第26話 部長さんと一緒
「どうしてこんなことに……」
スラックスを履いた凛々しい部長さんが情けないため息交じりに嘆いている。
「部長が
「心を動かされたとは言わない! 動揺だよ動揺!」
「それでも逃げずに参加してくれたのは偉いと思います」
「
「いつもは二人きりなんですけど……ね、道元坂くん」
「僕に話を振らない方がいいんじゃないかな」
部長さんは僕に敵意を向けながら
男子からのいやらしい視線を避けるために男装してるみたいだけど、かえって逆効果な気がしてならない。
「そうだよ
「ダメですよ。そんなことしたら来年困っちゃいます」
「来年のことは来年考えればいいじゃないか」
「部長こそ女子大を目指さないなら来年のことを今考えた方がいいと思いますよ」
「
もはやどちらが先輩かわからないくらい
そしてさりげなく知ってしまったのが、部長さんが女子大ではなく共学の大学を目指しているということ。
大学生なんてそりゃもうウェイウィだしキャンパスに足を踏み入れたら発狂してしまうんじゃないだろうか。
「
「まさか
「はい。ボランティア部の人数維持と活動実績のためです」
「むむむ。そこは嘘でもボクのためって言ってくれてもいいじゃないか」
「部長はわたしが手を差し伸べなくても課題をクリアできるって信じてますから」
「そ、そうか。
部長さんはまるで
「と、いうわけで今度は
「え? え?」
突然のことで踏ん張れなかったのか勢いよく突っ込んでくる。
「わわっ!」
「ひいっ!」
反射的に部長さんの腕を掴んで抱き留めてしまった。パッと見の印象とは反対に細くて柔らかい腕は女子であることを意識させる。
「あ……あ……」
「どうしよう。部長さん石になっちゃった!」
「……慣れさせるためにしばらくそうしてあげれば?」
「待って待って! これじゃあごみ拾いもできないし、周りから見たらカップルみたいじゃん。しかもBLの!」
「お似合いだと思うよ」
急に不機嫌になった
このまま手を離したら部長さんが頭から床にダイブしそうだから身動きも取れない。
幸いなことに部長さんの顔は僕の体で隠せているから正体はバレていないはずだ。男装姿は女子に人気があり、たわわな胸は男子に人気がある。
こんな陰キャが男女問わず人気のある部長さんを抱きしめていると知れたらフルボッコにされてしまう。
あとで部長さんに何と言われようともまずは正体を隠すのが最優先だ。
「た、
まずは黙々と作業に勤しむ
いくら僕の影が薄いと言ってもさすがに聞こえているだろうに
「部長さん。このまま石になってるとその間に僕が……ああ、そんなこと言えるか!」
僕の声が部長さんの耳に届いているかはわからない。
ド下ネタを言えば反射で僕の元から逃げてくれる可能性に賭けたかったけど、公衆の面前で口に出すのはさすがに
川瀬くらい突き抜けていれば堂々と発言できたんだろうけど、残念ながら僕はその領域から遠ざかってしまっている。
「
「うわっ!」
「今、部長に何をしようとしたのかな?」
「べ、別に何もしないよ。そういう風に言えば部長さんが目を覚ますかなって思っただけで」
「ふ~~~~ん」
「
「でもすぐに土下座する」
「それは話の流れというか……ねえ?」
「……
「もちろん! じゃあまずは部長さんをどうにかしようか」
「仕方ないなあ」
呆れながらも
押しが弱いなんてとんでもない。慣れ親しむほどに我が強くなって土下座しても反論されてしまいそうだ。
仲良くなった今だからこそ、土下座してヤラせてくれと頼んでもヤラせてくれなさそうだ。
「それじゃあ部長をこっちに渡して」
「うん」
寝ている子供を受け渡すように部長さんの体重を
僕よりも大きいその体を小柄な
「部長、起きてください」
「……はっ!
「こんな様子じゃ大学に行ってから大変ですよ」
「はっはっは。来年のことは来年考えるさ」
「それで蛍光灯の交換だっけ? 三人の中で一番背の高い僕がいれば問題ないことを見せつけてあげよう」
「部長さん聞こえてたんですか!?」
「ひいいっ! ボクが石になってる間に凌辱しようとしたケダモノ!」
「そこまで言おうとしてませんよ!」
「へえ、じゃあどこまでしようとしたの?」
「
どうにも
部長さんに信じてもらえないだろけど、さっき僕が飲み込んだ言葉を正直に白状しよう。
「……キ、キス」
「舌を入れる気だったろ!」
「しませんよ!」
ファーストキスが寝込みを襲う形なんて最悪過ぎる。人生の汚点になってもおかしくないレベルだ。
「……
「なんで!?」
キスで思い止まったのがダメだったの!? こういう時にはもっと過激な行為をした方が女子からの好感度が高いの!?
もう何もわからないまま、僕らは蛍光灯を変えるべく第一校舎へと向かった。
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