第4話
朝から焼き魚が食べたいという旦那に多少腹を立てつつ朝ご飯の準備をする。
私がこの家に来たのは半年前、彼とは数年前から付き合ってはいたものの彼が奥さんと離婚しないから私が彼の妻になることが出来なかった。
そんな時に都合よく奥さんが死んでくれたから晴れて彼の妻になることができたわけだけど、まさか朝から掃除が大変になる料理を作らされるとは。早速嫌なところが見つかってしまった。専業主婦とはいえ仕事は増やしたくない私にとっては焼き魚や揚げ物などはできれば避けたいものだがこのくらいは普通なんだろうか。今まで同棲したことがない私にはわからない。
そろそろ沙月ちゃんが起きてくる頃だ。
「おはようございます。」
「おはよう沙月ちゃん。昨日はよく眠れた?」
「はい。しっかり寝ました。父に怒られたのでイライラしましたが寝たらスッキリしました。」
「智さんは沙月ちゃんのことを心配してるのよ?そんな言い方したらダメよ。」
「あの人は心配なんかしてませんよ。世間体ばっかり気にしてるだけのつまらないひとですから。」
この子は何様なんだろうか。自分の稼いだお金で生きてるはけでもないのに、なんでそんなことが言えるのだろうか。
「今は鬱陶しいと思うかもしれないけど、沙月ちゃんたちが智さんのおかげで学校に通えてるんだからあんまり智さんの悪口は言っちゃダメよ。」
「そうかもしれませんが、高校生が22時に帰ってくるのなんて大して心配することじゃないと思います。」
心配してもらえるだけでもありがたいってことがこの子にはわからないのだろう。
「女の子だから余計に心配なのよ。それに、全く心配されないよりはましでしょ?」
「そうですね今はそう思っておきます。」
(今は)ってことはいつか感謝しなくなるのだろう。
「そろそろ学校に行ってきますね。」
「朝ごはんは食べないの?」
「お腹空いてないので今日は食べないです。用意してもらったのにごめんなさい。」
「お腹が空いてなくても少しくらいは食べた方がいんじゃないかしら。」
「本当に大丈夫です。お腹が空いてしまった時のためにおにぎり作って持っていきますね。」
本当にお腹が空いてないだけだろうか。私の作った料理を食べたくないと思っておるんじゃないだろうか。そんなこと考えても仕方ないか。あとは愛菜ちゃんだけか。今日も起きてくるのは家を出る10分前くらいだろうか。
いつも少女漫画のようにパンを咥えながら身支度をしているあの子にはもう少し時間に余裕を持って行動してほしいと思うけれど遅刻したりしてるわけでもないからそんなに気にしなくてもいいか。
「おはようございまーす!!」
「愛菜ちゃんやっと起きてきたのね」
「もしや瑞希さん怒ってます?」
「怒ってないけど愛菜ちゃんはもう少し時間に余裕を持って行動した方がいいとは思うわ。」
「瑞希さんにまでそんなこと言われたら私悲しすぎて死んじゃうよぉ。」
「そんなかわいこぶったってダメよ。いつまでもギリギリの生活してたら何か大きなミスしちゃうかもしれないわよ?」
「脅しですかぁ!瑞希さんが怖いよぉ。」
「早く学校に行った方がいいわよ。遅刻したら沙月ちゃんや智さんに怒られちゃうかもよ?」
「確かに!じゃあ瑞希さん!行ってくるね!」
「いってらっしゃい。」
ガチャン
ドアの閉まる音がした。ようやく一人になれた。とは言っても家事はたくさんあるからこなしていこう。
まずは部屋の掃除をしよう。
リビングの掃除にとりかかる。次は2回の夫婦の寝室次いで愛菜ちゃんの部屋と沙月ちゃんの部屋。やるなとは言われてないし怒られることはないだろう。
愛菜ちゃんの部屋には化粧品がたくさんあるなぁ。高校生でここまで美容に気を使うなんて偉いなぁ。同じくらい勉強も頑張ってほしいけど。
沙月ちゃんの部屋には本がたくさんあるなぁ。さすが智さんの娘って感じね。
姉妹でここまで差があるのは何故だろう。母親に問題があったのだろうか。
掃除を入念にやっていたらお昼になってしまった、買い物に行かなければならない。
さて、買い物も終わったし家に帰ろう。車で家に向かっている途中見覚えのある人が目に入った。あれは愛菜ちゃんだろう。二人で歩いているけれど隣にいるのは誰だろう。友達とかではなさそうだけどもしかして愛菜ちゃんってパパ活とかいうやつをしてるのかしら。しばらく様子を見てみよう。
夜ご飯のっ準備をしつつ家族の帰りを待つ。一番に帰ってきたのはいつも通り愛菜ちゃんだ。
「ただいま瑞希さん!」
「お帰りなさい愛菜ちゃんご飯できてるから手を洗っておいで。」
「はーい。ところで今日の晩ご飯はなんですか?」
「カレーよ。」
「いいですねぇカレー、みんなの大好物ですよ!」
「そうね。私はカレーよりもシチューの方が好きだけど。」
「えー、カレーの方がいいよー。」
「まぁそんなに重要なことじゃないからこんなことで議論せずに早く手を洗っておいで。」
愛菜ちゃんが子供のような笑顔を浮かべながら美味しそうにご飯を食べているところを見ると作った甲斐があるなと思える。
そんなことを思っていると智さんが帰ってきた。
「ただいま瑞希。」
「お帰りなさい。」
「沙月は今日も帰っていないのか。」
智さんが少し不機嫌になる。
「そうなのよ。成績はいいから図書館で勉強でもしてるのかしらね。」
「そうだとしてもこんな時間まで図書館で勉強する必要はないだろう。」
「こんな時間ってまだ19時じゃない。高校生なんだからもう少し自由にさせてあげてもいいと思いますよ。」
「瑞希は本当の母親じゃないからそんなことが言えるんじゃないのか?」
「それはつまり私があの子たちのことを愛していないと言ってるの?」
「そういうわけじゃないが父親としてあいつらには立派な人間になってほしいと思ってるんだ。」
「だったら愛菜ちゃんのことを心配した方がいいんじゃないかしら。」
「あいつはあれでいいんだよ。」
「愛菜ちゃんには期待してないってこと?」
「まぁそういうことだ。」
「そう。」
どうやらこの人は娘たちのことを愛していないらしい。少なくとも私よりは。
リビングにいる愛菜ちゃんに聞こえてないといいけど。
沙月ちゃんは昨日と同じくらいの時間に帰ってきた。そして昨日と同じように智さんに怒られる。あからさまに嫌そうな態度をとりながら夜ご飯を食べてすぐに自分の部屋へと消えていった。
「本当にあいつは何を考えてるのか分からんな。」
「そりゃあ家族とはいえ同じ人間でもないんだから沙月ちゃんが、何を考えてるのかなんて完全に理解できるのは沙月ちゃん本人だけよ。」
「そうだな。あいつまで愛菜みたいにならなければいいんだが。」
「きっと大丈夫よ。」
「そうだといいんだが。」
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