第2話
「昨日の午前5時ごろに、男性が横断歩道で血を流して死んでいると通報があり、警察が駆けつけた所男性は刃物で何度も刺されており、犯人は、男性のことを恨んでいる者である通して、捜査を開始しました。」
テレビからいつものようにニュースが流れている。遠いところで起こった事件なら特別気に留めることもないけど、私の住んでいる町で起こってしまったので無視をする訳にもいかないか。
「お父さん、近くで殺人事件が起こったらしいからお父さんもころされないようにね。」
冗談で言ったつもりだけど勘違いされてないかな。
「愛菜に心配されるほど父さんはぼーっとしてないし、柔道もやってたから大丈夫さ。」
「案外さっきの事件の被害者みたいに、簡単に殺されちゃうかもよ」
「沙月にまでそんなこと言われたら父さん悲しくて泣いちゃいそうだよ。」
「ご自由にどうぞ。」
私は、この男が死んでもきっと何も思わないのだろう。だってこいつはあの時笑っていたんだから。
7年前私のお母さんは交通事故で死んでしまった。父はお母さんが死んだ翌年に瑞希という女と再婚し、今はあの人が私たちの母親ということになっているが、私はまだあの人のことを母親だと思うことができない。姉の愛菜はすでに新しい母親のことを気に入っているみたいだけど優しいからだろうか。
私はあの人の優しさを信じることができない。あの人は何か私たちに隠している気がする。
「お前たちそろそろ家を出たほうがいんじゃないか。」
「父さんはそろそろ仕事に行くから戸締りはちゃんとしといてくれよ。」
「はーい。行ってらっしゃーい。」
姉が眠そうな声を出しながら言った。
「行ってらっしゃい。」姉に続いて私も父に応える。
「おう。お前たち、しっかり勉強してこいよ。」
余計な一言を添えて父は家を出て行った。
「おねぇちゃん、私もそろそろ出るから鍵閉めといて。」
「了解です、沙月隊長!」
姉がいつものようにふざけた口調で言ったことにいちいち反応することにうんざりしている私は、姉のことを無視しつつ家を出た。
家を出てすぐにある坂を下ると例の事件の跡が生々しく残っている。テレビドラマでよく見る黄色のテープを避けて学校へと進んでいく。
「やぁ沙月ちゃん!物騒なことがあっても学校というのは休みにならんのかねぇ。」
「私は怖くて今夜から眠れない気がするよぉ。」突然声をかけてきてすぐにバレる嘘ついたこの女子は私の友人の芽衣である。いつもなんとなく一緒に登校しているこいつとは小学生の頃からの腐れ縁だ。だらだらと歩いていると私たちの通っている高校が見えてきた。家から近いところに学校があるため朝にバタバタすることはないはずなのに姉はいつもバタバタしているし、遅刻ギリギリに登校している。本人曰く、「間に合っていることに変わりはないので大丈夫であります!」だそうだ。このまま大人になって大丈夫ななのかと心配になるが姉はなんとかなるんじゃないかと思ってしまう自分がいるのはきっとこれまで何も問題を起こしていないからだろう。
芽衣とくだらない話をしていたら学校に着いたので靴をスリッパに履き替えて、自分のクラスに移動する。芽衣とはクラスが違うので途中で別れてようやくゆっくりできる。教室には仲のいい友達というのはいないのでいつも本を読んで過ごしている私は、今日もお気に入りのミステリー小説を読んでいる。肝試しに行った男女が村の中で恐ろしい体験をするというものだ。
チャイムが鳴ってホームルームが始まって担任の岩瀬が出欠を確認し始めた。
「佐々木」
「はーい」
「大城」
「はい」
「今田」
「うぃーっす」
お調子者の今田がいつものようにテキトウに返事をしているが、彼は例のことを怖いと思っていないのだろうか。それとも私みたいに興味がないだけなんだろうか。
ホームルームが終わり何事もなく授業を受けて1日が終わっていった。
普通ならこの後部活に行くのだろうが、すでに部活をやめている私は今から一人で家に帰る。そして、学校のおルールではやっていけないことになっているバイトに行ってお小遣いを稼ぐとしよう。
「お帰りなさい。」瑞希さんが言った。
「ただいま。」素っ気なく応える私に瑞希さんは怒るわけでもなくいつものように笑っていた。
バイトの準備をして、リビングに向かうと瑞希さんが夕食の準備をしていた。
「沙月ちゃん、どこかいくの?」
「バイトに行ってくるので夜ご飯はみんなで食べといてください。」
「そう。」
寂しそうに言っているがほんとにそうなんだろうか。私にとっては興味のないことなので気にせずにバイトに行くことにした。
先生に見つかったら面倒なことになるから学校から離れたところにある飲食店でバイトをしているので、今のところは誰にも見つかっていないし、友達がいない私がバイトをしてることを知っているのは瑞希さんと芽衣くらいだろう。
バイトを終えて家に帰ると、父が夕食を食べているところだった。姉は自室で動画でも観ているのだろう。
「沙月、こんな時間まで何してたんだ。」
「勉強はちゃんとしてるんだろうな?」
「どこで何してようが私の勝手でしょ?」
「父さんはお前のことを心配してるんだぞ。」
「だいたい親に向かってそんな口の聞き方をするんじゃない。」
わかりやすく怒っている父の対応が面倒なので反省する気はないが、謝ってはおこう。
「すいませんでした。」
「お前が無事に帰ってきただけでもマシだが、勉強はちゃんとしてくれよ?」
「父さんはお前たちに期待してるんだからな。」
どうせ心配なんてしてないくせに、ほんとは世間体を気にしているんだろう。
だいたい高校生が、22時に帰ってくることなんて心配するほどのことじゃないんじゃないか?それに私は父のために生きているわけじゃない。
食事を終えて、自室に行き例の計画をじっくり立てるとしよう。
このことは誰にもバレるわけにはいかない。学校のやつにも、家族にも、秘密にしなければ。私があんなことをしてるなんて、絶対に誰にもバレたくない。
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