魂の実験・江戸転生
「助手くん、ちょっと」
就業時間終了のベルが鳴った直後。私はライデン教授に呼び止められた。
「今日は勘弁してください。観たいドラマがあるんです」
「あー、そんなこと言ってたな。ルンバの娘だったか」
「今日最終回なんです!絶対にリアルタイムで観たいんです!」
「犯人は主人公の彼氏だぞ」
「……はい?」
まさかの発言に耳を疑った。この教授は何を言っているのか。
「あのドラマ、原作が小説なんだが、かなり原作に忠実だし、たまたま予告みたけど犯人は彼氏で確定だしアイツ死ぬぞ」
「………………さいってぇ」
ここまで酷いネタバレを喰らったことが今まであっただろうか。
「さて、今後の展開が分かったんだ。時間が出来ただろ。実験に参加しろ」
まさに外道。実験に付き合わせる為だけに私はネタバレを喰らったのだ。外身だけ天使の中身が悪魔だ。
「ネタバレの対価を頂きたいんですけど!?」
「はいはい、ボーナスが上がるように言っておく」
こうなってはどう足掻いても実験に付き合わされるパターンだ。私は両手を宙に上げて降参した。
「頼みますよ。……それで、今日はどんな実験をするつもりなんです?前回やったスライムの実験の片付けも終わってないんですよ?」
「スライムの実験なんてやってないぞ」
「人体がどうのこうのって言う――」
「人体錬成の実験だ!スライムの実験ではない!」
結局、スライム――人体錬成の実験により生成されたバケツの中身はスライム状の物質が出来上がっていた。そんな成果物はライデン教授のゴネにより体育館で未だに放置されている。早々に撤去しようと思っているのだが、ライデン教授が首を縦に振らないので教職員からの苦情が何故か私に来ているのだ。
「もしかしたら明日、人体錬成に成功しているかもしれないだろ!」
「あり得ません!遅くとも、今週中には片付けますからね!」
「わかったよ。――さて、気を取り直して実験といこう」
ライデン教授は机の引き出しを開けてガチャガチャと何かを探し始めた。
「何してるんですか?」
「鍵を探してる……あった。ちょっと待ってろ」
「はい」
鍵を手にしたライデン教授は部屋を出てどこかへ行ってしまった。また、ろくでもない実験をしょうとしているのは目に見えている。
しばらくすると、長方形の木箱を引きずって部屋に戻って来た。
「何ですかそれ?」
「死体」
「死体!?何を持ってきてるんですか!!!」
「医学部の地下倉庫から拝借してきた。ちゃんと許可は貰ってるぞ」
「いや、許可とかそういう問題じゃなくて……」
「さぁ!今日の実験を始めるとしよう。助手くん、ビデオカメラを準備したまえ」
「……はい」
いつもの棚からビデオカメラと三脚を取り出す。
「それで、何の実験するんですか」
「死者蘇生だ」
「それこの前のヤツじゃないですか」
「違う!前回のは人体錬成だ。ゼロからイチを作るものだ。今回はイチからニを作るもんだ」
「良く分からないけどわかりました。それで、今回はどんなところから発想を得たんですか?」
「漫画だ」
「帰っていいですか?」
前回も漫画。今回も漫画と来た。失敗するのは目に見えてるじゃないか。
「まぁ、そんなこと言うな。録画を開始しろ」
「はいはい。――開始しました」
私はライデン教授に呆れつつカメラの録画ボタンを押した。
「さて、人類の皆々様。私はライデンと申します。この度は私の実験をご覧になって頂きありがとうございます」
この挨拶はどこに向けて言っているのか。やっぱり、YouTubeに動画をあげているのではなかろうか。
「今日の実験はこの死体を生き返らせる実験です」
そう言ってライデン教授は箱の蓋を開ける。
「ひっ!」
「こら、私の問いかけ無しに声を上げるな助手くん」
「すみません」
箱の中身は骸骨だった。肉体付きの死体よりかは百倍マシだが、驚きのあまり、つい声が出てしまった。
「さて、これからこのホネホネ君を受肉させる。彼は江戸時代の初期に亡くなったそうだ。色々あって医学部の地下に保管されていたが、医学部の部長にちょいと耳打ちしたらタダで貰えたものだ」
この人は医学部の部長にどんなことを言って骸を貰って来たのだろうか。医学部の部長と言えば気が弱そうだが物凄く人の良さそうな人だ。まさか脅しでもしたわけじゃなかろうか。
「江戸時代に生きた人間を現世へと生き返らせる――略して
「ライデン教授、あなた一線を越えるって言葉知ってますか?」
「別にいいだろう。いまや、YouTubeで何とか丸が料理してエドテンエドテン連呼してるじゃないか」
「そうですけど――いやそうじゃないんですよ…………」
もう救いようがない。
「ほら、実験を開始するぞ。ちゃんと撮ってるのか?」
「撮ってます。バッチリですよ」
「よし。ではまず前回の実験で生成したこの物体を箱に投入する」
「ちょっと、何してるんですか?」
「前回の実験に大きな失敗があった。それを補う為の今回の実験なんだ」
「大きな失敗というか、そもそも成功してないんでけどね」
「人体錬成したのはいいが、ガワが無かったんだ。――言い方を変えよう。中身を作ったのは良いが外身を作り忘れていたというわけなんだ」
つまり、中身は前回作ったスライムで、外身が医学部から持ってきた骸と言いたいのだ。
ライデン教授は部屋を出ると、廊下に置いてあったらしい例のバケツを箱の中に傾けてスライムで中を満たした。
「これで明日には江戸転生の完成だ!」
次の日、箱の蓋が勝手に開いて死者蘇生に成功!……なんてことはなく、実験はいつものように失敗に終わったのだった。
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