第十二話

差し向かいで湯船に浸かる。

この窮屈感を続ける算段を必死にしながら。


「やっぱり、無理。

 今はあなたの居ない世界は考えられない。

 だから時間をください。

『あなたが俺に飽きて捨てたくなるまで』

      又は

『俺が女子を抱きたくなるまで』

という期限付きで」


「そんな主観的で曖昧な期限は納得できないし、僕は今すぐきみを捨てたい」


「はい、そういうの禁止。自覚ないんだな、嘘つくと鼻ピクするの」


「そ、そんな癖はない!」

仰る通りなのに否定しながらも鼻を隠す。

可愛いぞ。


「お願いします、互いに本音でぶつかる時間を今度は俺に奪わせてください」


「…………、…………、…………」


「無言の了承、と取るぞ、いいんだよな。

 ならば………仲直りのハグだ!」

痛みを忘れるほどの勢いで湯船を波立たせ、あなたを無理矢理抱き締める。


「我が国が誇る青春漫画の様に、暗い顔を吹き飛ばすほど背中バンバン叩き合って元鞘に戻るんだ、今まで通りの笑顔で!」

分かった?

はい、ばしばしばしっ!


「ちょ、痛い!やり過ぎにも程がある!

 もうやってられないよ、湯中りするし僕は先に出る。…………手が必要なら言って」


「ありがとう、温まったら声掛ける」


 ◆  ◆  


浴室のドアを隔てて。


きみが丁寧に畳むバスタオル。

溢れる様々な感情を優しく拭ってくれる。

年月を経るにつれ弱く頑なになる自分。

それに対して強く柔くなるきみ。

いつも救われてばかりだ。

やはりきみには敵わない。


我ながら稚拙な提案。

あなたとの繋がりを保てるならばどんな努力も惜しまない。何だってする。

そう決めたから。

あなたに捨てられるまでは全力で愛し抜く。

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