第6話 マン
人数の少ない部は部室棟の隅に追いやられてしまう。僕が所属するパソコン部も人数だけで言えば弱小の部類に入るけど、毎年文化祭で有用なソフトやアプリを発表しているおかげで部費は潤沢だし放課後は自由にパソコン室を使えている。
「川瀬くんはあのままでよかったの?」
「大丈夫。そのうち勝手に復活するから」
灰になったクソゲス野郎の川瀬のことを忘れるためにパソコン部に想いを馳せていたところ、
僕らみたいな下劣な人間と同じ教室で過ごしているなんて奇跡だと思う。学校教育の奇跡だ。
「ところで、僕は本当にボランティア部に入るの? 別に入部しなくても手伝いくらいなら」
「うーん。大義名分っていうのかな。学校内で活動するなら部活動の方がいろいろ便利だと思うんだ」
唇に人差し指を当てて天を仰ぐ姿が妙に色っぽい。現状、クラスのやつらは
「それにしても嬉しいなあ。みんな、わたしの活動に興味を持ってくれたみたいで。今日なんて休み時間の度に質問攻めだったよ」
えへへと笑うその顔は完全にゆるんでいる。ふっくらとしたほっぺは薄い桃色に染まりとても魅力的に見える。
「質問って……どんな?」
「えーっと、痛くなかった? とか、どこでしてるの? とか」
「それに対して
僕が抱いている
そして昨日知った
「初めての時は血が出たとか、いつもは人通りの多いところでしてるよって」
「うん……女子達はなんか盛り上がってなかった?」
「そうなんだ。やっぱり女の子だから手の傷とかは気になるもんね」
「
案の定、
「ふふ。改めて
「え?」
「今日は篠原さんとか沼倉さんとかあんまりお話したことのない子といっぱいお話して、結構イメージが変わったんだ。
「そ、そうかな。他の男子の方が親しみやすいと思うけど」
「うーん……あんまり派手な男子はちょっと恐いかな。あ!
「地味な自覚はあるから大丈夫。僕も女子と話すのはあんまり得意じゃないんだけどね」
「ふふ。わたし達、似た者同士だね。って、ごめん。イヤだよね。わたしみたいのと似てるって言われたら」
「そんなことない! むしろ僕みたいなクソゲス野郎と
気付けば僕は両膝を廊下に着いていた。部室棟の地味ゾーンに突入していたので幸いなことに僕と
「どうしたの
「ごめん。体が勝手に……聖母である
顔を上げても
「もう! わたしは聖母なんかじゃないよ。それにまだ女子高生なのに母って言われるのはちょっと傷付くかも」
ほっぺを焼きたての餅みたいにぷくっと膨らませる
「ごめんごめん。それなら聖女なんてどう? これならお母さん感はないでしょ?」
「そういう問題じゃないのに。わたしだって汚いところはあるんだよ?」
「た……例えば?」
女の子の汚い場所と言えばもうアソコくらいしか……
そう考えた僕はちょっとしたイジワルのつもりで具体例を要求した。やっぱり僕も川瀬と同じクソゲス野郎なんだ。でも
「土下座したら……教えてあげてもいいよ?」
「
答えがわかりきっていたとしても、それを女子の口から直接聞きたいというのが男子高校生というものだ。同じ単語でも男子と女子でその言葉が持つ力の差は絶大なのである。
もはや土下座をすることに何の恥も躊躇ないもなかった。
クラスメイトの女子を前にして僕は頭を床にこすりつけ、ただ彼女の口から汚いところの名称を聞きたい一心で頭を下げ続けた。
「そんなに簡単に頭を下げたら価値がなくなっちゃうよ」
「元から価値が地に落ちてるから僕にはもうこれしかないんだよ!」
僕の視線は床に釘付けなので
「わたしが言うのも変だけど、
顔を上げるとしゃがみこんだ
スカートが長いおかげで下半身はしっかりとガードされている。考え方は大人びているのに全体的な雰囲気はまだ幼くて、でもしっかりとオトナの女性らしい肉感のアンバランスさに心拍数が上がる。
「いやいや。正当な評価だって。
「
「
「ふふ。
それは僕みたいなクソ童貞を勘違いさせる発言ですよ?
僕の中で今、この子だけは違う! 現象が巻き起こっている。
ボランティアで校内清掃をする女子がビッチのはずがないんだ!
「そんな風に言ってもらえて光栄だよ。本当に汚いところがあるのか疑いたくなっちゃう」
「うぅ……話を逸らそうとしたのに。土下座したら教えてあげるって言ったのはわたしだもんね」
ついに聖女・
「実はわたし……マン」
「マン!?」
まさかここまで直接的とは思っておらず反射的にオウム返ししてしまった。
落ち着け僕。自分で見えてないけどこの血走った目をやめろ!
「マンションの駐車場はあんまりお掃除できてないんだ。車の出入りが激しいからなかなか手を付けられなくて」
「ですよねー!」
予想していた展開ではあったけど裏切られた感もあって僕は危うく床とキスをしかけた。頭突きはしっかりと決まったのでジンジンと痛みが広がっていく。
これはきっと神様が与えた罰なんだ。聖女様に汚い部位なんてあるはずがない。まだ見ぬ未知の領域への想像を膨らませながら、膨らんだ股間は徐々に落ち着きを取り戻していった。
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