第8話 青い雪と、白い雪

 ――15年前。突然『青い雪』が降り始めた。

 青い雪は、猛毒。これによって周囲一帯が汚染され、ここは人の住める町ではなくなった。

 生き残った数少ない人々は、偶然町に滞在していた『賢者』の助言を受け、青い雪の毒を浄化する『白い雪』の魔術装置を発明し、装置のための塔を作った。装置によって雪を降らせ続けることにより、なんとか町の範囲だけを汚染から守ることに成功する。


 しかしその代償に、途中で青い雪の毒を受けてしまった人々は賢者も含め、一人残らず亡くなってしまった。だから、町の歴史はそこで途絶えた。

 そしてレネルは、町を浄化した後に生まれた唯一の子供。だから毒の影響を一度も受けておらず、すくすくと育つことが出来た。


「いつか、助けがきてくれる。それまであたしたちは、ここでレネルを守ることに決めた」


 カレンが示す。今、門の外にいるあの女性こそがアルティミシア。

 彼女は外の世界の人間として、毒に冒されたこの町を救うためにずっと活動してくれていた魔術師だった。外界の青い雪の浄化を済ませ、生き残った人間を――つまりレネルを迎えに来てくれたのである。

 アルティミシアが来たときに大人たちが言い争っていたのは、青い雪がなくなっても外の世界は危険だからもう少し町でレネルを見守ろうという人々と、レネルはもう大人になったから真実を教えて見送るべきだ、という言い争いだったのだ。


「ごめんねレネル。あたしたちは、真実を話せない。話せば消える。そういう風に生まれたの。だから、それは最期のとき」

「なんだよ、それ……どういうことだよ? 15年前に、みんな、死んだ? じゃあ、カレンはなんなんだよ。スフレ姉さんは! ルドやリーリカたちはなんなんだよ!?」


 尋ねながらも、既に結末を察していたレネル。それが嘘であってほしいと思いながら叫んだ。


 果たしてカレンは答える。


「あたしたちは、雪と一緒に塔の魔術によって生まれた『魔術人形』。青い雪の毒によって亡くなった人々の魂を雪に込めて作られた、人のカタチをした幻。唯一生き残った本当の人間であるレネルを守るためだけに存在する、人形なの」

「……にん、ぎょう? まぼろし……?」

「そう。だから――塔の『装置』を止めれば、あたしたちは消える。溶けてなくなるの」


 レネルは理解していた。

 だから自然と涙が溢れた。

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