遠いリア充が発する音だ。
僕みたいな場違い男が入ったら川瀬みたいに灰になってしまわないだろうか。そんな不安で逃げ出したい気持ちでいっぱいだけど、
こうなったらもう勢いだ。
体育館では靴を脱ぐか履き替える決まりになっている。替えがないので靴下になり、すぐさま床に膝を着く。
影の薄さが幸いして誰も僕らの存在に気付いていない。逆にこれはチャンスだ。
うまく決まればすごいインパクトになる。
「まさか
いきなり土下座したらインパクトが大きいと提案してくれたのは
女装の案には乗れないけど、初手土下座は試す価値がある。
「部長さん! 僕らと一緒にごみ拾いしませんか!!?」
体育館の中に陰キャの大声が響く。さっきまで鳴り響いていた青春の音はピタリと止んだ。
僕は床をじっと見つめているのでわからないけど、突如現れた見知らぬ陰キャに注目が集まっているはずだ。
沈黙。
それを破ったのは部長さんだった。
「お、お、お、男がいる!? なんで!? なんでえええええ!?」
うん。やっぱり僕と部長さんが一緒に活動するのは無理じゃないかな?
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