第2話 イグニション

日本列島が強烈な寒波に見舞われるこの日、

俺は――黒い革ジャンに、革パンツ、棘付き肩パッドと世紀末プロテクターをキメて――ラーメンを食いに行っていた。

ニンニクマシマシヤサイ少なめカラメ……不健康の呪文を詠唱し獣のように貪り食ってきたのだ。

ラーメン店を出ると完全に雪模様、店内では汗が出るほど暑かったのに一気に冷える。

俺は湿ってヨレヨレになったモヒカンにクシを通す。ピンと張り詰める俺のモヒカン。

俺は近所のパーキングまで小走りで急ぐ。


駐車料金を払い、バイクを引っ込んだ枕木からなんとかしてひっぱり出す。

ELIMINATOR750――排除するもの――極太タイヤのドラッグマシン、漆黒の大型バイク――『ナナハン』、俺の相棒だ。

シートに雪は積もっているがエンジンはまだ熱く、触れた雪は瞬時に溶けてしまう。

冷気で固くなったグローブをなんとか手にはめ、自身のモヒカンを潰さぬよう丁寧に、特注のモヒカン付きフルフェイスヘルメットを被る。さっき食べたニンニクのニオイがする。

ポケットからキーを出し、刺し、回す。ON――ランプが点灯する。

俺はエリミネーターに跨り、サイドスタンドを掻き上げ、スターターを押した。


キュイイ!ギュイィイイイイイイイイイン!!ギュオオオオオオオン!!


アクセル! 空ぶかし。エンジンに陽炎が立つ。

発進準備完了だ。クラッチを握り、ギアを1速に入れる。

アクセルを回し、クラッチをゆっくり繋ぎ――


キュィイイン!ギュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


一気に法定速度まで加速する!

雪道はよく滑る。安全運転だ!


雪がしんしんと降り注ぐ。

ヘルメットシールドの雪をこそぐ。

しかし、ものすごい雪で視界が真っ白だ。

周りの音が聞こえなくなる。

跨ったエンジンの音と俺の呼吸音しか聞こえなくなる。

何も見えない。身体が冷たい……感覚が無くなる。

止まろうとしても手が、足が勝手に動く。

2、3、4速――5速、6速、5速、6速、5速、6速。

回転数15万――スピードメーターが振り切れる!


ギュィイイイイイイイイイイイイイイ!!ギュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!


――光だ。

白い背景に小さな光が……バイクはそこに向かっている!

その光はどんどん大きくなり、俺を包んでそして――!


ギュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!ギュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!


視界が! 晴れる!

それは――巨大な真夜中の月!


「ヒャッハアアアアアアアアアアア!!!!」


俺は叫んだ!!

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