第7話 カッチカチ
ボランティア部の部室は部室棟の三階、その端に位置していた。ちょうどパソコン部の部室の上だ。基本的にパソコン室で活動しているので隣や上にどの部室があるかをあまり気にしていなかった。
部屋の中から人の気配は感じられない。
「失礼します」
部長さんに悪い印象を与えてはいけないときちんと挨拶しながら部室に足を踏み入れたものの、予想通り中には誰もいなかった。
「あれ? 部長まだなのかな」
「でも鍵は開いてたよね。さすがに戸締りしてないことはないでしょ?」
「うん。鍵を持ってるのは部長とわたしだけ。お手洗いかも。座って待ってよう」
部員は
活動内容から考えると大会とかはなさそうなので歴代の先輩方が残した表彰状やトロフィーといった類もない。あるのは掃除道具と各種ユニフォームで、パッと見では何部かわからない。
「勝手に座っていいのかな。僕だけ出直そうか?」
「部員であるわたしが許可してるから大丈夫。もし怒られても土下座しよ?」
「
「違うの?」
首を傾げながら天使の笑顔でそんな風に言われたら自分は簡単に頭を下げる男だと認めざるを得ない。土下座って本来は身分の上の者がするから意味のある行為なのであって、僕みたいな底辺童貞が頭を下げても何の価値もない。
「ほら、座って座って」
ソファは二つあり、
僕が
「えっと……」
「ほら
「こっちじゃダメ?」
「せっかくだから隣でお話しようよ」
「向き合って話すのもいいんじゃないかな」
「むぅ……手強い」
いつもクラスメイトに仕事を押し付けられているとは思えない強気な
僕や
これってつまり、
他の男子とは違うみたいなことも言ってたし、もしかしたらワンチャンあるかもしれない。
まるで二次元のような都合の良い展開に心が舞い上がり、頬が自然と緩んだ。
「わたしが土下座したらここに座ってくれる?」
「そんな! 聖女である
人間的に僕より遥か上位の存在ある
「失礼します」
女子の隣に座るなんて小学校以来かもしれない。それだって機械的に決められた席に着いただけだ。こんな風に相手から招かれるのは初めての経験だった。
僕はできる限り端に寄って
それでも僕みたいな童貞には刺激が強すぎる。天然なのか計算なのか読めない
「ごめんごめん。ちょっと助っ人の依頼が来ててさ」
声の方向を振り返ると綺麗な顔立ちの男子生徒が立っていた。少し長めの髪と中性的な顔立ちは女子でも通用しそうだ。
「あ、部長」
聖女である
ああ、だから二次元に人生を捧げると心に決めていたのに。すまん
「紹介するね。こちらがボランティア部の部長。
「はじめまして。
意を決して座ったばかりではあったけど、先輩に対して座ったまま自己紹介をするのはどうかと思いスッと立ち上がった。
「部長。ぶちょー! うーん。昨日のうちに言っておいたのに」
「言ったって何を?」
「ボランティア部に新しい男子部員が入りますって。既読スルーされちゃったけど」
「……それは、どうやって断ろうか悩んでいたからじゃないかな」
部長からすれば今年一年この二人きりの部室が存続してくれればそれでいい。残された
「でも、部員が来ないとボランティア部はなくなっちゃうよ?」
「うーん。それはまあ、来年はそうかもしれないけどさ」
天然な
「
「なんか
クスクスと笑う
「部長。男装しても男子に弱いんじゃ意味ないですよ」
「は?」
今、男装って言った? 今は石になって美しい彫刻になっているこの人が?
男装ってことは本当は女子なの?
発言の主が
「ごめんね。わたしも男子とお話するのあんまり得意じゃないんだけど、部長はわたしよりもひどくて」
「待って! このイケメンが女の子ってマジ?」
「うん。わたしが入部した頃はもっと女の子らしい雰囲気だったんだけど、それだと男子の注目を集めるから男装するって言い出したんだ」
おもしろい人だよね。と半ば呆れた感じで
「ああ、だから
「そうそう。いつか二人を合わせてみたいって思ってるんだ」
聖女は微笑みながらわりと鬼畜なことをさらっと言ってのけた。
見た目はイケメンだけど中身は女子。たしかに
「あ! 良いこと思い付いた」
そう言って
「部長、
男子の存在で石になったから女子の力で石化が解けるわけでもなく、部長さんはいまだに固まっている。
そんな部長さんの頭にそっと触れた
「うん。これで入部完了だよ」
「ごめん
「いざとなったらわたしも一緒に土下座してあげる」
教室にいる時とは正反対に部長さんにグイグイと攻め込む
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