第10話 この世界は美しい

 レネルは涙を拭き、歩き出す。


 アルティミシアが待っていた。


「どうですか、レネル。これが、外の世界です」


 念願だった町の外で見たものは、どこまでも続く青い空。圧倒される広大な山々。そして、はるか彼方に見える水平線。

 残酷で――それでも美しい世界に、レネルはまた涙する。


 世界はこれよりもずっとずっと広く、綺麗な光景がたくさんある。アルティミシアが教えてくれた。

 しかしレネルは、スフレやカレンとその喜びを共有したかったとつぶやく。


 そこでアルティミシアが言う。


「同じ景色を見てもらうことは出来ませんが……レネルが、皆さんに世界の素晴らしさを伝えることは出来るのではないでしょうか」


「え?」


 言葉の意味を考えるレネルに、アルティミシアは笑顔でレネルの後ろを示す。


 振り返るレネル。


 そこに、先ほど溶けて消えたはずのカレンが立っていた。


「…………え? あ、あれ? あたし、さっきもう消えて……」


 呆然とするカレンの元へ駆け寄るレネル。強く抱きしめても、冷たいカレンの身体が崩れることはなかった。

 二人が困惑する中、アルティミシアが説明をする。つい先ほど、塔の魔術を再起動させることに成功したのだ。


 カレンが言う。


「で、でも、あの塔の魔術は亡くなった賢者様だけが使えた特別なもの。賢者様以外には扱えないのに……だからもう、二度と使うことなんて……!」


「はい。だから私は祖父のように賢者になりました。この町の方を、救うために」


 ここで二人は、アルティミシアがかつて町を救った賢者の孫娘だったことを知る。祖父の遺した研究データを元に15年魔術の研究を続け、ようやく塔の魔術を解明し、扱う術を手に入れたのだと。

 ただし、レネルが『塔の魔術』を解いて扉が開かれてからでないと、アルティミシアは町に入れない。古い装置を直せるかどうかは賭けだったが、なんとか成功したのだと言う。


 二人がそのことを知ったとき、復活したスフレが駆け寄ってくる。


「レネル! レネルっ!」

「……スフレ姉さんっ!」


 姉と抱擁を交わすレネル。本当の姉じゃなくてもずっと一緒にいたいという本心を吐露して泣き出すスフレに、レネルはスフレを本当の姉だと言って受け入れる。

 さらにはルドやリーリカ、町の人々も次々に復活し、レネルの元へ集まってくる。レネルは、町の皆が本当に自分のためだけに頑張ってくれていたのだと実感し、今までのことを謝罪して泣きだす。


 カレンが言う。


「……あたしたちは、あくまでも魔術によって仮初めの命を与えられた『魔術人間』。だから、塔の魔術が及ぶこの町の中でしか生きられない。外の景色を見ることは出来ないよ。だから……レネルっ!」


 レネルは、涙を拭って前を向く。


「ああ! 俺が世界を見てくるよ。それで、みんなに世界のことを伝えるんだっ!」


 こうして、レネルはアルティミシアと共に旅に出る。


 アイオライトの町に帰ってくるために。

 大切な人たちへ、世界の美しさを伝えるために――。 <了>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゆきのまち 灯色ひろ @hiro_hiiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ