第5話 役割

 そんなある日。鐘のなった夜深くに、スフレがレネルの部屋へやってくる。

 レネルは姉であるスフレにすら心を閉ざし、あれから一度も話すらしていなかったのだが、そこでスフレがレネルにある鍵を見せる。


「これは、あの塔のカギ。これがあれば中に入れるよ」


 それはレネルが求めていたもの。なぜスフレがその鍵を持っているのか驚くレネル。

 スフレは何も教えてくれない。その代わりに、レネルの意志を確認する。


「レネル。本当のことが知りたい? それがどんなことでも受け入れて前に進めるって、お姉ちゃんに約束出来る? 約束出来るなら……お姉ちゃんは、レネルの味方だよ」


 スフレの真剣な問いに、レネルはうなずいて応える。

 するとスフレは笑顔で鍵を渡してくれる。そして、それ以上は何も告げずに立ち去ってしまう。

 スフレが町の意に反した行為をしたのだと察したスフレは、本当はいつだって自分の味方でいてくれた姉に感謝をして、その夜に早速塔へと向かう。



 ――塔の前で待っていたのは、幼なじみのカレンだった。


「……レネルなら来ると思ってた。言っておくけど、あたしは反対だからね」


 カレンはそれだけ言って、レネルを塔の中に案内する。

 長い長い螺旋階段を、カレンと共にのぼっていくレネル。


 そのうちに気付く。

 いくらのぼっても、先が見えてこない。

 いつの間にか入り口もなくなっていて、下には奈落のような穴が広がっている。進んでも進んでも、塔の頂上が見えない。


 カレンが言う。


「疲れたでしょ? いつ着くかなんてわからないよ。もしかしたら一生着かないのかも。そろそろ諦める気になった?」


 それでも、レネルは首を横に振る。


「いいや。この先に進めば全部わかるんだろ? なら、俺は絶対に諦めない……!」


 疲れた様子のないカレンとは違い、フラフラになっても歩みを止めないレネル。

 やがて、とうとう体力の尽きたレネルがふらりと倒れ、塔の下に落ちかけたところをカレンが救う。


「やめて……もうやめてよっ! そこまでしてホントのこと知ってどうするの!? レネルは、あたしたちと一緒にこの町で暮らしていくのがイヤなの!? あたしたちを捨ててまで外に行きたいの!? 外の世界に何があるかもわからないのに!」


 泣き叫ぶカレンに、レネルは答える。


「なに、言ってるんだ? カレンたちを捨てていくつもりなんてないよ。小さい頃……カレンと結婚するって、約束したしな」

「レネル……覚えてたの?」

「当たり前だろ。それに俺は……ただ、本当のことが知りたい。本当の世界が見てみたいだけなんだ。カレンや、スフレ姉さんと一緒に」


 カレンは理解する。

 レネルの固い意志は、もう誰にも止めることは出来ない。来たるべき時が来た。

 だから、『塔を管理する役目を持つスフレ』はレネルに鍵を渡した。

 だからカレンは、塔に掛けられていた『迷宮の魔術を解く役目』を果たし、レネルを最上階へと案内する。

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