いれさせてください!
第5話 いれるって決めてる
休み時間の度に
今日中に話をしなければこのまま卒業まで接点を持てずにモヤモヤしたままお別れしてしまう。そんな確信に近い予感が脳裏をよぎる。
正直、女子の集団に飛び込むのは恐い。だから集団になる前が勝負だ。次の休み時間、次の休み時間とチャンスを待ち続けているうちに、あっという間に帰りのホームルームになってしまった。
一方、僕は用済みと言わんばかりに誰にも話し掛けられない。たった一人の友達を除いて。
「やはりわいの見立ては間違っていなかったようですな。して、美咲ちゃんの抱き心地はどうであった?」
「もし一度だけ人を殺しても無罪になるのなら僕は
「んほほほ。童貞のまま死んだらおぬしが行為に及び度に化けて出てやりますぞ」
僕と二人の状況になった途端に灰だったとは思えないほど活き活きとしている。それでもこいつと縁を切らないのは、まあこの状況が全てだ。
結局、類は友を呼ぶ。一時的に
女子はいまだ経験していない未知の領域に興味があるだろうし、男子はワンチャンあるかもと
本当に
なんとなく浮足立った教室に担任の先生が入ってきた。盛り上がる内容が内容だけに先生の前ではその雰囲気を隠そうとみんな必死になっている。僕と
クラスが変な方向に一致団結してくれたことがせめてもの救いと言ってもいいだろう。
ホームルームが終わったらすぐに
今はただ
「それじゃあさようなら。また明日なー」
いろいろな仕事が残っていそうな先生の気だるい声と共に僕らの放課後が幕を開けた。みんな部活やらバイトやらでいつまでも
僕もパソコン部の活動日ではあるけど、もはや部活をサボることもやぶさかではない。とにかく今は
「んふふ。待つですぞ」
「おい。僕はマジで急いでるんだ」
思惑を知ってか知らずか
「
「だからそれは誤解なんだって」
「では美咲ちゃんのあの反応は一体?」
「わからないけど……たぶん僕を助けてくれたんだ。だからそのお礼をしなきゃ」
「ほうほう。お礼に
「
万が一にも
「はっはっは。わいくらいになると誰の気にも留まらないのですぞ……」
「最初笑ってたのが嘘みたいにしょんぼりするのはやめようか。僕まで悲しい気持ちになるから。共感しちゃう自分に泣きたくなるから」
「童貞を捨てても
「ん? まあ、そうなの……か?」
僕はまだ童貞だから変わらないのは当然としても、一回ヤったくらいで人格が大きく変わるとも思えない。それはたぶんヤったから変わったんじゃなくて、恋人ができるまでの過程だったり、そういう関係になるまでの経験で人間的に大きくなるんじゃないかと思う。
「それで一つ相談なのだが……」
先ほどまでの気持ち悪いテンションとは反対に、急に神妙な面持ちへと変わった。
だけど僕は知っている。こいつがシリアスを醸し出す時はいつも以上にバカになる時だと。
高一の頃、まだ
僕もしっかりその作品を見て、どハマりしたので無罪放免にしてやったけど。
「その……わいも
「土下座だけはしろ。
僕は
いくらクラスで存在を無き者にされかけているとは言っても教室内で床に膝を着けて本気の土下座をしたら注目を浴びてしまう。
これは僕自身を守るための恩情だ。メガネが壊れても知ったことじゃない。
「やはりわいと友情を超えた穴兄弟になるのには抵抗が!? ならばもっと仲を深めようぞ兄弟」
「誰が兄弟だ。
「では遺された美咲ちゃんはわいが……ぐおおおおお!!!」
あまりにふざけたことを抜かすのでぐりぐりと頭を机に擦り付ける。たぷたぷの肉で守られてるんだから大したダメージにはなってないだろう。
「はぁ……もう一度よーく考えてみてほしいんだけど、お前みたいなやつが友達がそう簡単に女子と仲良くなってアレをできると思うか?」
「ふふふ。まあ無理ですな」
「即答されると悲しいな」
僕も同じ質問をされたら
「だがしかし……しかしである!」
念のためまだ頭を押さえつけてある
「その無理を解決してくれるのが美咲ちゃんなのであろう? やはり土下座は日本に古来から伝わる最高の意思表示ですな」
こいつ、完全に脳みそが二次元に侵食されてやがる。土下座して頼んだらヤラせてくれる女なんてこの世にはいないんだよ?
現実を思い知らせるために
「
僕と
だけど僕は前者であるという確信を持てた。仮に罰ゲームだとしても、彼女はそれを罰と思わず、その広い心で僕と接してくれる。
「た、
「ごめんね。お話し中に」
「ううん。それに謝るのは僕の方で。さっきはありがとう」
ちなみに
友達としてはこいつの灰化もどうにかしたいと思いつつ、今は余計なことを言われたくないので灰のまま放っておくことにした。
「それで。あの……昨日の話なんだけど」
「本当にごめん。こいつのせいで変な風にこじれちゃって」
「わたしもビックリしちゃった。あんな風に声を出せる自分にも」
ふふっと聖母のような優しい笑顔で
あんな風に誤解されたら僕に対して怒ってもいいはずなのに、彼女は全くその素振りを見せない。
「だって
「まあね。ボコボコにされるとかはないだろうけど恐かったよ」
「うん。だって、わたし」
なんとなーくイヤな予感がする。本人に悪気がないだけに余計にタチが悪い。
「
聞きようによっては盛大な誤解を招きかねない発言だ。
僕らと違って
「おぬしら……やはり……」
こいつはこいつで具体的なことを何も言わずに再び灰に変わった。
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