幕間6

 怪盗とは奇術師マジシャンに似ている。

 右手に観衆の意識を集めた隙に、左手でタネを仕込む。


 僅かな時間で良い、コツは人の『視線』をコントロールすること。

 あらゆる手段で視線を釘付けにする。

 隙は見付けるものではなく、作るものだ。


 一時間ごとに鳴る古時計然り。

 微量の爆薬を仕掛けた消化器然り。

 照明やキャットウォーク下に仕込んだ爆竹の遠隔操作然り。


 クロガネ探偵事務所と白野探偵社が共同で警備に当たる以上、両者をよく知る清水刑事が担当に就くことは事前に調査済み。


 清水刑事のパーソナリティ上、怪盗の制圧役としてクロガネはまさに適任であると考えるし、白野探偵社の面子も考えるとすれば――


 ――警察と警備の邪魔にならず、探偵たちを特別展示室に最も近い位置に配置するなど容易に想像できる。


 最大の懸念は安藤美優の『眼』だったが、照明の遠隔操作による撹乱と爆竹が良い感じに彼女の意識を逸らせたようだ。

 正直、この点だけは殆ど運任せだっただけに、上手くいって良かった。


 何はともあれ、特別展示室への侵入は成功。

 次は展示室のトラップを掻い潜り、をするだけだ。

 そして標的を盗み、脱出する。


 怪盗完了まで、あと少しだ。

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