02

 彼が、仕事に行った。

 死にたがっている心の動きと、何かの役に立ちたいという欲求がぶつかって、常に不安定な様相になる。そんな人間だった。


「いつ。気付くかな」


 その心の動きは、恋愛感情というんだ。覚えておけ。

 彼にそう言えない自分も、ここにいる。

 死に向かって躊躇なく突っ込んでいく人間。それも、自分のためではなく、誰かのために。好きになるのは自然なことだった。ここにいるのが自分ではなかったとしても、好きになったであろう人間性。ただ、恋愛を知らなかった。ピュアで、まっすぐな献身。自分がふれて、愛を共有することで、それを崩してしまうのがこわかった。だから、踏み出せない。


「わたしも、似たようなものか」


 好きな人間に、何も言い出せない。学生の初恋みたいな、常識を知らない人間同士のばかみたいな駆け引き。

 彼が、いつ死ぬかも分からないのに。

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