第8話

「姉さん好きな童話ってある?」

「北風と太陽ね。とてもいい教訓になるもの」

「例えば?」

「んー、身近な話でいえば、自分の好きな物を押し付けてくる人は嫌だからブロックするでしょ?でも、押し付けてこなくてもやんわりと面白いよーとか言われると気になったりするじゃない」

「あー、なるほどね。僕が思ったのは芸能界かな。事務所のゴリ押しとかでやたら出てくる女優とかモデル、アイドル、芸人なんかより、ちらっと映る程度の芸能人の方が気になったりするもんね」

「それもいい例えね。やたら押し付けても人は拒絶するだけ。圧力をかけるんじゃなくてただただそこで輝いているものに惹かれるのは当たり前のことよ」

「北風と太陽…役に立つねー。無理やりじゃなくてじわじわと、か。僕も人に押し付けすぎないように気をつけよ」

「一は何か好きな童話ないの?」

「んー、じゃあ僕は舌切り雀とかにしてみようかな」

「おー、日本昔ばなしね」

「大きい箱より小さい箱の方がいいって、欲張るなってことだもんね。これもある意味学べるよ」

「そうね。賭け事とかに言えるのかしら。大物を狙うと損するわよってことかしらね」

「うんうん」

「私は酸っぱいぶどうとかも好きね。これは人間の心理のひとつだけれど、手に入らなかったものは大したことがなかったんだと言って諦める。僻みとかにならないように気をつけたいところね」

「んー、童話じゃないけど中国の昔話とかも役に立つ時あるよね」

「中国の話で行くと、漁夫の利なんかはよく使えそうね。2人で争っていたものを第三者が持って行ってしまう。現実にはよくありそうなものだわ」

「そうだね。やー、久々に昔話でも読み直すかなぁ」

「まぁ、役に立つしいい事だと思うわよ。そういえば中国といえば一は性善説と性悪説どっち派?」

「性悪説じゃない?ここはもう姉さんに洗脳されてる気がするけど」

「当たり前でしょう。人は生まれながらにして悪よ。でなければ争いや醜い嫉妬や妬みなど生まれるはずがないじゃない。性善説の成長していく上で悪になっていく、というのもあながち間違ってはないのかもしれないけれど、人は元々独占欲の塊なんだから」

「姉さん相変わらず悪口だけは達者だよね」

「悪口というか思ったことを言っているだけよ。人間は悪なの。究極の世界平和は人間が滅ぶことなの」

「姉さんの口癖第1位、世界平和は人間が滅ぶこと」

「そう。どんな生物を見ても同じ種で争う時は異性を取り合う時や獲物を取り合う時程度。負けたからと言って配下にすることもしない。けれど人間は直ぐに争う上に負ければ配下。これ以上の悪がどこにいるのよ」

「確かに、言われてみれば…」

「他人の気持ちになってみなさいとよく言うけれど、他の動物の気持ちになれば環境破壊、住居は奪うし、簡単に捕まえる。本人たちは私たちの生活圏を犯すことも無く過ごしているというのに理不尽でしょうね」

「姉さんの人間に対する憎悪がどこから来てるのか怖いわ…」

「…少し話しすぎたわね。この辺でやめておくわ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る