二章 「張り込みとゴミ収集の男」

 私は時間帯ごとに、公園を張り込むことにした。

 「張り込む」という単語だけで、まるで刑事のようでドキドキしてきた。

 普段謎解きは、よくしている。  

 趣味を聞かれたら、間違いなく「謎解き」と言うだろう。

 でもそれはテレビでやっているものや、街を歩いて探すイベントだ。

 今は空前の謎解きブームだ。

 でも、私は他の誰よりも謎を解いている自信があった。頭の柔らかさには自信があった。

 そんな私がこんなにもドキドキしている。

 それは普段の謎解きでは、こんな緊張感は生まれないからだ。

 張り込みをするのは、ゴミを拾う瞬間を見るためだ。

 それが今回の謎解きで、一番の醍醐味なのだから。

 今回の謎はただ問題を解くだけではない。張本人に聞き、リアルタイムで答え合わせができるのだ。

 自分で言うのも何だが、私は案外度胸がある。

 知らない人と話すことに抵抗感もない。人見知りなど今までしたことない。

 むしろ、話するのが楽しいとさえ感じている。

 

 

 しかし、さすがに一日中公園にいられるほど私は暇ではない。

 大学は正直休んでも、なんとかなる。

 大学の単位なんて最後のレポートをしっかり書けば、大概いい成績を取れるのだから。

 だから残念ながら今は授業より、謎を解くことのほうが、私にとって大事なことだ。

 それほどまでに、この謎が気になって仕方なかった。

 惹きつける何かがこの謎にはあった。

 しかし、一人暮らしをしているので、アルバイトにはいかなければならない。

 だから、時間帯は、3パターンつくり、一日ごとに様子を見ていこうと思った。

 1つ目が朝7時から12時までの朝の時間。

 2つ目は12時から17時までの昼の時間。

 3つ目は18時から0時までの夜の時間。 



 まずは、1つ目の、朝の時間帯だ。

 天気はいいけど、昼間より気温は低く少し過ごしやすい。 

 なんて穏やかなんだろう。

 いつも来ている公園も、時間帯が変わるだけで違った景色が見えてくる。  

 ブランコの横をみると、空き缶はまたあった。

 公園内を見ると、人はまだ誰もいない。

 この缶が、いつ捨てられているのかも気になる。

 人のいないときなんだろうか、それとも人のいるときに堂々と捨てるのだろうか。

 私はしばらく誰か来ないか様子を見ていることにした。

 公園の前をジョギングしている夫婦が通りかかった。

 しかし、それ以降はずっと待ってみたけど、この時間帯には誰も公園に入ってくる人はいなかった。

 ただ9時にゴミ収集をしている人が、公園のはしにおいてあるゴミの束を回収して行った。

 その人を、私はじっと見ていた。

 まず男性だ。

 背が高く、肌は焼けていて筋肉質な体をしていた。顔は彫りが深く、目鼻立ちははっきりしている。少しやんちゃさを感じる。

 歳はきっと30代前半だろう。

 その男は、ちらっと空き缶の方を見た。

 確かにその目は、空き缶を捉えていた。

 しかし、空き缶に近づくことはしなかった。

 そして、その男はゴミの束だけを持って、車に戻っていった。

 

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