七章 「謎解き①〜拾っていた人の正体は?〜」
深夜の2時。
ゴミ収集の男と話してから、私は一度家に帰り、公園に再び来た。
それはもちろん、謎を解くためだ。
今公園には誰もいない。
暗い公園に、静けさが広がっている。
私は物陰に隠れて、張本人が空き缶を拾う瞬間を待っていた。
すると、案の定一人の女性が現れ、空き缶を拾っていった。
「やっぱり、あなただったんですね」
私は、その女性の前に出ていき、声をかけた。
そこには、ある女性が立っていた。
年齢は、三十代後半ぐらいだろう。髪はショートカットで、さっぱりしている。
その女性の正体は、1日目は夫とジョギングをしていて、2日目は子供と一緒に遊びに来ていて、3日目には一人で来ていた女性だ。
3日とも会っていたのに、毎回違う人を連れていたから私は完全に見落としていた。
姿形は同じなのに、別の人だと勘違いしていた。
女性は、きっと毎回公園に空き缶があるかチェックしに来ていたのだろう。
「そうよ。私が、あなたが探している空き缶の人よ」
その女性は、はっきりと認めた。
「自分が探されていたとわかっていたんですか?」
少し意外だった。
どこかで空き缶の行方を追っていると公言したことはなかった。
相手は何かを気付いていたということだ。
「それはもちろん。あんなにじっと公園にいて、空き缶を見ている人なんて普通いないわよ?」
女性はくだけた喋り方で、好印象が持てた。
そんなに目立っていたのかと反省した。空き缶に夢中になりすぎていて、少し注意が足りなかったかなと思った。
張り込み相手にバレているなんてまだまだだ。
今度からは気をつけようと思った。
「では、なぜ今日現れたのですか?」
「別に、私は犯罪を犯した犯人というわけじゃないし。いつもどおり、空き缶を拾いに来ただけよ」
「なるほど。お陰で、謎が1つ解けてよかったです」
「謎?」
「消える空き缶の謎です。誰かに拾われ続ける空き缶。誰が、いつ、何のために拾っているのか。これは十分謎と呼ぶに値します」
「私を探していたのは、そんな理由だったの?」
女性は突然笑い始めた。
「何かおかしかったですか?」
私は、その女性の感情が読み取れやなかった。
たぶん、笑う場面ではないはずだ。
「いや、ごめんごめん。もっとすごい恨みとか陰謀めいたものかなと思ってたからつい笑ってしまったわ。あまりにも平和的すぎてびっくりしただけよ。そんなにこの空き缶を気にしている人がいたんだ。そう、謎解きだったのね」
「私にとっては、大事なことです」
どうやら価値観の違いらしい。
私にとって謎解きは大事なことで、この女性にとっては大したことではないらしい。
この女性にとって大切なことを私はわかっている。
それはすでに公園にいたときに見つけていた。
「そうね、名探偵さん。ところで謎は解けたと言っていたけど、私の役目はもう終わりかしら?」
「いや、この謎はまだ完全に解決してないです」
「まだ何かあったかな?」
「はい、なぜ空き缶を拾っているかの理由です」
「そうね、その話もあったわね」
そう言って、女性は再び話し始めた。
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