第3話
「姉さん、過去って消えたらいいと思わない?」
「唐突ね」
「だってさ、罪や間違いを犯した人には一生それが付きまとうんでしょ。どんなに正しく更生しても人からうわさはされるんだろうし、職にだってつけないかもしれない」
「一は相変わらず優しいわね。そうね、私も過去はいらないわ。人は過去に縛られすぎだもの」
「例えば?」
「就職にしたってそう。履歴書。この人が一体どれだけ正しいマニュアル通りの人生を歩んできたか見てるのよ。ちょっとでもレールから外れていれば落とすのよ。悪趣味よね」
「わー、悪趣味」
「棒読みね」
「後さ、過去のトラウマのせいで出来るはずのことが出来ないって人もいるよね」
「そうね、そういう人のためにも過去は消してあげたいわね。ただ、一人一人の過去に関しては消してもいいけれど、歴史自体は消したくないわね」
「まあね。じゃないと争いとか繰り返しそうだもんね」
「まあ、歴史がわかってても繰り返すことが多いんだけどね」
「昔の美術品とかきれいだもんね」
「そうね」
「で、姉さん。話戻すけど過去の自分を忘れて旅に出たいってなかなか実行できなくない?」
「そうね、やりたくても金銭的な問題とかいろいろあるものね。あなた、旅に出たいの?」
「いや、そうじゃないよ。何となく思っただけ」
「過去ってなかなか消えないものね。階級の差別、男尊女卑、未だにこう言ったものは残ってるもの。もっと寛大になればいいのにね。間違いを犯してもやり直すチャンスだったり、過去に学校に行っていなかったことがあったとしても今はちがうかもしれない」
「だよね」
「大体、今を生きてるくせに、今いる人を見ないで過去のその人を見て何が楽しいのかしら。そのくせ、『昔の方が良かった』とか『現実を見ろ』とか言ってることが矛盾してるのよ」
「確かに。結局どっちなんだろうね」
「確かに過去から未来を予想することは悪いことじゃない。けど、ずっと過去で止まってるままのものなんてこの世にはないわ」
「結局さ、従順な人が欲しいんだろうね。無駄な野心とか持ってなくてただただ自分に従ってくれる人」
「そうなのかしらね、なのに『アイデンティティを持て』とか言うんだからほんと人間って変な生き物よね」
「ほんとだよ」
「結局どうしてほしいのか全く分からないじゃない」
「ほんとそれ」
「姉さんはアイデンティティある?」
「…そりゃあるでしょうね。でもまあ、社会に出れば不要な物だからないことにして通すけど」
「せっかく持ってる個性なのに否定されるって嫌な社会」
「文句言ったってしょうがないでしょ。まあ、こんな社会だからストレスもたまるんでしょうけど」
「そうだね…」
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