第2話 掟

 レネルは暗い門の向こうへ声を掛けた。


「誰かいるのか? 俺はレネル! いるなら……返事をしてくれ!」


 すると――返ってきた声は女性の穏やかなものであった。


『初めまして、レネル。私はアルティミシア』


 レネルにとって、初めて出会う外の人間。姿は見えなくとも、その柔和な声だけでアルティミシアが優しく高貴な女性であることを理解出来た。彼女は『聖都』と呼ばれる大きな街の出身であり、魔術の研究をしているのだと教えてくれた。


「そっか……やっぱり外はすごいんだな! 俺、町の外で冒険するのが夢なんだ!」


 そんなレネルの言葉に、アルティミシアは少しだけ間を置いて尋ねた。


『……レネルは、温かいスープは好きですか?』


 質問の意図がレネルにはわからなかったが、もちろん好きだと返す。

 すると、アルティミシアは小さな声を上げて泣き出した。


『ごめんなさい。ただ、レネルに会えたことが嬉しいのです』


 レネルは少し戸惑ったが、その言葉は彼にとっても嬉しいものだった。


 少しだけ打ち解けた後、アルティミシアはレネルが外に出るための協力をしてくれると言う。

 そのために、レネルがやらなくてはいけないことがあると教えられる。


 ――それは、町長から町外れの鐘塔に行く許可を得ること。


 それはさらに禁忌を破ることになるが、それでもレネルはアルティミシアの言葉を信じて行動を始める――。



 しかし、町長や大人たちはレネルが塔に行くことを頑なに許さない。それどころか、カレンやルド、リーリカたち同級生も反対をした。


 レネルはそれが悔しかった。だから家を抜け出し、その夜に勝手に塔へ行くことを決めた。

 だが――姉のスフレに見つかってしまう。家へ連れ戻されたレネルは、優しい姉から初めて叩かれる。二度と“勝手に”掟を破らないでと涙ながらに懇願するスフレ。姉のそんな顔を初めて見たレネルは謝罪し、自分は一体どうすべきなのか悩む――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る